第3話 更なる前線で
「はっ、次はこんなガキがこんな地獄に送られてきたぞ!」
「ようこそ、地獄へ。
……なら、早速あたしの射撃練習に付き合ってもらおうか?
前線から更なる前線へと飛ばされただが、ここでも最初の部隊と似たような歓迎のされ方だった。
ただ、ジークとエリーはあの時と違った。
「そうだね、小僧。お前の頭に空き缶を乗せる。
それをあたしが撃つ。手元が狂ったら……悪いね」
「ええ、いいですよ」
「……不愛想な奴だね、いつまでその余裕が続くか楽しみだ!」
女狙撃手はスコープを覗きこむ。
実は彼女には実際に撃つつもりはなかった。
人員が少ないのだ、遊びで殺せる余裕なんてない。
ただ、小便を漏らし、恐怖に怯えた小僧と小娘を皆で笑ってやる程度のつもりだった。
だが、その余裕綽々な態度を見て、気が変わった。
ビビらせてやろう。
スコープの中心をジークの顔に向け、トリガーを……。
(顔色一つ変えない……なんて男だ……本当に追放された劣等生なのか……!? しま――!?)
動揺した狙撃手は発射寸前で、大きく手元を狂わせた。
その弾丸は空き缶を捉えることなく、ジークの頬掠った。
「あ、いや、その……こ、これは……!」
当ててしまい、逆に動揺してしまう狙撃手。
だが、ジークは気にも留めず、表情も変えずにこう言った。
「二脚を確認してください、ちゃんと展開されていないようだ。
ただ、ゼロイン調整は完璧、真っすぐ飛んでいました。
次弾を」
「……っ、恐ろしくないのかい?」
「恐ろしいことなら、山ほど経験しましたから。……さぁ、次弾を」
◇
戦場では、時に人を超えた化け物が生まれる。
「二等兵、弾を寄こせ」
「……あ、ああ。
あんた、例の劣等生か? あの学園から追放されたって言う……」
「ふん、もう卒業したよ。今は一等兵だ。
――エリー敵陣に突っ込むぞ、付いてこい!」
「はい、隊長!」
ジークは恐怖で蹲っている一兵士から弾をひったくると、
愛銃ガーランド12.5mmスペシャルに装填する。
エリーと共に敵陣へと駆け出した。
そして、その化け物は今戦場を蹂躙している。
エリーはあの状況で助けられたという、強烈な吊り橋効果のお陰で、すっかりジークの狂信者。
その先にどんな危険があろうと、可愛らしい笑みで彼の後を着いてくる。
張本人、ジークも満面の笑みだった。
戦争というものにときめいてる。
最早、戦場に対して恐れなどない、愉快なだけだ。
迫撃砲で揺れる大地を難なく駆け抜け、塹壕へと滑り込む。
雑用係で磨いた腕で、無理やり改造した大口径小銃が火を噴き、1000m先の敵兵達の首元を吹き飛ばす。
すると、友軍から歓声が沸き起こる。
「やっぱり、戦場は良いな、エリー」
「うんっ、こんなに楽しいの生まれて初めてだよぉ」
学園では違った。
射撃訓練で超遠距離の的に、見事命中させても、歓声はあがらない。
インチキだ、偶然だ、思いあがるな……罵詈雑言ばかりだった。
貴族たちの集まりだ、貧民が自分達より強いというのはプライドが許さない。
だが、此処は戦場。
掛かっているのはプライドではなく、自らの命。
誰でもいいから敵を倒して欲しい。
強いものに付いて行きたい。
だから……。
遠くでこちらに銃を向けようとしていた敵兵の頭が吹き飛ぶ。
ジークは笑みを浮かべて後ろを振り返る。
「いいぞ、殺しちまえ!」
「あたしはあいつに従うよ! いい男だ!」
「後ろでふんぞり返っているだけの指揮官なんてお飾りだ!
ジーク隊長だ!」
此処にいる兵士は、ジークと同じく劣等生のようなものだ。
何かをやらかした者、嵌められた者、もしくはただの戦闘狂がこの戦場にいる。
味方から見捨てられ、支援も無い、弾も敵から奪って
何とか生きているような死にぞこない共。
だから、此処が彼の居場所だ。
◇
この懲罰大隊でキルを稼いだジークは王国軍の規範に沿ってどんどんと昇格していった。
だが、それでも学園に戻ってきていいとは言われない。
そもそも、一度追放したものを学園に戻すなんて考えが無いのだろう。
まぁどうだって良かった。
「ジーク曹長、本部から伝達、二時間以内に捕えた捕虜から情報を聞き出せとのことです!」
「承知した」
「……しかし、たった二時間でゲリラ共を・・・・・クソ、本部め、無理難題を突き付けてこうも俺達を……!」
「何、簡単だ。エリー、仕事だ」
「……イエス、マイ、ロード」
ジークだけではなく、エリーも着々と戦果を上げていき、ある特技を身につけ始めた。
「これから貴様らの尋問を開始する。
お前たちのアジトは何処だ?」
「……ゲハハハハハハッ! こんなお嬢ちゃんとお兄ちゃんが俺達を拷問!?
笑わせるぜ! はははっ!」
「王国軍もしょぼくなったもんだぜ!」
「飴と鞭の飴か、凄く甘そうな飴だぜぇ!
いや、心優しいお嬢さんだ、俺達を解放してくれるかもしれねぇぜ!」
「うん、解放するね」
エリーは一人の捕虜の何の躊躇もなく両眼を撃ち抜いた。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ! 目がぁぁぁ! 目がぁぁ!」
「おい、アダムス! てめぇ!」
「いい判断だ、いっぱいいてもうるさいだけだからな。
アレックス一等兵、彼を解放してやれ」
「おい、何も見えない!? こんな状況で解放されても――!」
「知るか、お前は捕虜だ。決定権は俺にある。
ちなみにこの辺には人里はないが、狼の群れはいるぞ」
「嫌だ、嫌だあぁぁぁ! 息子の顔はもう見れないのか!? おい、おい!」
「目が潰れたら、治らないんじゃないかなぁ……アレックス一等兵、彼を解放してあげて。早く」
「……は、はっ!」
「お前ら……よくもアダムスを! よくも!」
「彼は幸運だったよ。
さてと、次に死ぬ奴はどうやって解放しようか?
足を取るか、頭を勝ち割ってからか……案外、人間ていうのは頑丈でな。
もう一度聞こうか、お前たちのアジトは何処だ?」
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