第26話 粛正大隊


レビューありがとうございます。

お礼という訳ではありませんが、今後、試験的に更新頻度を上げる予定ですので、引き続きよろしくお願いします。





「……なんだこれ、歩きづらいぞ」


「それはそうだよ。

 もともと義足ってそう何回もつけなおすものじゃないでしょ」


「それも考慮して取り替え楽々の戦闘用義足として作ったつもりなんだが……戦場のスクラップで作ったガラクタじゃ無理か。

 後で調整しないと。いや、いっそ新しく作り直すか」


 ジークとエリーは合流を果たした。

 今彼らがいるのはリカール宮殿、舞踏会場、音楽堂、美術館、接見室や図書館、挙句の果てには処刑場まで――そう、此処は王族の宮殿。



 だが、その王国を象徴するかのような落ち着きながらも、厳かな外観は今は無くなってしまった。

 ところどころから煙が上がり、美しい庭園は砲撃によって抉られ、死体は累々。

 大隊か、市民か、同盟国軍か、王国軍か。

 誰がやったのかなんて見当もつかない。



 それでもつい先ほどまで侵入者を許さなかったのは、わずかに残された士気のある王国軍人のお陰だろう。

 それもたった今、壊滅してしまったが。


 そして……彼らは最期まで戦意を捨てなかったのであろう王国軍人が作った雑多なもので作られた粗末な罠を難なく回避すると、王室の前へとたどり着いた。


「……謁見って奴か、緊張するな」


「えっ、どうして、たかが国王様に会いに行くだけだよ?」


「おいおい、たかがってなんだ?

 知らないのか、王様は王国で一番偉い人なんだぞ。 

 それを今から抹殺しようって言うんだ。

 

 とはいえ、戦場では命は平等か。

 忘れてくれ」




 厳かなドアに手を掛ける。

 そこには王を護る勇敢な近衛兵の姿も、彼の美しい妃達の姿も無く、国王というよりは、年老いて死を待つだけの孤独な老人が横たわっていただけだ。


「……貴様……此処までたどり着いたということは……!」


「お初にお目にかかります、陛下。

 王国陸軍、リカール大隊指揮官、ジーク・アルト少佐であります」


「貴様ごときが王国陸軍を名乗るな……!」




 王は力強くジークを睨みつけると、サイドテーブル上のコップを手に取り、ジークに投げつけようとした。

 しかし、手からぽとりとすり抜ける。

 既に衰弱しきっている彼の身体ではそんな簡単なことすら叶わなかったのだ。


 それでも、自分を見下し嘲笑するジークとエリーの二人を睨みつけ、強い口調で問いただす。


「貴様らと交渉する気はないし、なんら応じるつもりはない。

 ……だが、一つ聞かねばならんことがある。

 八つ当たりとしか言えぬ愚行で、この王国を焼き尽くさんとする貴様らが何故、リカールの名を語る?

 答えろッ!」


 が、それに物怖じする彼らではない。二人は不気味なぐらいに口をそろえてこう言った。



「「弱者は不要」」


「我ら、リカール王国陸軍の使命はリカール王国を命を懸けて護ること」


「その存在意義に従い、我々はリカールを護る為の作戦を遂行中。

 これは国から命じられた不変の使命」


「……やはり、言葉は通じんか。貴様らは畜生にも劣る侵略者だ」


 ジークは国王に銃を向ける。国王もそれを真正面から受け止める。そして勝ったと言わんばかりの笑みを浮かべていた。


「ぐっ……ククク、しかし私の勝ちだ。私の息子、娘達は既に国を逃れた筈だ。彼らが居れば……」


 希望の種は残した。……が、既に摘み取られていた。


「こちら、第3歩兵分隊 待ち伏せに成功。

 第一皇女及び第二皇女の身柄を捕らえました」


「第2突撃中隊、同じく第2王子の身柄を捕らえました」


「……ま、待て!」


「陛下、分かっておりますので、黙っていてください。

 

 こちら大隊長、よくやった。

 そいつらは戦場から逃げようとする指揮官、この国において最も許されない敗北主義者だ。

 血祭りにしろ」


 国王でありながら、彼は一人の父親だ。

 喉を震わせ、目の前の畜生を糾弾しようとするが、激しく咳き込んでしまい、それは叶わない。

 もう時間は残されていないようだ。


「国王陛下、貴方は非国民だ。

 国民の反戦運動も止められず、国はバラバラ。我々も止めることが出来ず、国は火の海。貴方は戦いを捨てたんだ。


 身分制度で縛り上げることもせず、解放を求める国民達に敗北を認めるわけでもなく。怒りの矛先を変えようと、のらりくらりと我々のような存在に全てを押し付けて……結果的にこんな我々に負けてしまう。


 闘うことを放棄した敗北主義者にこの結果は当然だ。


 きっと、貴方は自分が囮となって……とでも考えたのでしょう?

  だが、結局失敗。結論から言えば、貴方はウサギのように身を潜めていただけだ」


「……黙――」


「黙るのは王様。

  貴方の国民が私達の言い訳を聞いてくれたことあった?

  負けは負け、弱者は要らない。

 それは王様が決めたルールでしょ?」


 有無を言わさぬ口調に思わずたじろぐ。


 怒りが急速に冷やされ、彼は状況を再認識する。


 国王として代々継いできた自分の国は炎で燃えている。

  国王ながらも、父親として愛してきた子供達――第一王子アサドとは政敵になってしまったが。彼らも捕らえられ、無残に殺される。

 更に、その元凶がいるというのに、病に侵された身体では立ち向かうことも出来ない。




 だったら、自分の一生は何だったんだ?


 幾多の国を打ち倒し、繁栄、勝利と共に生きて来たこの自分の最期は……こんなものだというのか。


「エリー、国王陛下がご気分が悪いそうだ。

 薬を飲ませて差し上げろ」


 当然、ベッドの上で死ぬのを許す彼らではない。

 エリーは笑みを浮かべると、強引にベッドの傍らにあった錠剤を飲ませた。

 国王は意識を失うことも許されず、激しい苦痛の中、強引に立たされる。


「みんなを集めた方が良い?」


「ああ、一度、集合させるんだ。

 陛下、俺はマティス公と会った。

 彼はとても可哀そうだ。

 あんな狂犬を鎖でつなぎ留めておくなんて……」




「……そうだ、奴は狂犬だ。

 兵士ともいえぬ狂犬、兵士としては無能極まりない、

 人の言葉も、心も理解できぬ、貴様と同じ……」




「もういい、彼は戦友だ。

 自分の事はいいが、戦友の事を侮辱されるのはあまりに屈辱的だ。


 エリー、断頭台ギロチンの準備を。


 戦友の名のもとに、リカール大隊の名のもとに、

 我らが栄えあるリカール王国の名のもとに。


 ――国王陛下。我々が貴方を懲罰する」


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