第14話 七面鳥撃ち
地下倉庫の仮設基地には阿鼻叫喚の声が流れ込んでいた。それも長くは続かなかった。
また一つ、また一つと声の主が消えていき…… やがて、何も聞こえなくなった。
全滅だ。
恐ろしい、恐ろしい。
地下室にはひしひしと恐怖が充満し始めていた。
(どうして、どうして何も上手く行かない!?
……作戦は敵の意表を突くものだった
……何故、上手く行かない! 何故、正義が勝たない!?)
「全滅だ……全滅です!
サーシャ様、どうするのです!?
サーシャ様!」
「うるさい、うるさい!
騒いでいるだけの無能が、黙れ無能!」
サーシャは限界が来ていた。こんなことはあり得ない。
だってそうだろう。少し前までは学園が誇る。いや、国が誇る才女だったのに……
あの男のせいで全てが狂った。
しかも、次は自分に死が迫っているではないか。
彼女には他人を気にする余裕なんてない。
そんな彼女は気が付かない、周囲の空気が殺気で満ち溢れたことに。
それを待っていたかのように、双子のアンナとメイルが歩み出て、こんなことを言い出した。
「……ねぇ、皆。
この人のせいじゃない? この人が余計なことをしなければ……」
「この人を差し出そうよ、そして許してもらおう?」
「メイル、アンナ……!
お前達、どういうつもりだ!?」
そもそも、この三人は友人同士でもない。
表面上は仲良く。
だが、サーシャは英雄を目指し、双子はコバンザメになってトップカーストの位置に鎮座するのが目的。
仲がいい筈がない。
だから押し付ける。
「だって、そうじゃん!
いっつもそう!
程々でいいのに、勝手に突っ走って!」
「アンナ、貴様……! あの男に尻尾を振るのか!?
まだベルモンドの方がマシだったぞ!」
「まだって何!?
聞いた?この人死んだ人を馬鹿にしたよ、最低だよ!
いつもみんなを見下しているんだ!
……ねぇ皆、どう思う?
赦してもらおうよ。この人のせいだって」
「メイル……メイルっ!」
サーシャは我慢ならず、メイルの髪の毛を掴み上げようとするも、それは先程まで棒立ちしていた生徒たちに阻まれる。
「高嶺の花を気取りやがって!」「ふざけるな、無能指揮官が!」
少年たちは寄ってたかって、彼女に馬乗りになる。
彼らも極限状態だ。理性は吹っ飛んでいる。
彼女は嫌われ者になったが、それでも美しい花だ。
誰かが下衆な笑みを浮かべると、それはすぐさま伝染した。
「お、お前達……や、やめろ!」
だが、そこにヒーローがやって来た。
「……お邪魔だったか?
いいよ。続けろよ、そんなこと戦場では日常茶飯事だ。
俺は気にしないから」
「ジーク・アル――!?」
いや、
ジークに応戦しようとした生徒達は、即射殺される。
手も足も出ない、圧倒的な実力差。
残された生徒は戦意を失い、両手を上げる。
アンナがここで動いた。
「ジーク……いえ、ジーク君、私達の負け。降参するよ」
「……無条件降伏を認めろと?」
「この女のせいなの。
……私達はこの女に脅されていたの!
ねぇ、あの時の事覚えてるかな?
この女がジーク君のことをみんなの前で馬鹿にした時の事。
それでも君は挫けなかったよね……そんなところが、その、す、好き……」
メイルも援護する。
彼女たちも幼げではあるが、可憐な美少女だ。
演技もうまい。
ジークは満足げに頷くと、ゆっくりと歩みだした。
ほっと一息つき、銃を捨て、その場にへたり込む生徒達。
蚊帳の外のサーシャだけは体を震わし、惨めに這いつくばっていた。
が、ジークは生徒たちの銃を拾い上げつつも、彼女を素通りし、無線設備の前まで歩く。
「成程、素晴らしい無線設備だ。
前線に送れよ、これ。
……この無線が聞こえているもの全員へ告ぐ。
自分はジーク・アルト少佐。
リカール大隊の総指揮官である。
我々は降参を受け入れないし、降参をするつもりもない。
以上……もちろん、お前達も例外ではない」
「……えっ?」
呆然としていた生徒達は彼の言葉の意味が分からなかった。
一拍おいて気が付いた。この男、容赦する気が無いのだと。が、その時には遅かった。
「わからないか? こういうことだ」
ジークは生徒達から回収した銃を逃げ惑う彼らに向かって乱射する。
降伏無視からの七面鳥撃ち。
それにしても、自らの愛銃に殺されるとは……。
彼らは逃げ出そうと出口に殺到するが、当然、そんなことは予測されている。
出入り口付近を無慈悲に掃射、死体が積み重なってしまい、出れなくなった。
まだ、本命を撃とうとはしていない。
双子の姉妹は暗い倉庫の中を逃げ惑う。……が、なんとこの状況に置かれても策略を張り巡らせていたものが居た。
いや、復讐を考えていたものがいた。
「ねぇ、どうするメイル!? どうすればいいの!? どうにかしてよ!ねぇ!」
「私は助かるよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんとはさよならだけど」
「えっ……? 痛いっ!」
突如、メイルは姉の足を踏みぬいた。
予測外の攻撃に反応できず、足を挫いてしまった姉アンナが見た物はメイルの嘲笑だった。
「お姉ちゃんも邪魔だったの。同じ顔が二人もいると迷惑なの? わかる? ずっとそうだった! あの子も、あの方も! みんな、お姉ちゃんの方ばっかりに!」
「何言ってるの……? 冗談よね? ここに置いてきぼりにするつもり!? ねぇ!?」
「じゃあね。ずっと嫌いだったよ」
アンナは気づいていないが、メイルの想い人は皆、アンナに吸い取られていった。そんな幼少期からの嫉妬・憎しみが、今回の事件のストレスによって爆発した。
必死に手を伸ばす姉をおいて、事前に見つけておいた見取り図を元に、換気口から脱出。
彼女はジークがここに来ることを読んでいて、密かに自分一人で脱出する計画を練っていたのだ。
(馬鹿ばっかり。 私は特別なの)
一人残されたアンナは必死にもがいて、どうにか後を追おうとする。
が、その前にジークが立ちはだかった。あまりの恐怖にへたり込んで、両眼をギュッと瞑る。震える声で必死に弁解する。
「……ねぇ、待ってよ……。
本当に、本当にあれは違ったの! そ、そのみんなが劣等生って言ってたから、それで! 違うの! 助けて! 赦して!」
ジークは聞いているのか、聞いていないのか。
彼女の声に構わず、その辺の生き残りをバンバンと撃っていく。
「お、お願い! なんでもするから!そ、その…… 今までのは照れ隠しだったの、本当は貴方のことが……!」
その時、肩にポンと優しく手が置かれた。
(赦してくれた……? )
ゆっくりと目を開ける。
視界に映ったのは優しげな笑みを浮かべた少年。
彼女は一瞬目を潤ませ、本当にジークに好意を抱きそうになった。
「次はお前の番だ」
が、彼は指を差していた。
その先には数々の欠損死体が並んでいた。言葉の意味が分かった瞬間、彼女は絶叫した。
尚、メイルはまだ助かったわけでは無い。
気が付いただろうか? 地下室に突入してきたのはジーク一人だ。
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