第7話 応援

殺されそうになったジェイを助けようと最初にドキューに近づいたブラックは、瞬く合間に背を打とうとしたが、それに気づいた彼に電気ショックを浴びられてしまった。その次にグリーンとレッドが剣のように携帯を振り回し、ナイフで腹部を切られたようだ。携帯をハンマー状に握ったイエローとホワイトが勢いをつけて上司の背後から飛んできて、こちらも上半身を電気で切られた。倒れたブラックの身体は麻痺し、起き上がるのすら困難なようだ。他の4人の負傷部からは血が溢れ、少しづつスーツを真紅に染める。

「ふん、私に逆らおうとするからこうなるんだ。さあ、邪魔が入ったが次はお前にばんだ。っと、なんでこんな肝心な時に本部から電話が…。はい、こちら進力図書、教育器具部採取係のドキューです。ハイ、その件についてですか。少々お待ちください。」

と言うと何処かに行ってしまった。



痛みを堪えて、ブラックは言い放った。

「なんだよ、あの人は…。仕事だからと言って、人を傷つけるなんて、どうにかしてる…」

「部下にさえ無慈悲な上司は、誰かを救うことなんて、出来る訳無い…。」

「若いからこその良さを見ずに、悪さだけを見るとか、本当腹たつ…。」

グリーンとレッドが続いた。そしてイエローとホワイトも虫の息をする。

「あんねぇ、狭い視野で働く企業とか、誰も応援したく無いよ…。」

「自分を塞ぎ込む時代は終わったのに、なんでこんな考えを押し付けるんだろう…。」



それらの発言は愚かで、しかし分かるような気もする。自分のことを犠牲にしてでも、誰かを守ろうとする気持ち。それが思いやりであり、正義であり、愛であること。彼らはそれを成し遂げた結果、瀕死に至っている。このまま見殺しにするのだけは真っ平御免だ。

そうだ、私には回復能力がある。彼らに自分の力を渡したら、傷は一瞬で癒える。

思いっきり両手をマホロバンに向けた。しかし、一向に光は出ようともしなかった。

もう一回気を取り直して手を差し出した。光らない。パワーが出ないのだ。

原因は分かる。エネルギーは使うと、補給する必要がある。自分に必要なエネルギーは、一日約3000kcal。先ほどドキューの治療に使ったので本来なら何か高カロリーのハンバーガーや牛丼でも食べるべきなのだが、時間が無かった。要するにエネルギー不足だ。このまま無理矢理でも力を出そうとすると、自分が命を落とすどころが、送るパワーの調整が効かずに逆にダメージを与えてしまう。

この問題を解決する方法はただ一つ。周りの人のエネルギーを吸い取り、それを彼らに渡すことだ。

だが、それは子供たちに協力して貰わなければならない。それだけは御免だ。人に頼るのは良くない、自分でなんとかしなさい、などと何度叱られたことだろう。これは中学校の先生だけではなく、小学校の先生・両親からも言われた。そう、自分の限界を放てば、マホロバンを助けられる!いや、でも、このままじゃ…!



「みんな、私はマホロバンを元気にすることが出来るの。でも今は力が足りない…。そこでみんなの力が必要。大きな声で『頑張れー!』って、マホロバンを応援して!行くよ!せーの」

次の瞬間。彩恵が思ってもいなかったことが起きた。子供たちは思いっきり応援してくれたのだ!空かさずその声にあるパワーを左手で吸収してマホロバンに右手を向ける。元気の導線となりながら子供たちに更に応援を促した。彼らはそれに一生懸命に応えた。ひとまず止血に成功したようだ。スーツへの紅いシミの広がりは落ち着いた。ホワイトがいち早く気づいたようだ。

「ん?体が痛くなくなっている…。」

「あたし達ティアーバカダにやられていたはずじゃ…?」

「姉ちゃん、これきっと皆の応援のおかげだよ…!」

グリーンとレッドの姉弟が少しづつ立ち上がろうとしている。イエローも先ほどまで右肩を押さえていた左手を外した。

「なんか、元気が湧いてくる…マジやばい!」

「お前、大丈夫なのか…?俺ら一応敵同士じゃ…」

ブラックはジェイを心配していたが、彼女は5人の回復に夢中で聞こえなかった。あと少しで完全に回復できる。全力で行こう!

