サソリと鷹2
しばらく涼介と話していた男性。
ふと気になり、男性に「お前、名前は」と聞いた。
「……ふむ。確かに君だけが名前を言うのは不公平だね。私は橘昂鷹。君の言う通り、殺し屋をしている」
「橘昂鷹!?」
名前を聞いて、黒澤は驚く。まさか、コイツが次のターゲットだなんて。
「あれ、私の名前を知っているのかい?教えたつもりはないのだけど……」
「い、いや。何でもない。いい名前だと思う」
そんな黒澤を見て、くすくすと笑う橘。
この男を殺さなくてはいけない。でも、彼は全く隙がない。
黒澤は焦りを感じていた。自分はこの男を殺すことができるのだろうか。
しかし、殺さなくては息子である律の命が危ない。
「なんだか、私の事をもっと知りたいって顔をしているね。質問されたら答えるよ?」
「何でも、か?」
「流石に個人情報までは教えられないけど、それ以外なら」
これはありがたい。本人から情報を得られるのだ。
しかし、いざとなると質問が浮かばない。
聞きたいことはたくさんあるのに、何を聞けばいいのかわからなくなる。
「ふふ、悩んでるね。ゆっくりでいいよ。私は逃げないから」
「……職業は?」
「職業か。営業だよ。文房具のね」
「文房具の営業……」
「結構楽しいよ?」
「そうか」
検索をかけてみると、出てきた。どうやら彼は社長を務めているらしい。
「お前、社長なのか」
「ん?うん。一応ね。でも最近はちょっと自分が社長なのかわからなくなってきてるかな……。秘書君が優秀でね」
それで大丈夫なのか、と不安に思う黒澤だが、今もやっているのだから大丈夫なのだろう。きっと。
「人の上に立つのは大変なんだろうな」
「……そうだね。でも、私の部下達はみんな優しいし、自分の意見をはっきり言ってくれる。私はとてもいい部下を持ったと思うよ」
「いい会社だな」
部下に仕事を押し付けてくる自分の会社とは大違いだ。
「……おっと、そろそろ閉店時間か。早いね」
「もうそんな時間か」
壁にある時計を見ると、時刻は深夜0時。
帰って計画を立てなくては。
「お前らずっと話してたもんな。あ、ちゃんとお金払ってけよ」
「心配しなくても、飲み逃げなんてしないよ。涼介の店がなくなったら困るからね」
「お金忘れた奴が何言ってんだ」
「あれは申し訳なかったって思ってる」
会計を済ませて店を出ると、橘が話しかけてきた。
「今日は楽しかったよ。もしよかったら、今度一緒にまた飲まないかい?」
「いいのか?」
「うん。これ、私の連絡先。渡しておくね」
連絡先を交換し、それぞれ帰路についた。
これから彼を殺さなくてはいけないのだと思うと心が痛むが、仕方ない。
仕事は仕事だ。
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