突然の電話
「ふぁぁ……おはよぉ、大和君」
眠い目を擦りながら出勤して来た橘に、大和は「また夜遅くまで何かしてたんですか?」と呆れる。
「ごめんって、情報収集してて気づいたら深夜になってたんだよ」
「はぁ。全く、ちゃんと休んで下さいね?お茶は用意しておきましたから」
「ありがと……」
デスクに座りお茶を飲む橘を見て、おじさんみたいだな、と大和は思った。
もちろん言わないけれど。
「ん?私に何かついてる?」
「いえ、なんでもないです」
「そう?ならいいんだけど」
そんな会話をしている橘のスマートフォンが振動した。
番号を見ると、昨日来た依頼人からだった。
「……依頼人から電話?」
「え?昨日受けたばかりですよ?本人ですか?」
「わからない。出てみるよ。もしもし」
『あの、すいません。依頼を取り消してはいただけないでしょうか』
「依頼を取り消す??いいですが……何かあったんですか?」
『はい。黒須明さんを殺してほしい、と頼みましたよね?その人が、殺されたそうなんです。だから、依頼を取り消してもいいかなって』
「わかりました。依頼は取り消し、と言う事でいいですか?」
『すいません……では、ありがとうございました』
通話を終了し、橘はため息を吐く。
ターゲットが、殺された?
一体どう言う事なのか。
「橘さん?依頼取り消しって、どう言う事ですか?」
「ターゲットが、殺されたらしい」
「え?どうして……」
「わからない事が色々あるね。とりあえず、仕事が終わったら涼介のところで話しあおうか」
二人は仕事を終えた後、真っ直ぐに涼介のバーへ向かった。
「いらっしゃ……お、昂鷹」
「いつもの奴を」
「了解」
ワインを少し飲んだ後、橘は本題に入った。
「さて、どうして彼女は依頼を取り消したんだろう?」
「え。依頼取り消しがあったのか?」
「ああ。今日、依頼人から直接ね。ターゲットが殺されたから、依頼は取り消してほしいといわれた。でも、テレビやネットを見ていてもそんなニュースはなかった」
少し考えた後、涼介は口を開いた。
「謎だな。依頼人はどうしてターゲットが"殺された"ってわかってるんだ?それに、なぜターゲットが死んだと断定できる?」
「そう、そこなんだ。それがわからなくてね」
「殺人現場に偶然居合わせた、とか?」
「うーん……そう、なのかなぁ」
実際に黒須明と会話をしたりしたわけじゃ無いから、彼がどう言う人間かまではわからない。
ネットで情報を仕入れても、必ずその通りの人物だとは限らない。
「涼介。殺人現場に行って調べる事ってできるかい?」
「変装は得意だしな。いけるぜ」
数日後。再び涼介のバーに集まった橘達。
「やぁ、涼介。何か情報はあったかい?」
「ああ。黒須の死因は毒による自殺……と警察は言っていたが、多分殺されたんだろうな。証拠を見つけられなかったからそう判断せざるを得ないんだろう」
「へぇ……」
その警察官の中には椿もいたのかな、と思いながら涼介の話を聞く橘。
「あとだな。毒を使う殺し屋、ってのがいるらしい。俺はそいつが犯人じゃないかと思っている」
「毒を使う……そんな殺し屋もいるんだね」
「毒、か」
「大和君?何か、心当たりでもあるのかい?」
「い、いえ……」
その日の帰り道、大和はずっとモヤモヤしていた。
『毒を使う』という言葉に、何か不思議な感覚を覚える。
(心当たりというか、何だろう、このモヤモヤした感じは……)
考えても何もわからない。でも、何故かあったかい気持ちになる。
「あーッ!わからねぇ!何だこの気持ちは……」
よくわからない感情を抱えたまま、大和は帰宅した。
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