殺し屋3人

 数日後。仕事終わりの橘の元へ、電話がかかってきた。

画面には黒澤在真と表示されている。

「もしもし」

『もしもし、橘か?』

「ああ、そうだよ。どうしたんだい?」

『今日、空いてるなら一緒に飲まないかと思ってさ。どうだ?』

「丁度仕事終わりだし、いいよ」

『いいのか?わかった。じゃあ、涼介のバーで待ち合わせな』

「涼介の所ね。了解。楽しみにしてるよ」

通話を終了し、椅子から立ち上がる。

「お疲れ様、大和君」

「あ、もう帰られるんですか」

「ああ。飲みに誘われてね。大和君も行くかい?」

「私が行ったら迷惑になりません?」

「そんな事ないよ。飲むならみんなで飲んだほうが楽しいだろう?」

「……じゃあ、お邪魔させてもらいますね」


 * * *


涼介の経営するバーについた橘達。

まだ黒澤は来ていないようだ。

「とりあえず来たけど……いないね。早く着いちゃったかな」

「相手はどんな人なんです?」

「私達と同じような仕事をしている人だよ。面白い人でね。大和君にも紹介したいと思ってたんだ」


 しばらくして、黒澤がやってきた。

「待たせたか……って、あれ?」

「ああ、行きたいって言われたから連れてきたんだ。月見大和君だよ」

「月見大和だ。よろしく」

 大和が黒澤に自己紹介すると、黒澤は大和の事をじっ、と見つめてきた。

「月見、大和?」

「ええと、名前は?」

「あ、ああ。黒澤在真だ。よろしく」

何故か、大和とは初めて会った気がしない。黒澤はそう思った。

しかし、記憶を掘り起こしても彼と会った思い出などない。

何だかモヤモヤする感覚だ。

「私は涼介のオススメを貰おうかな。君達は何飲むんだい?」

「俺も涼介さんのオススメで」

「俺は……ウイスキーにする」

「了解」


 酒を飲みながら世間話をしている最中、黒澤は橘を殺す機会を窺っていた。

まさか2人で来るとは思わず、毒を入れる隙がない。

「すまない、少し席を外すね」

そう言って橘は店の外へと出ていった。

カウンターには大和と黒澤の2人きり。涼介も店の奥にいる。

チャンスだ。そう思い、黒澤は大和の隣に移動した。

話しながら毒を入れれば何とかなるだろう。

「……なぁ、大和」

「ん?」

「俺、お前と初めて会った気がしないんだ。どうしてだろうな」

「俺も、初めて会った気がしない。いつか会った気がする」

「そう、か」

大和と話しつつ、能力を使って橘の酒にこっそり毒を入れた。

これで橘は死んでくれるはずだ。


「ただいま。あれ?何だか少し仲良くなっているね。2人とも」

「あ、はい。お互い初めて会った気がしないな……って話を」

「へぇ。それは不思議だね」

元の席に戻る黒澤。橘は席に座ると、グラスを手に持ち酒を飲もうとした。

「……っ!」

橘が飲もうと傾けたグラスを、大和は払い除けた。

ガシャン、と音がしてグラスが割れ、橘は呆然と割れたグラスを見つめる。

「大和、くん……?なにを」

「お前、グラスに何をした?答えろ!!」

黒澤に向かって怒鳴る大和と、俯き沈黙する黒澤。

バレてしまったか。しかし、誰にも見られないように能力を使って毒を入れたはずなのに、どうして大和はわかったのか。

「答えろと言ってるんだ!!答えなきゃ、お前の息の根を止める」

諦めたような顔をして、黒澤は答えた。

「毒を、入れた」

「……ッ!やってる事がわかってるのか!?橘さんが死ぬところだったんだぞ!?」

「大和君、落ち着いて」

橘がなだめるが、大和は怒りが収まる気配がない。

「……俺だって、好きで人を殺そうとしてるわけじゃない」

「お前……ッ!」

「大和君!!」

橘が声を荒げると、正気に戻ったのか大和はしゅん、として橘の方を見た。

「す、すいません。でも、」

「少し落ち着こうか。それに、在真君の話も聞いてみようよ。何かわかるかもしれない」

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