マイ・フェイバリット・シングス
授業中、私の嫌いなところをノートに書き出してみた。
「自分に自信がない」
「会話が苦手」
「頑固」
「人見知り」
「嫉妬深い」
「すぐ泣く」
「ネガティブ」
「決断できない」
「想いを伝える勇気がない」
「私のことが嫌い」
スラスラ書けた。それもどうかと思うけど。
とにかく私は私のことが好きじゃない。
そんな私にも好きな人がいる。
小学生の頃からずっと同じ学校の彼。子供の頃はよく遊んでた。
高校生になった今、教室で会話をすることは少なくなったけど、出会った頃からずっと好きだった。
勢いで彼の好きなところもノートに書き出してみた。
「優しい」
「話がおもしろい」
「動物が好き」
「素直」
「責任感がある」
「嘘をつかない」
「悪口を言わない」
「余裕がある」
「何事にも一生懸命」
「笑顔がかわいい」
こっちもスラスラ書けた。まだまだ書ける気もするけど……
その時、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。と同時に、私はノートを閉じた。
空はすっかり茜色。
部活を終えた私は、机の中にノートを置きっぱなしだったことを思い出した。
明日宿題を提出することになっていたので、部室を飛び出し、急いで教室に取りに行った。
教室に入り、机の中にあったノートを手にした時、とつぜん教室に彼が入ってきた。
彼は私の元へ歩み寄りながら、話しかけてきた。
「どうしたの忘れ物?」
「うん、ノートをね。宿題出てたから……」
「そっか」
「あなたはどうしたの?部活終わったの?」
「オレは……お前が部室から出ていくのが見えたから」
「えっ?」
「オレは、お前に言いたいことがあって追いかけてきたんだ」
「えっ、な、何!?」
驚いた私は手にしていたノートを落としてしまった。
床に落ちたノートは、折り目のついたページが開いていた。
それはちょうど「私の嫌いなところ」と「彼の好きなところ」が書かれていたページだった。
彼はノートを拾い上げ、そこ書かれていたものに目を通した。
そしてノートに書かれた「私の嫌いなところ」をひとつひとつ読みあげながら「言いたいこと」を語り始めた。
「自分に自信がない」っていうのは、しっかり自分を見つめている証拠。
「会話が苦手」なんじゃなくて、人の話を真剣に聞く「聞き上手」。
「頑固」じゃなくて、自分の考えをしっかり持った芯がある人。
「人見知り」なのは、他人を気遣える思いやりがあるから。
「嫉妬深い」ことはぜんぜん悪いことじゃなくて、一途な気持ちの裏返し。
「すぐ泣く」のは、感受性が豊かだから。
「ネガティブ」と思っているのは、何事にも慎重だから。
「決断できない」のは、思慮深いから。どんなことにも真剣だから。
「想いを伝える勇気がない」のは、自分の想いを大切にしているから。
……オレはそんな「私のことが嫌い」な、お前が好きだ。
彼の言葉で、私は私のことが好きになった。
こんなにも優しくて、一生懸命に想いを伝えてくれる彼。
そんな彼に「好き」って言ってもらえる私はすごいんだって。
「……ありがとう」
――そう言うと彼は、私が大好きな「かわいい笑顔」で微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます