切り裂きジャックと殺し屋兎

 自宅に帰り、青年をベッドに寝かせる。

「……たすけ、て……いたいよ……やめて……おね、がい……」

何の夢を見ているのか、青年はとてもうなされている。

そんな青年を横目に見ながら、大和は依頼終了の連絡をした。

『どうしたんだい?大和くん』

「依頼されたもの、取ってきました」

『おお。相変わらず早いね。流石大和君だ。何か危険な事とか、無かったかい?』

「危険な事……というより、青年がいたんです」

しばらくの沈黙があり、橘は口を開いた。

『青年?どうしてこんな時間に……』

「今俺の家で保護してるんですが、その……、人を殺していたんです。青年が。俺が行った時には、もう標的の人は死んでました」

『青年が殺人か……。その青年は、今どんな状況だい?』

「うなされてます。何かあったのでしょうか」

『……起きたら、少し話を聞いてみるといい。色んな可能性があるからね』

「はい」


 大和が家事等をしている間に、青年が目を覚ました。

「ん……あ、れ……?ここ、は」

見知らぬ場所に戸惑う青年。

「起きたか」

「……!」

「安静にしてろ」

「……どうして、助けたりなんかしたんだ。どうせぼくのことを道具としてしか見てないんだろ?気が済んだら、捨てられるんだ」

「お前は人間だ。道具なんかじゃない。捨てたりなんて、しないさ」

 安心させる為に青年の頭を撫でようとするが、払いのけられた。

大和を睨みつけて起き上がる青年。

「……うそだ。嘘だっ!大人なんて、大嫌いだ!!」


 青年はヘッドボードに置いてあったうさぎのぬいぐるみをこちらに投げつけ、駆けだした。

「待っ……!」

青年を追おうとする大和。

しかし突然すっ、と力が抜け、視界が傾いた。


ひどく咳き込み、吐血する。

うまく息ができず、ひゅーひゅーと喉が鳴っている。

知らない声が、頭に響く。


『注射を打つからね。痛くないよ。大丈夫、危険なものじゃないから』


——嫌だ。嫌だ、いやだ、いやだ……っ!


 背後から音がして振り向くと、青年を助けた男性が倒れていた。

血を吐き、まるで何かに怯えているかのように震えてうずくまっている。

「……」

いや。こいつは大人なんだ。

自分を散々な目に合わせてきた、大人の1人。

大人なんて、死んでしまえ。

そう、思っていたはずなのに。

気がつくと青年は、大和を助けようとしていた。

「オイ、起きろよ!おい!おいってば!」

声をかけたりしても返事が無い。

「起きない……どうすれば……」


 周りを見ていた青年の目に、スマートフォンがとまる。

「えっと……こいつでいいや!」

橘さん、と表示されていたのをタップし、電話をかける。

数回コールの後に電話が繋がった。

『もしもし?大和く、』

「助けてくれ!こいつ、起きなくて」

『君は、誰だ?』

「いいから、助けてくれ!」


 突然電話が鳴り、取ってみると大和からの電話でなく、青年のような声が聞こえてきた。

「助けてくれって、まさか……」

嫌な予感がし、橘は車を走らせて大和の自宅へと向かった。


 大和の自宅に着きリビングに向かうと、吐血して倒れている大和と、それを看病している青年がいた。

「大和君!?」

「あっ!助けてくれ!」

「……発作か」

苦しそうに息をする大和を見て、辛い気持ちになる橘。

「とりあえず、ベッドに寝かせよう。安静にさせないと……」

2人がかりで大和をベッドに寝かせ、橘はイスに座った。


「……大人は嫌いだ。でも、こいつの事はなんだか放っておけなかった」

「大人が嫌い?」

無言で俯く青年。その顔は、何かをとても憎んでいるような顔だった。

「何かあったのかい?」

「捨てられたんだ。両親から」

 なるほど、と橘は思った。

それなら、大和が言っていたようにうなされるのもうなずける。

大人が嫌いと言うことにも説明がつく。

「それで、大人が嫌いになったのか」

「……うん」

「そうか。実はね。大和君も捨てられていたんだ」

「こいつも……?」

「君より幼かった。最初は大変だったよ。全然話を聞いてくれないし、怯えて逃げ回るし」

橘の話を、青年は黙って聞いていた。

「大和君は、全身傷だらけだった。病気も持っていたし、何より片目が見えない。親もいない」

「……」

「よく、ここまで元気になったと思うよ。でも、病気はすぐに治せるものじゃない。きっと吐血して倒れたのは病気のせいだろう」

「やまとって、いうのか。こいつの名前」

「ん?ああ。そうだよ」

「……やまと。大変だったんだな。……ごめん」

静かな部屋に、不規則な呼吸音だけが響く。

大和の目は、閉じたまま。

「私は、大和君に負担をかけすぎたのかもしれないな。もっとちゃんとしなくては」

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