救出
「いよいよ、か」
隣には橘と大和という心強い味方がいる。
大丈夫だ。律を取り戻せる。
そう何度も自身に言い聞かせる黒澤。
「ふふ、緊張してるね?在真君」
「緊張してるのか。そんなので大丈夫か?」
「大丈夫だろ。多分」
黒澤一行は迷う事なく施設に着いた。橘が事前に調べてくれていたのだろう。
「着いたよ。ただ、この先は何があるかわからない。注意して進んでくれ」
施設に入ろうとすると、黒澤は自身の足が震えている事に気づいた。
“怖い“
何故こんなにも恐怖が出てくるのか。
「黒澤君?」
橘の声にハッ、となり、意識が戻る。
「どうしたんだい?怯えているように見えるけど」
「な、なんでもない。大丈夫だ」
「進むよ」
「あ、ああ」
施設の中は薄暗く、少し視界が悪い。
「薄暗いね……これだと息子くんを見つけにくい」
「俺の能力、使いますか?」
「バレないかな」
「調節できるので、最低限の炎出しときます」
「そうか。ありがたい」
大和の能力は便利な能力だな、と思う黒澤。自分のは毒を操るというなんとも使いづらい能力。
* * *
「施設長!侵入者が……」
「ん?へぇ、そんな人もいるんだね。監視カメラ見せて」
監視カメラの映像には、男性が3人写っていた。
その男性3人は、ローグの見覚えのある人達だった。
「大和くん!?大和くんじゃないか!それに黒澤くんも!」
「大和って、施設長が探していた人ですよね?」
「ああ、そうだよ!まさか向こうから来てくれるとは……でも、黒澤くんが来るなんてね。子供がどうなってもいいのかな」
楽しそうに映像を見るローグ。会ってきてもいいかな?とローグは部下に言った。
「いいですが……ローグさんが怪我しないか心配です」
「だいじょぶだいじょぶ。僕はそんなに弱くないよ」
席を立ったローグは、軽い足取りで部屋を出ていった。
* * *
大和の出す小さな炎を頼りに進んでいく3人。
不意にコツコツと足音が聞こえて来る。
大和はすぐさま炎を消したが、間に合わなかったようだ。
部屋が明るくなり、足音の正体が姿を現した。
『大和くんに黒澤くん、だね?ようこそ、実験施設へ!僕は施設長のローグって言うんだ。よろしくね』
ニコニコと微笑みながら話しかけるローグ。それを見て顔を強張らせる黒澤達。
「そちらの方は、橘くんだね?大和くんと一緒にいてどう?楽しいかい?」
「どうして、名前を」
「どうして?調べたんだよ。全部ね。君達が裏社会に入った事、家族が殺されたこと、……色々ね」
「ローグ、律を返せ」
上擦った声で言う黒澤に、ローグは微笑む。
「律くんが大切なんだね。でも、僕にも大切なものがあってね。そこでだ。律くんと大和くんを交換しないかい?」
「交換、だと?」
「どうかな、いい提案だと思うんだけど」
「大和君を渡せと言うのか」
「僕はね、能力について知りたいんだ。色々とね。それには大和くんが必要不可欠なんだよ。実験の材料として。だからさ。おいで、大和くん」
大和を迎えるように両手を広げるローグ。
「嫌だ。俺は、橘さんと一緒にいる」
「橘くんと一緒にいたい、か。そうか……なら」
ローグは橘を蹴り飛ばした。
「が、っ……」
格子に背中をぶつけ、苦しそうにうめく橘。
「橘さんっ……!」
「話してダメなら、力づくでも大和くんを貰う」
橘さんが、蹴り飛ばされた……?
強いはずの橘さんが。
「あれ。呆気ないね。反撃とかしてくるのかな、と思ってたんだけど。もう終わり?」
「げほっ、けほ、……」
「ねぇ、橘くん。どうする?もう一度だけチャンスをあげるよ。大和くんを渡して欲しいんだ」
「渡さ、ない……大和君は、渡さない」
そう言う橘の瞳は、力強い。
「へぇ。度胸はあるんだね」
ローグはどこから出したのか、小型のナイフを使って橘の脇腹を刺した。
「ぐ、っ……」
「ふふっ」
「やめろ……やめてくれ!」
「大和くんが来てくれるのならやめてあげてもいいよ」
「分かった、着いていくから。これでいいだろ?だから、橘さんを離せ」
「大和、く……」
「来てくれるんだね!嬉しいなぁ。じゃあ律くんも離すよ。約束だからね。僕、約束は守るんだよ?」
「さっさと律を返せ」
「分かったって。まぁ、その気持ちも分かるけどさ」
ローグが格子の扉を開けると、律が泣きながら出てきた。
「ほら、律くんだよ」
「律!」
「うっ、ぐすっ、パパ、パパぁ……」
「親子感動の再会って感じだねぇ。ふふ、微笑ましいな」
お前のせいだろうが、と黒澤はローグを睨みつける。
「そんなに怒らないでよ。返してあげたんだからさ。……さて、じゃあ僕たちも感動の再会といこう……」
嬉しそうにこちらに向かってくるローグ。大和は、そんなローグを強く蹴り飛ばした。
「う、っ」
顔を苦痛に歪ませてよろめくローグ。
今だとばかりに、大和は
「黒澤!逃げるぞ」
と言って負傷した橘を背負い、走り出した。
素早く律を抱き上げて大和達を追う黒澤。
何とか律を救出する事ができた。
「いてて……大和くんの蹴りは強いね」
蹴られた場所をさすりながら歩く。
また大和に逃げられてしまった。
「また逃げられちゃったね。……次は、必ず」
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