XX野郎
「――それでね、それでね! ……あれは……?」
ジークら三人が死体の山を眺めながら、茶を飲み談笑をしていると、城の外の大通りに、幟のようなものが見えた。
上から順に白、黒、赤……あれはトリスタン王国の国旗だ。
「……あれは我が国の軍隊です」
「ああ、紙で見た。
未だに馬を使ってる……確か、トリスタン騎士団だったか。
まぁ、それはいいとして、来るのが遅すぎやしないか?」
「ええ……本当に……団長様は王家に忠誠を誓っていると言っていましたのに……」
「騎士様より先に、初対面の私達が助けるなんてね……」
急ぎ足で城の中へと入って来た騎士団は、異様な光景に、皆が口を押さえた。
三人は騎士団とやらを城の上からぼうっと眺めている。
やがて、皆より一足先に我に返った一際背の高い高貴そうな男が、城の上の女王を信じられないという表情で見上げ怒号を上げた。
「姫、これはどういうことですか!? 説明を!」
「……あの人が団長、メルド団長です。
私の親代わりを自称する人でもあります。
……何時まで私を姫扱いするんでしょうか……」
シルヴィアは、うんざりとした表情でため息をつく。
「その……ジークさんは戦争に協力してもらえるのですよね?
でしたら、私は何もしてくれなかったあの人たちの代わりに、総指揮権をジークさんにお譲りしたいのですが……」
「騎士団の方々をねぇ……。
兵を教導して、運用するのは、何度もやって来たことだが……果たして今回は、どうなるかな。
とりあえず、その件はまた今度だ」
ジークは騎士団を見降ろす。
流石に剣で戦っているとまではいかないが、かなり旧式の銃だ。周辺国も似たり寄ったりだが。
怒鳴り散らしているメルド団長についてこんなことを思った。
(あいつ……童貞だな……)
◇
「どういうことです!? 一体、何があったというのです!?」
団長とその忠実な部下は、城から下りて来たシルヴィアを囲むようにして怒鳴りつける。
つい先日まで、シルヴィアはこうされてしまうと涙目になり、頭が真っ白になり言いなりになってしまっていたが、今はもう違う。
「平和が要らないとおっしゃられたので、取り上げただけです。
何か問題でも? 」
「……っ! 血迷われたか、愚かな、愚かだ!
そんな風に育てた覚えはありませんぞ!」
「育てられたこともありませんよ……何を言っているのです?
私があれだけ懇願しても、国民との対話をするのが責務だと言い、自分は遠方に逃げ隠れていたお人が。
それに……女王に向かってなんて口を聞いているのですか?
頭が高い、平伏なさい」
「姫……っ!」
団長は蛮行を悔いる様子もない変わり果てたシルヴィアに思わず、手のひらを振り下ろそうとするが、その手はジークによって止められる。
「ぐっ……! 誰だ、貴様!?」
「有難うございます、ジークさん」
「当然のことをしたまでだ。
騎士を名乗っておいて、少女に大勢で寄ってたかって……強姦魔の間違いじゃないのか?
なぁ、ジェントルマン?」
「き、貴様ぁ……一体何者だ!?」
「私からご紹介いたします。
ジーク・アルトさんとエリー・トストさん……。
私の命の恩人にして……お友達です」
ジークは何を恥ずかしいことをと薄く笑い、エリーは幸せな笑みを浮かべ、シルヴィアに抱き着く。
微笑ましい光景だが、周りは死体累々だ。どちらかというと、狂気の地獄絵図だ。
「……姫、目を覚ましてください!
どうする気です、この騒ぎすぐに他国に伝わるでしょう。
あの忌まわしき伝染病、そして世界大戦の爪痕は未だに残っている。
他国はどんな手段を使っても、国力を取り戻したいはずだ。
あなたは他国に人道目的での軍事介入の大義名分を与えたのだぞ!」
「ええ、知ってます。
だから、この国の最高権力者として命令を下します。
命を懸けて、祖国を死守せよ」
「なっ!? 貴方は何を言っているのだ!? 何があったのだ!?
……貴様、ジーク・アルト……! 貴様が姫を唆したのだな!?」
「ああ。
でも、ほんの少しだ、ちょっとだけだ」
「決断を下したのは、私ですよ?」
「どっちでもいいじゃない」
この殺伐とした空気の方が間違っていると言わんばかりに、楽しげに談笑を始める三人。
団長は耐えられず、姫の方へと大股で歩み寄った。
「姫、その命令は受けられません!
確かに我らの責務は国を護ることだ。
だが、独裁者と化した姫を護る為ではない!」
「獣から姫君を護るのは、騎士団の仕事じゃないのか?
そもそも、この中で一度でも幼気なお姫様のナイトになれていた奴はいるのか?」
再び、その間に入ったのもジークだった。
「俺は隣で見てたから知ってたぞ。
そこで転がっている連中は皆寄ってたかって、お前らの姫君を殺そうとしてた。
で、貴様らは呑気にお散歩か?
シルヴィアがこんな目にあっていたのを知らんとは言い張るつもりか?」
「……違う! 我々は隣国を常に警戒しているのだ。
それに……必要なのは暴力ではなく心を開いた対話だ!
我々が撃つべきものは、自国民ではない!」
「心を開いた結果、シルヴィアがやりたいようにやったのがこの結果だ。
お前らも自国民から嫌われているのに?
俺は見たぞ、お前らの兵舎に税金泥棒と書かれた落書きを。
可哀そうだと思ったが……主を護れない、その覚悟も出来ない騎士団を名乗る素人集団アマチュアにはお似合いのお言葉だったな」
今にも怒りで爆発しそうになる団長。
だが、ジークは彼のことは殆ど眼中にない。
彼の視線は騎士団の面々の方を向いている。
彼らが何を思っているのか、誰を想っているのか。
と、突然団長はジークに向かって手袋と剣を投げつけた。
「決闘だ! ……決闘で決める!
姫、まだ間に合う!
貴女はこの男にたぶらかされているのです!
この男が無様に敗北するところを見れば……!」
団長は必死に熱弁しているが、シルヴィアは殆ど無視していた。
それよりも気になる、ジークは如何にして彼らを配下に付けるのか。
この決闘に正々堂々と勝利し自らの力量を示すのか。
しかし、それでは団長に心酔している兵からの強い反感を買う、分裂だ。
シルヴィアの名の下にただ単純に命令するだけか、
残念ながら、今この状況ではそれは出来そうにない。
それともこの状況で皆を団結させるような演説をするのか。
これだろうか……シルヴィアは一人の指導者として、興味があった。
が、ジークは屈みこみ、団長の手袋を拾う……と見せかけ、奇襲的に団長を背負い投げした。
「ぐぁぁぁっ! ……貴様、卑怯だぞ――!?」
団長の抗議の声は口に押し込まれた拳銃によって、喉元に押し返される。
「黙れ、何が決闘だ。
勝手に戦争を綺麗ごとにするな、狂気が戦争を美しくするんだ。
何が周辺国だ。
童貞野郎が、こんな近くに、ずっと前から漂っている戦争の匂いがまだ分からないか?
この戦争童貞野郎が」
シルヴィアはこの状況とジークの放った言葉の意味は分からなかった。
だが、卑猥な単語は理解できてしまい、一拍おいて顔を赤面させた。
しかし、やはり……読めない。
(わからない……何なのこの人……?)
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