昔の記憶
不規則な呼吸を繰り返しながら眠っている大和。
汗をかいており、苦しそうにしている。
温めたタオルで大和を拭いている橘に、青年は問いかけた。
「やまとは、病気か何かなのか?」
「病気、か。そうなんだろうね。ただ、原因が分からなくて、対処法も無いと医師に言われた」
「じゃあ、ずっと治らないのか?大和はずっと苦しみ続けるのか?」
その問いかけに、橘は唇を噛み締めて俯く。
「そんなの、可哀想だろ……」
「私だって、やれる事は全部やったさ!!これ以上、何をすればいいのか分からないんだよ……」
救いたくても救えない。
自分が代わりになればいい、なんて何回思った事だろう。
どうして、大和だけがこんなに苦しまなくてはいけないのか。
「……こわ、い、……たす、けて……」
弱々しく大和から発せられた声。
手を握ると、微かに震えていた。
「大丈夫だよ。私が、君を守るから」
しばらくそのままでいると、大和が目を覚ました。
「ん、」
「やまと?」
「あ、れ。ここは」
「大和君、大丈夫かい?」
「あ、はい」
「よかった」
「あの、どうして橘さんが?」
状況を理解できていない大和に、説明をする橘。
「大和君が倒れててね。この子が私を呼んでくれたんだ。助けてくれって」
「……お前の事、ほっておけなかった」
「あ、ありがとう」
「……うん。じゃあ、行くから」
「あ、まって、くれ」
大和に話しかけられ、青年は立ち止まる。
「お前の名前、教えてほしい」
「無いよ」
「ない?」
「名前なんて、無い。切り裂きジャック、とは呼ばれてるけど」
「名前が無い、か」
「だから、やまとの事が羨ましいと思った。名前があって、ひとりぼっちじゃない。ぼくの無いもの、全部持ってる」
「お前……」
「みんな、ぼくなんてどうでもいいんだ。どうせおもちゃなんだよぼくは。遊ばれて、捨てられる。両親がそうだったように、ね」
自嘲気味に話す青年。そんな青年に、大和は
「そんな事、ない」
と声をかける。
「じゃあ、やまとはぼくに何かしてくれるの?」
「それは……」
「ほら。大人なんて、嘘つきばっかだ」
違う。嘘つきばかりじゃない。橘さんみたいな優しい人だって、沢山いる。
「じゃあね。やまと」
『……っ!みずきっ!!』
「……へ……っ?」
「お前の、名前だ」
橘さんが自分を救ってくれたように、自分もこの子を救ってあげたい。
「なま、え?ぼくの……?」
「名前が無いならつけてやる!ひとりぼっちならそばにいてやる!だから、だから」
「そんな、悲しそうな顔をしないでくれ」
「……どうして……どうしてぼくにそこまでするの?」
「どうして、だろうな。ただ、助けたかった。お前はきっと、今までずっと苦しんできたんだろう」
確信があるわけではない。でも、青年はずっと苦しんで生きて来た。そんな気がした。
「……ぐすっ、うぅ……やまと……やまとっ」
泣きながら大和の元に飛び込んでくる青年。
ずっと側にいてあげよう。
「おいで。一緒に暮らそう」
「おれっ、ずっとひとり、ぼっちで、っ……ぐすっ」
「大丈夫。俺はお前を捨てたりしない。ずっと一緒だ。な?」
「うんっ……うん」
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