第11話 鳴き喚く豚共は
「少佐殿、ナナサン通りの殲滅は完了しました。……ご覧ください、あそこにある我々が壊した噴水は100年の歴史を持っていたものです!
それを木っ端みじんに破壊してやりました!」
「よくやったな……しかし、アルベルト軍曹も変わったな」
「ははは……確かに昔の自分は絶対的貴族主義でした。
しかし、少佐殿の下で考えが変わりました。
殺した数だけが我らの価値なのです。兵士は殺人の道具なのですから」
「いい考えだ。我々畜生以下には相応しい」
「もう、ジーク君ったら野蛮なんだから」
「「「はははは!」」」
濛々と煙が立ちこめる王都をジーク達、リカール大隊は悠々と歩きまわる。
後出しのようになってしまうが、ジークやエリーは学生時代こうして歩けることはあまりなかった。
登下校中の別の学園生に見つかり、"貧民だ!"と叫ばれれば石や怒声が投げられる。
自らは他人の上に立っていると再認識する為の粋な息抜き、それが王都市民達の日常だった。その日常を取り戻す為にはジーク達を殲滅するほかない。
ただ、今のところ、彼らの悠々とした散歩を取り上げようとする者はいない。
……いや、居た。
「無能政府を撃退しろ!」「国家は国民の為に全てを尽くさなければならない!」「補填をしろ!」「今こそ理想国家を!」「無能政治家共を極刑に晒せ!」「暴力反対!」
「王国は弱体化しすぎた!今こそ古き良き王国を!」「身分制度万歳!」「庶民共を撃ち殺せ!」「リカール万歳!蛮族に死を!」「強者こそが世界をする!」「暴力賛成!」
「……フォッグマン大尉、これはどういうことか?」
ジークは思わず年長の部下に尋ねる。目の前の状況を認識できなかったからだ。大通りの真ん中で多くの市民達がプラカードを掲げて口々に自らの主張を叫んでいる。
「少佐殿、これは市民達によるデモ行進であります。保守派と革新派の両者が争っているようです」
「保守派と革新派……右と左か。
いや、それは見てわかるが……」
自分たちが街に火をつけておいていうのもなんだが、市民達は襲撃の際には何処へと隠れていた。
が、それが終わるとこうして、
襲撃犯であるジーク達の目の前に現れてデモに躍起になっている。死んでもいいから主張したいことでもあるのか? いや、それとも……。
その時、もっと予想外のことが起きた。なんと向こうから近づいてくるものが居たのだ。
「ごきげんよう。私達は王国栄光新聞の記者。少し話を聞かせて頂き――」
「止まれ」
ジークは銃を向ける。彼は幾多の戦場を経験してきた。
だが、敵を目の前にして普通に無防備で近づいて来る人間は初めてだった。
しかし、記者を名乗る眼鏡をかけた紳士たちはあろうことか嘲笑を浮かべた。
「これは、これは……。流石は前線で思いあがった兵士だ。武力ですべてを解決できると思っている」
「……どういうことだ?」
「ククク……やはり知らないか? 所詮は貧……おっと、差別はいけない。
今の世の中、記者たちは国際法で保護されている。
記者だけではない市民達もだ。 我々を殺せば、リカールだけの問題ではない。
国際問題として君たちは世界から敵視されるだろう。
それよりかは君達の主張を世界に伝えた方が理性的だろう?」
ジークはややあって納得した。成程、未だ呑気にデモ行進をしているのも彼らが保護されているという自覚があったからか。
市民が……ましてや、優等民族である王国市民が狙われることは無いと。市民に銃口が向けられているわけでは無いと考えているらしい。
なんなら、この大隊を利用しようとしている。
確かに厄介だ。と、ジークは銃を降ろす。
「賢明な判断だ。では、我々に君たちのその愚行の理由を――」
「そうだな、これが我々の回答だ――フォッグマン大尉!」
「承知しました、我らが指揮官殿」
彼が差し出した重みのあるそれを両手で構える。
このベテラン大尉は素晴らしい、まるで執事だ。
指揮官が何を求めているのか察してそれを差し出してくれる。
やはり、この畜生共は素晴らしい。
それというものは、火炎放射器だ。
「鳴き喚く豚共は、焼き豚にしてやるのが礼儀かと」
「完璧だ。……射撃小隊前へ。どうせ、畜生共の争いだ。派手にやろう」
「「「イエス、マイ、ロード!」」」
「やめろ、やめるんだ!?
貴様ら、聞いていなかったのか!?
我々は国際条約、記者保護法によって――!」
「おっと、口喧嘩は嫌だ。
なんせ、学園中退生だからな。
負けてしまう」
しかし、その身を焼いてしまえばその自慢の口を開くことすら出来ない。
大隊は烈火の炎を、鉛弾を市民に、記者に撃ち込んでいく。
武力では全てのことを解決できない。
しかし、大概のことは解決できる。
大抵の場合、銃は言葉より強いのだ。
「いやあああああああ!」「どうしてだ!?我々保守派は兵士の味方――!?」「誰か助けてくれ!」「王都の守備隊は何をしてる!?」「こんなの無茶苦茶――!」
若い女。青年。老人。子供がいるであろう夫婦。
右も左も関係ない。それらを全て、無差別に殺していく。
残念ながら、保護条約では銃弾を防ぐことが出来なかった。
(無能政府だか、軍事政権だか……文句ばかり喚く暇があるのなら、この隙にとっと気に食わない奴を殺しに行けばいいのに)
「逃がすな。無慈悲にやれ。今更、殺した数を一桁増やそうが変わらん」
「了解であります!少佐殿!」
「……愚か者め……警告はしたぞ、貴様は世界を敵に……」
先程の記者が焼け焦げているのにも関わらず、虫の息になりながらもそう言い放った。
実際、愚か者だ。保守派、革新派、どちらにも取り入るチャンスがあり、立ち回り方によっては英雄にすらなれるチャンスがあったのに、それを自ら消してしまったのだ。
だが、ジークはため息をつく。根本的に違うのだ。
「……これでもまだわからないか、愚か者が。
世界を敵に回すような大戦争?
大歓迎だ」
「もう死んでるよ。
……さてと、大隊の皆! 私達の母校へ招待するよ!」
「「「イエス、マム!」」」
それでも。殺し足りない。
もしかすると、復讐以上のことに彼らは手を染めているのかもしれない。
ただの愚行にすぎな……
いや、これが復讐か。
一々、やられたことと、今からする復讐の罪の重さを天秤で測りながらする復讐がこの世のどこにあるというのだろうか。
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