第3話 更なる前線で


「はっ、次はこんなガキがこんな地獄に送られてきたぞ!」


「ようこそ、地獄へ。

 ……なら、早速あたしの射撃練習に付き合ってもらおうか?


前線から更なる前線へと飛ばされただが、ここでも最初の部隊と似たような歓迎のされ方だった。

ただ、ジークとエリーはあの時と違った。


「そうだね、小僧。お前の頭に空き缶を乗せる。

 それをあたしが撃つ。手元が狂ったら……悪いね」


「ええ、いいですよ」


「……不愛想な奴だね、いつまでその余裕が続くか楽しみだ!」


女狙撃手はスコープを覗きこむ。

実は彼女には実際に撃つつもりはなかった。

人員が少ないのだ、遊びで殺せる余裕なんてない。

ただ、小便を漏らし、恐怖に怯えた小僧と小娘を皆で笑ってやる程度のつもりだった。

だが、その余裕綽々な態度を見て、気が変わった。

ビビらせてやろう。


スコープの中心をジークの顔に向け、トリガーを……。


(顔色一つ変えない……なんて男だ……本当に追放された劣等生なのか……!? しま――!?)


動揺した狙撃手は発射寸前で、大きく手元を狂わせた。

その弾丸は空き缶を捉えることなく、ジークの頬掠った。


「あ、いや、その……こ、これは……!」


当ててしまい、逆に動揺してしまう狙撃手。

だが、ジークは気にも留めず、表情も変えずにこう言った。


「二脚を確認してください、ちゃんと展開されていないようだ。

 ただ、ゼロイン調整は完璧、真っすぐ飛んでいました。

 次弾を」


「……っ、恐ろしくないのかい?」


「恐ろしいことなら、山ほど経験しましたから。……さぁ、次弾を」




 戦場では、時に人を超えた化け物が生まれる。


「二等兵、弾を寄こせ」


「……あ、ああ。

 あんた、例の劣等生か? あの学園から追放されたって言う……」



「ふん、もう卒業したよ。今は一等兵だ。

 ――エリー敵陣に突っ込むぞ、付いてこい!」


「はい、隊長!」



 ジークは恐怖で蹲っている一兵士から弾をひったくると、

 愛銃ガーランド12.5mmスペシャルに装填する。

 エリーと共に敵陣へと駆け出した。


 そして、その化け物は今戦場を蹂躙している。

 エリーはあの状況で助けられたという、強烈な吊り橋効果のお陰で、すっかりジークの狂信者。

 その先にどんな危険があろうと、可愛らしい笑みで彼の後を着いてくる。


 張本人、ジークも満面の笑みだった。

 戦争というものにときめいてる。

 最早、戦場に対して恐れなどない、愉快なだけだ。

 迫撃砲で揺れる大地を難なく駆け抜け、塹壕へと滑り込む。

 雑用係で磨いた腕で、無理やり改造した大口径小銃が火を噴き、1000m先の敵兵達の首元を吹き飛ばす。

 すると、友軍から歓声が沸き起こる。


「やっぱり、戦場は良いな、エリー」

「うんっ、こんなに楽しいの生まれて初めてだよぉ」


 学園では違った。

 射撃訓練で超遠距離の的に、見事命中させても、歓声はあがらない。

 インチキだ、偶然だ、思いあがるな……罵詈雑言ばかりだった。

 貴族たちの集まりだ、貧民が自分達より強いというのはプライドが許さない。


 だが、此処は戦場。

 掛かっているのはプライドではなく、自らの命。

 誰でもいいから敵を倒して欲しい。

 強いものに付いて行きたい。


 だから……。

 遠くでこちらに銃を向けようとしていた敵兵の頭が吹き飛ぶ。

 ジークは笑みを浮かべて後ろを振り返る。


「いいぞ、殺しちまえ!」

「あたしはあいつに従うよ! いい男だ!」

「後ろでふんぞり返っているだけの指揮官なんてお飾りだ!

 ジーク隊長だ!」


 此処にいる兵士は、ジークと同じく劣等生のようなものだ。

 何かをやらかした者、嵌められた者、もしくはただの戦闘狂がこの戦場にいる。

 味方から見捨てられ、支援も無い、弾も敵から奪って

 何とか生きているような死にぞこない共。


 だから、此処が彼の居場所だ。


 ◇


この懲罰大隊でキルを稼いだジークは王国軍の規範に沿ってどんどんと昇格していった。

だが、それでも学園に戻ってきていいとは言われない。

そもそも、一度追放したものを学園に戻すなんて考えが無いのだろう。

まぁどうだって良かった。


「ジーク曹長、本部から伝達、二時間以内に捕えた捕虜から情報を聞き出せとのことです!」


「承知した」


「……しかし、たった二時間でゲリラ共を・・・・・クソ、本部め、無理難題を突き付けてこうも俺達を……!」


「何、簡単だ。エリー、仕事だ」


「……イエス、マイ、ロード」


ジークだけではなく、エリーも着々と戦果を上げていき、ある特技を身につけ始めた。


「これから貴様らの尋問を開始する。

 お前たちのアジトは何処だ?」


「……ゲハハハハハハッ! こんなお嬢ちゃんとお兄ちゃんが俺達を拷問!?

 笑わせるぜ! はははっ!」

「王国軍もしょぼくなったもんだぜ!」

「飴と鞭の飴か、凄く甘そうな飴だぜぇ!

 いや、心優しいお嬢さんだ、俺達を解放してくれるかもしれねぇぜ!」


「うん、解放するね」


エリーは一人の捕虜の何の躊躇もなく両眼を撃ち抜いた。


「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ! 目がぁぁぁ! 目がぁぁ!」

「おい、アダムス! てめぇ!」


「いい判断だ、いっぱいいてもうるさいだけだからな。

 アレックス一等兵、彼を解放してやれ」


「おい、何も見えない!? こんな状況で解放されても――!」


「知るか、お前は捕虜だ。決定権は俺にある。

 ちなみにこの辺には人里はないが、狼の群れはいるぞ」

「嫌だ、嫌だあぁぁぁ! 息子の顔はもう見れないのか!? おい、おい!」

「目が潰れたら、治らないんじゃないかなぁ……アレックス一等兵、彼を解放してあげて。早く」

「……は、はっ!」


「お前ら……よくもアダムスを! よくも!」


「彼は幸運だったよ。

 さてと、次に死ぬ奴はどうやって解放しようか?

 足を取るか、頭を勝ち割ってからか……案外、人間ていうのは頑丈でな。

 もう一度聞こうか、お前たちのアジトは何処だ?」



 


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