女の子が病気で死んじゃうありきたりなどこにでもある話。

チャッチャラバベ太郎

女の子が病気で死んじゃうありきたりなどこにでもある話

「余命は後1年といったところです」

2週間前の藪医者の忠告に私の目の前はまっくらになった。


「すげーよ、チャラチャラした映画でさんざん見た覚えのある美少女感動ポルノが現実にあるなんてサイコーじゃね?」

ある日の事、すっかり愛らしい髪の毛も抜け落ちた彼女は病院の窓のへりに座り込んで足をぶらつかせていた。

「随分と楽しそうね」

ヒールをカツカツを鳴らしながら私は問うた。

「そりゃたのしーよおねーさん、ああもはっきり言われるとむしろ開き直って来ちゃうまであるね」

「開き直って得たモノがこれとはね、驚きよ」

この少女と知り合ったのは、数か月前。

仕事に飽き飽きして、そろそろ隠居を考えてカラフルなアレをいつものように吸おうとしたら。

「ラムネなら分けてよ、殺し屋さん」

黒服に囲まれた少女が、私の顔の前でニコニコと笑っていた。


「そ、おねーさんと一つ約束しちゃおうと思って」

「約束とは奇妙ね、依頼なら今受けてる最中なの」

「もう頼んだノルマは終わったのに?お姉さん転職ならベビーシッターがおすすめだよ。殺した人の数だけ子供育てれば天国いけるよ」

私は口の煙草の煙を彼女の方に向けた。彼女は咳をして窓の枠から飛び降りた。

………落ちちゃえばよかったのになあ。

そのまま彼女は私の前まで歩いて

「約束、私と私が好きな人をずーっと一緒に居させてくれること」

「報酬は何よ」

「オトモダチの約束にそんなの野暮だって知らないの?」

私は口の火の消えた煙草をこいつの頭の包帯に投げつけてやった。ざまあみろ。


私の最後の仕事内容を記しておこう。

まず彼女の両親と祖父母を殺した。屋敷のトラップは漫画かよってぐらい周到で二度とこの仕事やるかと血反吐を吐く思いだった。

彼女の家の使用人及び黒服も彼女と交流があった者は全員殺した。

骨を数本折られた。女の子の体に何してんだ。

彼女の小学校の仲良かった友達を18人殺した。

計画を周到に練り、バス事故に偽装して行方不明に扱いにするのには骨が折れた。

彼女の家の近所の住人も全員殺した。いや……確か見てくる目がいやらしかったデブは半身不随で終わらせたっけ。

彼女が行った事のある遊園地、高級レストラン、友達と買い食いしたコンビニ。

そこに努める者全員殺した。

老後用貯金を全部はたいた。ありったけのコネクションと体で代金を払った。みんな最初は同時にこんなに殺人が多発したら足が付くだろうが!と渋ったけど皆私のわがままを聞いてくれてありがとう。特に俊足のコルバルトーンは中出し一発で家と繋がりのあった名家を全部滅ぼしてくれたのは感謝しかない。私マグロで有名なのに。

そして、沢山の人を殺して、殺して、殺した。


依頼は数えきれないほどこなしてきたけれど。

約束はしたのは初めてで。

約束を果たすために、いろんな人と約束をした。

私は、約束の尊さ、人の思いのすばらしさを知って涙が出てきた。

思いは決して滅ばず、受け継がれていく。


「こう言うことが言いたかったのね、君は」

「何を言っているのかな、おねえさん」

病院で私たちはたわいもない会話を続けた。

あれからもう一年が経とうとしていた。

「思いは受け継がれる、素晴らしい事だよ。なんでこんな単純なことに気が付かなかったかなあ」

「お姉さんが単純だからじゃないかな」

「なるほど、じゃあしょうがないか」

「そう、しょうがないの。人生みーんなしょうがない」


「だからさ、おやすみしなよ。そろそろ」

「……独りぼっちになるじゃないの、貴方」

「それがいいの、貴方の仕事私が引き継ぐから」

私の余命は、後1日もあるんだから勝手に殺さないでほしい。

彼女の関係者を根こそぎ殺しつくし、彼女に適合する臓器をありったけ用意した。

殺し屋の息がかかったこの病院で、モグリの名医師を呼び寄せて。

彼女はそれまでの体を捨てて、生き延びる事を許された。

そして私は、そう言う訳にもいかない。なんせ全身麻痺の進行と脳に腫瘍ができてしまった。

もうベットから動く事は出来ないし、口もいつまで動くか分からない。

「古い自分は全部置いていきたかったから、もう充分」

「とんだ悪魔ね。置いていくにも程があるでしょ」

「貴方もその一人になるんだからいいじゃない。どう、新しい私は?」

彼女の体は色々な所から部品をかき集めたせいでだいぶ歪なモノとなっている。

13歳であるのに成人女性の肉体だし、肌の色はちょくちょく違うし左右の瞳も手の長さも違う。

「古いつぎはぎね」

「…もう、意地悪」

私ももうすぐ彼女にとっての過去になる。

過去を置いていくと言いながらその過去に彼女は生かされた。

だから、私も。

彼女の中で生きるから寂しくはない。


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