大和くん
「たまには散歩するのも楽しいよね〜」
そう呟くローグは、気分転換に外に出ていた。
実験が行き詰まった時などにはよくこうしている。
「何か面白そうな事は……ん?」
目の前を歩いているのは、自分がずっと探していた、大和くんではないか。
声をかけようとしたローグだったが、大和が1人ではなく、見知らぬ男といることに気づく。
「誰だろう?知り合いでも出来たのかな……。まぁ、どうであれ、オレがそれを許すはずないよね。大和くんはずっとオレの大切な実験材料なんだからさ」
レイセルに逃された後、彼は一体どんな生活を送ってきたのだろう。
捕まえた後にたくさん話を聞こう。色々と発見があるかもしれない。
「ふふふっ。楽しみなことが増えたね。もう少し尾行を続けてみようか。もしかしたら、大和くんの隣にいる男のことも何か分かるかも」
誰かにつけられている。橘はそう思った。
能力を使って心を読むと、どうやら相手は大和のことを狙っているらしい。
このままにしていては危険だ。
悩んでいると、「橘さん」と声が聞こえて大和の方を見た。
「どうしたんですか?ぼーっとして」
「あ、ああ。何でもないよ。大丈夫」
何か相手の気を引けるものはないか。
「橘さん、少し休憩しませんか。疲れているようですし」
「えっ。私、疲れてるように見える?」
「さっきから遠くばっかり見てますよね。とりあえず、少し休みましょうよ」
「うーん、わかったよ。休む。……あ、丁度そこにカフェがあるよ。あそこで休もう」
確かに、周りに気を張りすぎて疲れているのかもしれない。
ここは大和の言う通り休もう。
カフェの席に座り、メニューを見る。
「大和君は何を頼むんだい?」
「俺は……そうですね、コーヒーとホットケーキで」
「じゃあ、私もそれにしようかな」
「マネしないでくださいよ……」
「ふふ、いいじゃないか。お揃いだよ?」
「そう、ですけど」
本当に大和は可愛いな、と橘は思う。守ってあげたい、一番大切な人。
たとえ自分が傷ついても、大和だけは守ってあげたい。
大和には幸せに暮らしてほしいから。
店員に注文し、待っている間は、最近はどうか、など談笑をして時間を潰した。
しばらくして、注文したものが運ばれてきた。
いただきます、と言って美味しそうにホットケーキを食べる大和。そんな大和を眺めながら、ずっと一緒にいれたらいいのにな、と思いつつ橘もパンケーキを食べる。
穏やかな時間が流れていく。
食べ終わり、会計を済ませてカフェを出た。
「あの、すいません。奢ってもらって」
「大丈夫だよ。可愛い大和君も見れたし」
「か、っ……やめてくださいって、そういうの……」
恥ずかしそうにそう言う大和。やめてと言われても、可愛いのだから仕方ない。
周囲を見ると、大和をつけていた人はいなくなっていた。うまくまけたようだ。
今後も気をつけなくては。
* * *
実験施設に戻ったローグは、1人ぼやいていた。
「あーあ。逃げられちゃったぁ」
大和達が寄ったカフェに、美味しそうなアップルパイを置いていたのがいけない。
夢中になって食べているうちに、見失ってしまった。
「ま、いいか。2人の写真は撮れたし」
ローグの机の横には、3枚の写真。
2枚はそれぞれのバストアップの写真、1枚は2人が一緒にいる写真だ。
「我ながらよく撮れてると思うよね」
そう言うとローグは、橘の写真の胸部分目掛けてナイフを投げた。
ドスッ、という音と共にナイフが写真に刺さる。
「大和くんに近づくヤツは排除しないとね」
低い声でそう言うと、ローグは部屋を出て行った。
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