第6話 和光人戦士 マホロバン

「ど、ドキューさん!」

真っ青な顔をジェイは上司に見せる。

「なんか聞こえるなと思ったら、まさか弊社の裏側を見せるとはなぁ…。死にたいか、貴様?」

「別に構いません。こんな人殺しさえも仕事とする職場はもう結構です。どうせ、私は死ぬ筈だったんです、2年前に。」

それを聞いて、ティアーバカダは鼻で笑った。

「なるほど、でもやるべき事を中途半端で死ぬのも困るから、来い!」

そういうと、無理やり彼女を地下に連れ去った。追いかけようとしたが、灯は催眠ガスを顔に直撃されて、その場に倒れ込んでしまった。


「…す!おいトモス!起きろ!」

気がついたら、響・英次郎姉弟に体を揺さぶられていた。

「良かった…。起き上がったと思いきやすぐどっかに行ってしまって、心配したんだから!」

「まさかティアーバカダに襲われて倒れていたとは…尾行しておいて良かったよ!」

「それは…、済まなかった。」

「んじゃ、早く地下室に急ぎましょう!成美と文隆だけじゃ彼には敵わないと思うし。」

詳しく話す暇もなく、3人は下の方へ降りていった。


その頃、ドキューはジェイを説教していた。

「宮滝彩恵!お前なんてことを漏らしたんだ!あんな情報が厚生労働省にバレたら本社は倒産どころじゃないことぐらい分からないのか‼︎それともお前の脳みそはすっからかんなのか‼︎」

怒鳴り声にも怯まず、彼女は言い張った。

「中学校の卒業式前に勝手に攫っておいて、こちら側が圧倒的に不利な条件で強制的に働かされるのにはもう我慢なりません。本日をもちまして、私は進力図書を退職させて頂きます!短い間でしたが、お世話になりました!」

急に部下が怒鳴ったので暫く上司は黙っていたが、はぁ?と素っ頓狂な声を上げる。

「ふざけた事を言うんじゃ無い。もう子供じゃ無いだろ?ここを辞めて、どこで金を稼いで生きていくつもりかい。中卒就職で雇ってくれるところも給料は低い。まあ君はまだ若い女性だから、どこかの施設は雇ってくれるだろうがな。しかし、君の能力が世間に知らされたら君はメディアの晒し者で、命を狙われて日々を過ごさないといけなくなる。それに比べたら、ここはまだ温室だぞ。外の冷たい環境に触れる事なく、年中快適な方だと思うんだが?全く、今時の若者はどうしてこんなに贅沢なことをしたがるのかがさっぱり分からん。そんなに世の中は甘く無い。妥協が肝心。自分のことなんてどうでも良いことじゃ無いか。そんなことに人生を注ぐなんて、ろくでもない一生だろうな。なぁ、そこのお嬢ちゃん。君もお父さんやお母さんに、自分のことよりも人の方を大切にしなさいとか、自分に厳しくとかって言われてきたことだろう。そうだ、自分の考えより他人の考えの方がずうっと大事だ。反対なんて、人間としての恥だ。」

そう言い切ってジェイの主張を鼻で笑いきろうとしたその時だ。


「それは違う!子供だって主張して良い!」

「その考えは一歩間違えると人の命を奪ってしまうよ!」

「おじさん、妥協時代は終わったよ!」

「あ〜あ、自分大切に出来ないと人も大切に出来ないよ?」

「広い世界を知らない方には、言われたくない一言です!」

5つの叫び声と共に、5人組が現れた。さっき会った青年がいきなり名乗り出た。一種の自己紹介?

「堅き信念、マホロブラック!」

「深き愛情、マホログリーン!」

「広き発想、マホロレッド!」

「熱き決意、マホロイエロー!」

「尊き個性、マホロホワイト!」


和光人わこうど戦士、『『『『『マホロバン!』』』』』」ジャキーン!


子供達は大興奮。5人が彼らの目を奪っているうちに、ドキューは最後の搾取機を一人の子供に向けて「実行」しかけた、筈だった。彼の片腕を押さえて、押し倒そうとしていた人物のせいだ。ジェイは自分の行動に驚いている暇もなく、力づくでその武器をもぎ取ろうとした。それを上司は顔をぶって拒んだ。頰に内出血の反応を起こしながらもジェイはティアーバカダに先程渡されたスマートフォンの画面を見せた。

自爆アプリを起動させて…

「おい、宮滝!おおおおおおお前は正気か?ここここののののままだと我々まで爆死するぞ‼︎‼︎⁉︎」

「別にいいじゃないですか。どうせこの子達は死んでしまう…それもその搾取機で‼︎わたし達はこのような行為をして日々を過ごすなんて道徳的にどうにかしているレベルではありません。だったら、ここで彼らとともに死のうじゃないいですか!」

「はぁ?ふざけたことを…ウグゥ‼︎」


突然唸りだした上司の背後から、マホログリーンが現れた。どうもさっきのやりとり中に彼に近づき、攻撃したみたいだ。背中を切られたドキューは慌ててその凶器を探ろうとして、「最後の」搾取機を落とした。それをすかさずレッドが拾い、銃で壊した。ピーピーピー、じゅううううううう…と甲高い機械音が悲鳴をあげて、事切れた。それを見たジェイはすぐにアプリを停止・削除した。

「しまった!搾取機が‼︎あれが今回配給された最後のやつだったのに!ジェイ!どういうつもりだ貴様は!」

怒り狂う上司の目は落ち着きを戻し、代わりに残忍さを纏った。愚かな部下が見せた携帯の画面を、自爆アプリを削除した後の画面を見て。

「ほう、なるほど、お前は最初からそうするつもりだったのか。まあなんとなくわかっていたが、本当に残念だ。それじゃあ_」

その左手には小型のナイフが握られていた。にたっと笑みを浮かべて吐き出した言葉は、


「契約解除だな。」


覚悟はできていた。もうどうでも良かった。ただ、子供達がチャイルドニウムの犠牲者にならなくて本当に良かった。彼も一応会社員だから、子供達を目的もなく殺すことも…ん?ひょっとしたら証拠隠滅と口封じの為に事故と見せかけて_、


「危ない!」の叫びとともに、一人がこちらに駆けつけてきた。

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