第21話 戦争が下手
先日予約投稿した筈の20話が掲載されていませんでした。
誠に申し訳ありませんでした。
◇
ジークの放った弾丸は、勝利を確信し、完全に油断しきっていたジュリアの肩を貫いた。
「ああっ!……あ…うう…ぁ…」
「おい、ジュリア! しっかりしろ!」
ジークは自ら撃ち抜いた右足を確認する。
肉は抉れていた。
だが、それだけだ。
完全に弾を除去することに成功していた。
非正規戦最強の男、ジーク・アルト。
が、彼は最初から最強だったわけでは無い。
確かに類まれな戦闘の才能はあった。しかし、才能だけでは最強にはなれない
幾多の戦場を駆け抜け、何発も、様々な種類の弾を喰らい死にかけてきたのだ。
被弾しただけで何の弾を喰らったかわかるぐらいに。
「毒を使った攻撃。
良い判断だ。
だが……惜しかったな。
毒で俺を殺そうとしたのはお前で15人目ぐらいなんだ」
「黙れ……黙ってろ!
おいジュリア、しっかりしろ!」
「……あ、ぁぁ……助け、死にたく……」
もう二人に抵抗する気力はない。
ジュリアは瀕死。ロンは彼女を抱きかかえ泣き叫んでいる。
ジークはしばらくつまらなげにそれを眺める。
それも飽きたころ、ジークはロンの元へと歩き出した。
「――死ねッ!」
自暴自棄になっていたロンが、残された殺意を振りかざしジークに銃を向けるが、それはジークの無造作な蹴りで一蹴される。
「お前……お前!俺とジュリアは幼馴染だったんだ! 優しい奴だったんだ! 人の為に、人の為にって……! 何で死ななきゃならない! 家も買ったのに! こんな、こんな――ふざけるな、クソ野郎!」
「戦場の真ん中で愛を叫ぶ、か。
じゃあ、なんでこんなところにノコノコやって来たんだ?
……おっと、つまらない質問だった。すまなかったな」
冷めた口調で見下すジークに殴りかかろうとするも、その前にロンの左足は12.5mmに潰される。
ゲームセットだ。
いや、ジークが先にジュリアの方を狙い、ロンを戦闘不可能に追い込むことに成功した時点で、彼らの敗北は決定していたのだ。
「何がっ……何が足りなかった……」
「お前らの戦いはそれなりに良かった。
だが、お前らは戦争が下手なんだよ」
二人の冒険者は悪者相手に容赦することはなかった。だが、無意識のうちに自分達が正義だと思い込んでいた。だから、彼らは非情に徹することが出来なかった。
一方、ジークは戦争をしている。
非情の極み、悪逆非道、人間の屑、凶悪、理不尽……だから、この男は強い。勝つためなら想い人を惨たらしく殺すなど造作も無い。
「さてと、次の手は残されているか?
俺を惨たらしく、泣き叫んで命乞いまで殺し尽くすことのできる手は残されているか?」
「…………っ! あぁああああぁああぁあああああ――ッッ!!」
「そうか、ないんだな?
じゃあ、さようならだ。
そうだ……何か言っておきたいことは?」
「お前を倒しに来たのは俺達だけじゃない……地獄に落ちろ、畜生が」
「それは楽しみだ。
……地獄行きは……いつの日にかな」
ジークは最後の手向けとばかりに、笑みを浮かべる。
嘲笑しているわけではない。
ただ、それなりの好敵手を讃える為だ。
そして、愛銃のトリガーを引いた。
「まぁまぁだ。まぁまぁだったよ。でも、足りない」
ジークは誰に告げるわけでもなくそう呟きながら、彼らの銃を拾い上げる。
「良い銃だ。いつもどおりありがたく頂戴させて頂こう。……ん?」
何かの気配を感じた。
いや、ジークが感じたのは多くの血が流れるイメージだ。
この先にもまだ見ぬ強敵が、戦場がある。心を躍らせ、意気揚々と歩きだした。
◇
一方、アサド王子もあの混乱から抜け出し下水道の中へと来ていた。
王子という身分でありつつ、反乱したジークと取引を持ち掛け国内の問題解決を狙った男――失敗に終わってしまったが、彼は少しばかりの悪だくみが出来る悪党……という訳ではない。
(何故、上手く行かなかったのだ……?)
アサドの脳裏には更なる未来が描かれていた。
彼は身分制度を貧民層から徐々に無くしていき……最終的には自らの生まれである王家をもつぶすことが目的だった。
彼は父である王を嫌っていた。王の命令により、王国は隣国を潰していくことによって勢力を拡大させていた。
だが、それには当然多くの犠牲が付きまとう。
アサドの考えは違った。国を大きくするためにやることは戦争ではなく、国自身を高めること。
国民の論理観、技術……そういった分野で他の国よりも優れた国になる。
身分制度の完全排除。彼自身も王家の身分を捨て、一人の一市民として国を作っていきたいと考えていた。
優れた技術を持つ民主的な平和国家。自ずと他国も王国と軍事力で争おうとすることを辞め、王国を手本とした民主国家を形成しようとする。そうして、世界はリカール王国を中心に平和な世の中を築いていくことになる。……と、彼は考えていた。
とにかく、その為には忌まわしき身分制度を無くさなければならない。
だからジークの反乱をそのまたとないチャンスだと思っていた。
ただ、反乱を起こした相手にまるで人の言葉が通じないということは予想外だった。
鼻をつまみたくなるような異臭がはびこる下水の中、壁を背に力なく項垂れる彼の前に人影が現れた。
咄嗟に彼は銃を向けた。
「――誰だ!?」
「待ってくれ、撃たないでくれ……! 撃たないでくれ……撃たないで……お、お願いだから……」
そこには少女が居た。
男勝りの王な口調は鳴りを潜め、恐怖に顔をゆがめ、瞳は大粒の涙を流し、狂ったように命乞いをする少女――サーシャ・ブライアントだった
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