第24話 恐怖を追体験
ジークは下水道内をくまなく探し回っていた。別に誰をという訳ではない、敵を探し回っていた。そしてたった今も交戦中。
が、もうそれ程大した敵は残っていないようだ。
「て、撤退だ!」
(骨のありそうなやつが居そうな気配はしたんだが……気のせいだったか?)
撤退中の敵を撃ちながらそんなことを考えていると、暗闇の向こうで何かが光った。それがスコープの反射だと気が付いた瞬間、ジークは真横に倒れこむようにして避けた。
「奴が倒れたぞ! 今の内に――!」
暗闇から放たれたその銃弾は、ジークが転倒したと思い込み迂闊に立ち上がり走って逃げようとした兵士を真っ二つにし、ジークがつい数秒前まで立っていた場所を通り抜けた。
「やはり外したか……だが、一発で勝敗がついても面白くない」
(味方で射線を隠していたのか? それに……あの威力、対戦車ライフルか?)
「撃ち方待て!撃ち方待て!我々は敵にあら――」「が、はっ!」
邪魔だと言わんばかりに、周囲の王国兵を撃ち倒して行く謎の人影。
ジークは第三国軍が介入してきたのかと考えたが……それはその人物の胸元についていた数多くの王国軍の勲章によって否定される。
やがて、断末魔が消え、そこには静寂が訪れる。
先に動いたのはジークだった。
その辺に転がっていた兵士のヘルメットを棒の先端に引っ掛けそれを瓦礫の上へと掲げる。
その瞬間、そのヘルメットは吹き飛ばされた。
(11時方向……)
ジークはノータイムで敵の予測方向を割り出し、そちらの方へと駆けた。
普通の兵士なら避けられることも無い銃剣刺突をその男は自らのナイフで受け止めた。
そしてジークはその人物と初めて対面した。
その男――マティス・ア・シラージは笑みを浮かべていた。
王子は彼の笑みを優し気と評していたが、ジークは違った。
まるで鏡を見ているようだった。
きっと、お互い狂気の笑みを浮かべていたのだろうから。
刺突が駄目ならと、後ろに倒れこむように拳銃を乱射。
だが、それはマティスの接近戦では無用な対物ライフルを盾にすると言う奇策によって防がれた。
お互いナイフを振るい、弾きあい。距離を取り、遮蔽物に隠れながらの銃撃戦。
ジークの心臓は暴れていた。額に流れる汗。背筋が凍るこの感触……まるで自分がルーキーの時に感じた戦争の恐怖を追体験しているようだった。
だというのに凄まじい高揚感と幸福感を感じている。
これが自分が求めていた戦争だ。
そして、その数分後、瓦礫の山に死体の山。鼻をつんざくような血の匂い。
そんな地獄絵図のこの戦場に笑い声がこだました。
「5.56mm弾を連射できるアサルトライフルに、20mm対戦車ライフル……まるで新兵器のショーみたいだ」
「仕方ないだろう、私はもう若くはない。
すまんが、その差は道具で埋めさせてもらった。
……しかし、驚いたよ。
これ程強い相手がまだいるとは。世界は広いものだな。……はじめまして、王国が誇る最後の騎士、マティス・ア・シラージだ」
「最後の騎士……!
これは、これは、ご丁寧な挨拶、有難うございます。
ジーク・アルトと申します。……残念ながら、つけられた称号は無いのですが……自称化け物です」
「ハハハ、君は素晴らしい化け物に相応しい。私がその二つ名を保障しよう」
そして、彼らは酒場で偶然知り合ったような、気の合う友人のように語りだした。
「例えば、軍部からの汚れ仕事で村々を焼き払うのは?」
「リカールのお家芸だ。素晴らしい、まさしく弱肉強食。心が躍る」
「ええ、自分もそう思いますよ。本当に自分と貴方は気が合うようですね……何故、そんな貴方が王国の騎士を気取るので?」
「違うな、他の人間が非国民になってしまったのだ。昔のリカールと今のリカールは違う」
「……というと?」
マティスの浮かれていた表情が一転して、屈辱の表情へと変わった。この男、喜怒哀楽が激しいらしい。
「昔はよかった。気の合う友人たちと戦場で好きに殺し、死んでいった戦友の死を嘆いて、敵国の捕虜をいたぶって、戦争が終われば国民から敬意と祝福で迎えられる栄光の凱旋だった。
だが、今はなんだ。戦争も知らない連中がやれ、敵兵士のことを想った交戦規定だの、平和条約だの、税金の無駄遣いだの、挙句の果てに戦場にまで身分制度を持ち出した。
戦争のお陰で……王国は他人の幸せを奪うことで発展してきたというのに……それを蔑ろに、無碍に、扱き下ろすとは、この国にはもう純血のリカール人はいない」
「ですが……貴方は動かなかった。いや、動けなかった。そうでしょう?」
「……そうだ。もう、戦友たちは殆どが死んだ。退役した時、あいつらに手渡されたのははした金だった。手足を失ったあいつらは職に就くことも出来なかっただろうな。そして私だけは人殺しが上手くてな、一人だけ王国のプロパカンダに乗せられたという訳だ。 一人取り残された私のような人間はもうこの世界に必要ないと思っていたが……感謝するぞ、少年。貴様のお陰でタガが外れた」
「それは何よりです……どういたしまして……?」
「だから……あ?」
その時、二人は何かの気配に気が付いた。一人や二人ではない。集団だ。
「誰だこんな時に水を差しに来たのは? どこぞの貴族の私兵か、それとも王国軍が私共々殺しに来たのか?
はたまた、アルタイルの犬どもか?」
「その全部なのでは?……政治のこと等、学校を中退した自分にはわかりませんよ」
そして、二人は身を隠していた瓦礫の下から這い出ると、背中合わせになり銃を構えた。
「全く……。この戦争の元凶が何を無責任なことを……」
「別になんだって良いでしょう。戦場と知って飛び込んできたのはあちら側なんですから」
「違いない……おい、出て来い貴様ら。ぶち殺すぞ」
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