依頼 2

 自宅でのんびりくつろいでいる橘の元に、一件の電話がかかってきた。

依頼の電話だ。

「もしもし」

『あ、あの。依頼を受けてほしいんですが』

 電話越しに聞こえるのは女性の声だ。

「依頼、ですか。どんな内容で?」

『会社員なんですけど、黒須明くろすあきらって人です。詳細は送りますので……』

わかりました、受けましょう。と言って通話を終了した。

「ふぅ……。今回は私が行こうかな。とりあえず大和君に報告しなきゃ」

 橘はスマートフォンに送られてきたターゲットの詳細をパソコンに転送しつつ、大和に電話をかけた。

『こっちのケータイに電話してきたって事は、依頼ですか?橘さん』

「察しがいいね。そう。依頼がきたよ。ターゲットは会社員だ」

『会社員、ですか』

「ああ。名前は黒須明。二十代。玩具メーカーの会社で働いているそうだ。今回は私が行こうと思う」

 少しの沈黙の後、大和が口を開いた。

『どうして、橘さんが行くんですか?俺が行きますよ』

「大和君だけに任せる訳にはいかないだろう?たまには私に行かせてくれ」

『……わかりました。くれぐれも無理はしないでくださいね』

「分かってるよ。大和君は本当に心配性だよねぇ……そのセリフ何回聞いたかわからない」

『無理をして、体調を崩してほしくないんです。前にあったでしょう?無理しすぎて体調を崩したって事が』

「大丈夫だよ。これでも体調管理には気をつけてるから」

 電話越しにため息をついた音が聞こえた。大和は本当に、自分の事を気遣ってくれている。

ありがたいが、少し世話を焼きすぎでは、という気持ちもある。

『まぁ、分かりました。何か手伝える事があったら、いつでも言ってください』

「りょうか……」

「橘さーん!」

「やべっ……ごめん大和君、一旦切るよ!」

 玄関から蓮の声が聞こえ、橘は慌てて大和との通話を終了した。

パソコンの電源も落とし、玄関へ向かう。

「雑貨屋さんに寄ったんですけど、これ、橘さんに」

そう言って蓮が袋から出したのは、黒猫の柄がはいったコーヒーカップ。

「わ、おしゃれだね。もらっていいのかい?」

「橘さんの為に買ってきたんですよ?受け取ってくれないと困ります」

「じゃあ、もらおうかな。素敵なプレゼント、ありがとう」

微笑んで言うと、蓮は照れながら笑い「ここにいさせてもらっているので、お礼です」と言った。

「そう言えば、色々と落ち着いたかい?」

「……ああ、少しは落ち着きました。あと少ししたら家に戻ろうかと」

「そうか。無理はしないようにね」

家族が亡くなるのは、相当辛い事だろう。言葉では言い表せない。

 その日の夜、橘はターゲットについての情報収集をしていた、が。

「ふぁぁ、ねむい……でも情報収集しなきゃ……うぅ」

眠気が限界まできており、情報収集どころではなくなってきた。

だめだ。寝よう。これでは情報が頭に入らなくなってしまう。

ベッドに行く気力もないので、そのまま寝る事にした。

 明日は仕事だ。また大和君にちゃんと寝てくださいと怒られるんだろうな、と思いながら、橘は眠りについた。

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