寄り道ローラーコースター

 授業が終わっても、まっすぐ家に帰りたくない。

 だから私は気のむくまま、寄り道をしながらいつも帰る。


 拾った木の棒が倒れた方に進むこともあれば、石を蹴って飛んでいった方に進むこともある。

 たま~に道に迷って、帰れなくなっちゃうこともあるけど……。

 でもそれが楽しいんだよね。


 さーて、今日はどうしようかな。誰かの後でもついていこうかな……

 と思っていたら、目の前を真っ白な猫が横切った。


 よし!あの子についていこう。

 驚かさないように、距離を保ちながらついていこう。


 猫の散歩は気ままで、堤防の上にヒョイと乗ったり、草がぼうぼうの空き地の中に入っていったり、細いブロック塀の上を歩いたり、坂道をダッシュで駆け下りたり、追いかけるのが大変だ。

 でもこれ、ジェットコースターみたいで楽しいかも!


 あまりにも気持ちよさそうに歩いているもんだから、顔を見てやろうと思って、足音を立てずにそーっと近づいて、よーく見てみたら、首のあたりにハート型の札のようなものがついた、かわいい首輪をしていた。

 白い毛並みも上品で、ツヤがいいから飼い猫なのかも。


 そのまましばらく歩いていくと、猫はとつぜん立ち止まって、落ちているセミを食べ始めた。

 えぇ!猫って意外とワイルドなの!?

 それともお腹がペコペコなの?

 もしかしてセミって美味しいの?!


 なーんてことを考えている間に、猫は綺麗な生け垣がある大きな家の前までやってきた。

 猫はそのまま堂々と、大きな門をくぐっていった。


 もしかしてこの家の飼い猫だったのかな?

 ちょっとお散歩してただけなのかな?

 もう出てこないのかな?

 いろいろ湧き上がる疑問に耐えきれなくなって、こっそり門の中を覗こうとしたそのとき、門から白いワイシャツを着た男の子が出てきた。

「うわあっ!!」

「……どうかしましたか?」

 色白のやせっぽちの男の子だった。私と同じ中学校の制服を着ている。

「えっと……猫を追いかけてたら……」

「この家に入っていったんですよね?」

「そう!そうなの!」

「ふふっ」

 男の子はとつぜん笑った。

「実はその猫、僕なんです」

「えぇっ!」

 そう言って男の子は、猫が歩いてきた道を順に説明してくれた。

 その道順は、いま私が歩いてきた道と全く同じものだった。

 私は心臓の鼓動が急激に高まっていくのを感じていた。

「もしかして、これって夢なのかな?」

「ふふふ、どうなんでしょう」

 その答えに頭の中が混乱してしまった私は、挨拶もそこそこに、逃げるように家に帰った。


 翌日、昼休みになると、友達に昨日私の身に起きた不思議な話をした。

 すると友達は、ちょっと考えてからこう言った。

「ねぇそれって1組の茂木くんじゃない?」

「茂木くん?」

「うん、このあたりで大きな家に住んでる育ちのいいおぼっちゃまと言ったら他にいないよ」

「そうなの?」

「私もよく知らないんだけど、“お上品オーラ”が半端なくて、みんな近寄りがたいみたいだよ」

「でも、正体は猫なんだよ!」

「そんなわけないでしょ!」

「絶対猫なんだって!ちょっと確かめてくる!」


 私は急いで1組の教室に向かおうとした。ところがふと思いついたことがあって、ちょっとだけ寄り道して、花壇に生えていた「ねこじゃらし」を1本抜いてきた。


 1組の教室につくと、そこには自分の席で静かに本を読む茂木くんの姿があった。

 よそのクラスだというのに、ずかずかと教室の中まで入っていった私は、ねこじゃらしをちらつかせながら茂木くんに話しかけた。

「ねぇ、あなた本当に猫なの?」

「ふふふ、猫かもしれないし、猫じゃないかもしれない」

 茂木くんは本を置き、ねこじゃらしで遊び始めた。

 1組の生徒たちが驚いた顔で、私たちのやりとりを見ていた。

「うちの門をくぐったら答えがわかるよ」

「そうなの?」

「だから今度うちにおいでよ」

「わかった!確かめに行く!絶対に正体を暴いてみせるから!」

 私はそう“捨て台詞”を残して1組の教室を出た。


 なんだかワクワクすることが始まりそう――

 これだから寄り道はやめられない。

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