第9話 非正規戦最強の二人

 王都は至る所で火が上がっている。ジークは学園を二人のみで強襲した。他の部下らは全て王都に潜伏させ、破壊工作を仕掛けさせていた。それは上手く行ったようだ。これで地形は無茶苦茶、王都守備隊の地の利は崩れ去った。


 こうなれば、この王都は非正規戦最強の二人のものだ。


 事態が把握できていない王都守備隊の面々―恐らく、ジーク抹殺任務は一部精鋭部隊のみに開かされていた任務なのだろう。彼らが訳も分からない様子で慌てふためいているのを片っ端から撃ち殺していく。


「クソ、やられた! あれは子供か!?」 「油断するな、狩られ、ぐはっ!」


 ジーク達は劣勢の戦場が殆どだった、事情が理解できていない哀れな敵兵が居たのなら即座に射殺。これが彼らのやり方だ。



 二人の戦い方はこうだ。



 彼女の使っているグリースガンはジークが改良したもので連射速度が更に増している。

 エリーはとにかくそれを乱射する。

 だが、連射速度が速い分、弾の消費も激しい。

 そこで、射殺した兵士の銃を拾い上げて乱射、また別のを拾い上げ乱射。こうすることで弾切れで生じる無防備な時間を減らしている。

  並の兵士では違う特性を別の銃を使いこなすことは難しい。ただ彼女は彼の副官。まともではないので問題ない。


 ちなみに、弾切れを起こしたからと言って、グリースガンは捨てることは無い。彼女はこの機関銃を寝るときに抱いて寝ているからだ。



 ジークはというと、彼のライフルは大口径の半自動小銃。機関銃と違って連射はできないが、素早くトリガーを引くことで疑似的な連射が可能だ。


 彼の戦い方は、遮蔽物から遮蔽物へ走り抜けるそのわずかな間に狙い撃つ。


 今もそうだ。車と崩れ落ちた瓦礫の間を駆け抜けながら、いつ照準を合わせたのか、50m先の敵兵を三人、そしてちらりと視界の端に見えた1km先の狙撃手を一人葬った。


 それだけではない、銃剣による刺突、撲殺、殴殺。彼が生きる上で学んだ、敵の殺し方だ。


 こんな戦い方にも関わらず、彼らは連携が取れている。

 先ほどまで路地の陰にいたと思えば、次はがれきの下、マンホール、死体の下、その次は屋根に上にいる。縦横無尽、誰も照準どころか位置を認識することすら敵わない。


 彼らが非正規戦最強の二人と言われる所以だ。


「ねぇ、見てよ。ジーク君、あれ戦車だよ。そんなに私達が怖いのかな?」


「怖いんだろうな――狩らさせてもらうか」


「居た、奴らだ! 此処を通すな! 主砲発射、撃てっ!」


 焦る戦車兵と真逆に、ジークは歩みを止めることなく、冷静にライフルを構え、発射。放たれたライフル弾は、戦車の砲身から今まさに発射されようとする砲弾を撃ち抜き――それは大爆発を起こした。


「一両撃破、流石だね」


「ありがとう……ついこの間会ったばかりだが、会いに行こうか」


 二人の目指す先はもう目前――リカール王国陸軍、王都指令所、円卓会議室。


 ◇


 同刻、円卓会議室。


「落ち着きたまえ、ドワイト君。

 このジーク・アルトの経歴が何だというのかね?」


「サディス、この名を閣下もご存じでしょう?

 奴は我が国で卑劣なテロ行為を数年に渡り、行っていた狼の牙と呼ばれる組織のリーダーです。

 凶悪で、狡猾な男……我々は5年間もの間、彼を取り逃がしていた。

 それを殺したのが、ジーク少佐です」


ドワイトは、額に冷や汗をかく。

あの時のジークの姿を思い浮かべると、今でも背筋が凍る。

どうやっても、捉えきれなかった祖国の天敵が便所に顔を突っ込んで醜く死んでいた。

その頭を、足で踏みつけていたのが……ジークだ。


「じゃあ、何かね?

 この文書は偽装されているとでも?

 何処の世界に自分に過小評価を求める士官がいるのかね……?」


尚も、冷笑し、どうとでもなると紅茶を啜る老人達に、ドワイトの堪忍袋が切れそうになった時だった。


窓の外から大きな爆発音。一拍おいて、部屋は衝撃波で揺れた。


「な、なんだ、今の音は!?」


狼狽える老人達。

脱出を促そうとして、ドワイトはあることに気が付く。


ここは5階、防衛上最高司令部は、本来であれば脱出が容易な1階に建てるべきだが……この円卓会議室は政治家との会食なども行われる、どうせなら見晴らしの良いところがいいという判断からこうなってしまった。


 舌打ちしながらも、ドワイト少将はある程度の冷静さを保っていた。矢継ぎ早に指示を出す。


「君、窓の非常用シャッターを降ろせ。

ここにつながる外の通路を5階の兵士達で防衛ラインを構築しろ。

この司令部に存在する全兵士を戦闘態勢にするんだ。

……それと、王室それに議会に緊急入電だ。”国家存亡危機"とな」


「待て! ただの爆発事故かもしれない!

 陛下にお伝えするにはまだ早い!

 もし、これで何事も無かったら、君が責任を取るのかね!?」


「……!」


 ドワイトもその言葉に少し揺さぶられた。

 確かに幾らクーデターが起きたかもしれないとはいえ、冷静に考えればたった一個大隊……1000人以下だ。

 一方王都守備隊、並びに王都駐在陸軍部隊はその10倍以上はいる。


 確かに司令部が混乱すれば、事態はより混乱するだけ。

 被害状況を確認して冷静に判断を下せば……。


 一旦、落ち着こうと席に座り、ジークの動機について思いをはせる。

 あの時の負傷兵の事だろうか……?

 わからない、そもそも彼の隊は懲罰部隊のようなもの、思い当たる節は山ほどある。


 いや、だからと言って許されるわけでは無い。どう言い訳しても、王都守備隊の面々の殺害に目を瞑るとしても、学園の生徒を殺した大量殺人鬼だ。


 生かしておくわけにはいかない。


「第6班、ジーク・アルトを抹殺せよ。王都指令所の第二防衛ラインにつけ……。第6班……?」


「すぐそこに居るっ! あがぁ!?」


「どうした!? 状況を報告せよ!」


「……死んだよ、今からそっちに行く」


「……ジーク・アルト!?」




 ◇




 その後、リカール王都司令部の外周は直ぐに制圧された。


 ジークとエリーの二人、それから合流した二分隊が加わり一斉攻撃を仕掛けたのだ。王都司令部の防衛能力は低かった。来客をもてなすために造られた美しい庭園に強固な遮蔽物などない。それに、まさか首都まで攻め入られるとは思ってなかったのだ。


「第2分隊、第3分隊、援護ご苦労だった。我々はこれよりリカール王国陸軍、王都指令所に突入する」


「了解であります! 自分達もお供します!」


「ううんっ、私達でやるから大丈夫だよ。……その代わり、焚火の用意をしといてね」


「……成程、流石は副司令官殿! 了解致しました!」




「さてと、行こうか。エリー」



 円卓会議室にいるお偉いさん方は、私腹を肥やす為、前線への物資供給を拒み、更にはリカール学園の教育方針にも大きく関わっていた。要するに、特別教育として死地に向かわせた。


 要するに、この災厄の元凶の一つは彼らだ。




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