「みんな〜!次は今日一番の元気で応援してね!せーのっ」

「「「「「頑張れ〜!!!!!!」」」」」

耳を貫きそうなその声を自分のエネルギーに換え、マホロバンに放った。間も無く彼らは安定した呼吸で体制を取り戻した。

「「「「「うおおおおおおおおおおおおお、はっ!」」」」」(ジャキーン)

「みんな、ありがとう!」



その大声にドキューが駆けつけた。

「なんだなんだこの騒ぎ…ってあ〜っ!!宮滝、貴様何をしたんだ!」

手持ちのナイフで部下を切り裂こうとした彼をマホロブラックが携帯で食い止め、剣と剣がぶつかり合った。その隙にジェイはそこを離れた。上司は先ほどイエローとホワイトにやったように腹部を狙ったが、ブラックはすかさず後ろに跳び躱した。そしてイエローとグリーンが背中を撃った。ティアーバカダは向こうのほうにいる子供にも聞こえるような呻き声をあげる。すぐに体制を取り戻されて今度は電気ショックを放ってきた。ダメージを受けているとはいえども、その光線は確実にマホロバンに向かっていた。彼らは勢いよくスマホを振り回して、なんと「打ち返して」しまった。まさかのカウンターはドキューを直撃し、表面のメッキ加工が剥げた。左腕から煙が上がっている。

「くそっ、おのれ…。若者のくせに、生意気な態度をしやがって…。」

彩恵は言い返した。自分の本音を、もう一度伝えるんだ!

「その言葉、パクってもよろしいですか?」

「なんだとぉ⁈」

「あなた方のように考えの合わない人を完全に侮辱する人が増えても、それは今後の社会のためとはとても言えません。ここはそのような恥ずかしいことを教える企業ですか?それとも、貴方はこの世界に差別や恥を作るためにここに就職されたのですか?大人のくせに、子供に格好悪いところを見せて何がしたいんですか?」

突然の爆弾発言に、ドキューは固まってしまった。それに気付いていたように彩恵は右に動き、次の瞬間にはレッドとホワイトがヌンチャクで体に叩いた痕を残した。

「そうか、もういい、もういい。頼むから私の指示を聞いてくれ…頼む。」

混乱して話が噛み合わなくなったティアーバカダを見て、マホロバン達は彼の前に並んだ。

「今だ、行くぞ!」「「「「うん!」」」」

スマホをいじり始めたと思いきや、突然ブザーが鳴った。

「ビームモードに変更しました。」という無機質な声が聞こえたら、マホロバンの5人はスマホをドキューに向けた。


「五つの『和』の光!

「「「「アワー・フラッシュ・シャット!!」」」」」

その叫びと共に、銃、じゃなくてスマホの画面からそれぞれのスーツと同じ色の光線が飛び出してきた。赤、黄色、緑、黒、白の光はドキューの体を貫通し、消えた。彼の体はジュウウウウ、バチバチと不快な音を上げている。メインコンピュータを破壊され、制御不可能になったのだ。

ふらふらになった元上司は哀しくぼやいた。

「ったく…俺の人生はなんだったんだよ。青春では良い大学に入るため、仕事では良い業績を得るため、遊びも家族も犠牲にして…。」

そう言い残して、倒れた。最期に無機質な女性の声が室内に響き、途切れた。

「予期せないエラーが発生しました。予期せn…」パチっ



気まずい沈黙を破ったのは響と文隆だった。

「みんなありがとう、ティアーバカダを倒せたよ!」

「ご家族やキャンプのスタッフさん達にはもう連絡済みだから、これでもう大丈夫。」

「それにしても、今回の敵はなんか人間臭くなかったか?」

成美の発言に、灯がそれは…と言いかけて、止めた。ティアーバカダが元々は人間だったということを知ると、仲間にはこれからの戦いが辛くて仕方がなくなるだろう(響が特にそうなのを彼は知っていた)。

「とりあえず業務終了ということで、あとはみんなでここを出ようじゃん!」

英次郎の提案に全員が乗っていた。


ここだ。私の居場所は彼らだ。ここなら自分の能力を発揮できて、かつ子供達を守れる!まだ会ったばかりの彼らに、彩恵は強い興味を持っていた。もしかしたら、彼らのヒーラーとして働いたら、私はかつて塞ぎ込んでいた悲しみ・悔しさを乗り越えられるかもしれない。そう思って、彼らに声をかけてみた。

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