切り裂きジャック

切り裂きジャック

「ねぇ、切り裂きジャックくん。今度はこの人を殺してほしいんだ。どうかな。できそう?」

ローグの声。逆らったら自分がどうなるかわかっているから、やれる、と答えるしかない。

無言で頷く青年に、ローグは青年の頭を優しく撫でて微笑む。

「ふふっ、ありがとう。終わったら報告よろしくね。良い報告を期待してるよ」

そう言って自分の元を去っていくローグ。

1人になった青年は、支度をして施設を出ていった。

今回殺してきて、と言われた人は、能力を持った会社員。

人を殺す事には慣れているから、今更恐怖などは感じない。

それよりも、青年にはローグの方が怖かった。

彼は笑顔で人を殺し、平気で暴力を振るっていた。

そんな彼に拾われてしまった自分を恨むが、もうどうしようもない。

きっと、彼が飽きるまで自分はこき使われ続けるのだろう。

 青年は、人気ひとけがない暗い夜に人を殺す。顔を周囲に見せにくくするためだ。

逃走もしやすい。

巷では『切り裂きジャック』と呼ばれている。

「報告、しなきゃ」

ローグに報告する為にスマホを取り出して電話をかける。

コール音を何度か聞いていると、暗い夜道にうっすらと人影が見えた。

「人……?」

電話を切り、人影の様子を伺う。


 人影は迷う事なくこちらに近づいてくる。

まずい。見つかってしまう。

隠れようとしたが、もう遅かった。

蛍光灯の薄暗い灯りに照らされて現れたのは、黒い髪の男性だった。

黒い髪の男性は死んでいる会社員の前で屈むと、側に落ちていた鞄を調べ始めた。

「ぼくの邪魔をする気か」

一体、彼は何者なのか。

「邪魔などしていないだろう。目的のものが見つかれば……」


男性が全て言い終わる前に、青年は懐から刃物を取り出して斬りかかった。


「……っ!」

男性は青年の攻撃を間一髪で交わし、後方に飛び退いて距離を取る。

「お前には悪いが、死んでもらう」

「止めておけ。無駄な戦いはしたくない」


素早く距離を詰め、ナイフで薙ぎ払う。

「……止めておけと、言ったはずだ」

その言葉と同時に、身体を強い衝撃が襲う。

青年はその衝撃に耐えきれず、気絶した。


 * * *


 大和は会社員のバッグから目的のものを見つけ、懐に入れた。

気絶させた青年を見ると、涙を流していた。

どうして、こんな夜中に青年が。

気絶させた青年を放っておくわけにもいかず、どうするべきか悩む大和。

「こんな青年がナイフを振りまわすようになるなんて、世も末だな。とりあえず家で保護するか」

大和は青年を抱き抱え、自宅へと向かった。

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