第27話 最上位命令 無差別攻撃

 王都から始まったこの内乱は全土へと、演説を聞いたものから、その人間から伝聞したもの、そして、ただ雰囲気にながされたものへと飛び火していた。

 だが、普通の人々には理由なしの殺戮は出来ない。

 大抵の人間は燃え盛る家々を見て、泣き叫ぶ赤子の声を聴いて、ふと、我に返るものだ。


「おい……これどうするんだ?」


「いや、そもそも責任はあの少佐にある。

 あの男が鼓舞しなければ、最初に暴れたのが悪いんだ」




「今更、怖気づくなよ。

 大丈夫だ、俺達には正義がある。

 これは傲慢な貴族たちを打ち倒すための革命だ。

 これは正義なんだ、きっと世界も受け入れてくれる筈だ」




「売国奴を燃やしただけ」「貴族が政治を行う古き良き時代を取り戻すためにやった」「皆やってるから……」



 誰もが自分の行いを正当化し始めた。

 一方その中で……。



「皆、私の話を聞いてくれ!

 これは悲劇だ。だが、これで平和の尊さが分かっただろう?

 我々は新しい国家、リカール共和国の建国を望んでいる!

 確かに身分差別や貧困、全てが良い国では無かった。

 しかし、確かに積み上げてきたものはあった。我々は国を捨てるのではない。


 皆、先へと進もう!」


 アサド王子の声に熱狂する国民達。


 その中には王政に反対し、殺戮行為を働いていたものもいた。

 矛盾だ。


 だが、結局は革命だとかいう物はこういう物なのだ。

 何かの為に皆が集まり、正義の鉄槌だと暴力暴言の限りを尽くし、我々は正義を成し遂げたと声高らかに宣言するが、結局は何も変わってない。


 そして、大体また革命という名の殺戮は繰り返される。


 だから、革命とよく似た戦争というものは無くならない。




 ◇



 そして彼らも終わりない殺戮を行う。



 リカール国王は今までも何度も訪れて来た処刑場にいた。

 大罪人を始末したり、政治犯を始末したり、戦犯を始末したり……今回は戦犯の番だ。

 ただし、彼にとっていつもと違うのは彼自身が処刑される側だということだ。


「……なんか、かなり増えたな」


「ジーク君は人気者だからねー」


「こんな戦争狂のどこがいいんだ?」


 処刑場はコロシアム上になっており、かなりの人数を収容することが出来る。

 だが、彼の大隊はそれでも収まりきらないぐらいに、師団程の人数へと膨れ上がっていた。


 その光景に苦笑を浮かべていた二人だが、一転して表情は真剣なものになる。今から国王を殺すのだ。


「我々はこれより、第13代国王リカルド・ヴィ・リカールの処刑を実行する。容疑は内乱罪、この容疑は内乱罪、この罪に裁判は必要ない。理由はお分かりですね、国王陛下」



 内乱罪には死刑以外の選択肢はない。と答えられるだけの体力は十字架にかけられた国王には無かった。

 強烈なストレスにより、病は一気に悪化。

 ジークが手を下す前に、その命は尽きてしまいそうだ。

 それでもしっかりと睨みつけているのは国王の意地というものだろうか。


「最後に言い残すことは……いえ、それは酷でしょうね。

 せめて、名誉の元に、ギロチンを……」


「待て……

 まだ、我らは敗北していない。

 …認めぬ、私が死ぬことになっても、遺志を引き継ぐものが貴様を殺す…存分に暴れればいいジーク・アルト……だが……」


 とそこで、彼は息絶えてしまった。

 と、一幕おいてギロチンが降りた


 処刑場は一瞬静まり返り、誰ともなく噴き出し、それは一気に伝染した。

 妙なタイミングのせいで国王の死があまりにも間抜けなものになってしまったのだから。


 だが、ジークとエリーは笑みすら浮かべることなく、ただただ国王の亡骸をじっと見つめるだけ。

 大隊の面々がそれに気が付いたとき、エリーは立てかけられていたリカールの国旗を手に取った。


 エリーの片手には血に染められたリカールの国旗。その姿は小柄で可憐な少女ではない。一千人の狂兵士共を手駒に収める指揮官だ。


「最高指揮官はたった今、戦死された。

 我々、この獣の集団にに最後の命令を下されてな」


 「我ら以外の王国軍は全て組織的戦闘を止め、自分の意思で動き始めた。その中、陛下は我々だけに命令をくださった。よって我々はリカール最後の正規軍となる」



 彼女の言葉を聞き、その場にいる全員が直立不動の敬礼をジークへと送る。そして、見覚えのない軍服姿の兵士達がジークの前へと跪く。



「フセイン共和国、第11外国人傭兵部隊、集結」


「ハイルランド王国、第1小隊、指揮を求む」


「ソラシド共和国、第3遠征中隊。命令を乞う」


「ベルストツカ公国 第2大隊、参陣」




「市街地戦、戦闘用意!」「弾込めよし 安全装置よし 単発よし!」「隊列、縦隊!」


「リカール大隊、全部隊、戦闘用意よし」



「ジーク・アルト最高指揮官代行殿、我々に何なりと命令を」



 最後に目の前で跪いたエリーを見下げ、ジークは敬礼をする。


 リカール大隊、同盟国軍、そして狂気に呑まれた一般市民達。

 彼らは再びリカールの名の元に集まった。




「承知した。


 リカール大隊各員へ告げる。最高指揮官命令、最上位命令である。


 攻撃目標を変更、リカール全領域から全リカール人へ。


 この血濡れの美しき我らの祖国。

 リカールに仇なす、リカールを汚す、リカールの名を語る全てを排除する。

 色が落ちてしまった祖国の旗を再び血で染めろ。

 我々の栄えある国旗を取り戻せ。


 リカール最後の軍隊として、リカール人の最天敵種としての役目を果たせ。


 サーチ&デストロイ、殲滅だ。殲滅戦を開始せよ。

 ……全体、状況開始!」





 数千の兵達は寸分は違わぬ動きで一斉に敬礼を返した。

 そして、彼らは動き出した。

 さながら、殺戮を行うために狂気の笑みを浮かべ一体となって動く兵の群れ。

 それを指揮するジークは畜生や悪魔なんて言葉では言い表せない。

 

 悪の軍勢を率いる魔王だ。


 兵共が去っていき、残されたジークとエリーは先程の恐ろしい雰囲気が嘘だったかのように、仲睦まじく話し始めた。


「自分から扇動しておいて、無茶苦茶だね……」


「ああ、無茶苦茶で理不尽で理解不能で最低最悪。

 ……俺達が散々やって来た戦争で、散々受けてきたことだろう? 」


「うん、これが私達の復讐であり、戦争。

 ……指揮官殿、指示を」


「わかった。

 副指揮官、我々は祖国にとって最も不愉快な人物を粛正する。


 目標、アサド・ヴァ・リカール及び、サーシャ・ブライアント」


「Yes your majesty……My master」






<――第一迫撃砲部隊より指揮官へ、王都守備隊より奪取した試験中の21cm列車砲が発射可能です。


 照準の指示を>


「照準だと? つまらないことを言うな。


 ――無差別攻撃だ」


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