5月16日火曜 雨後曇
「特別に、秘訣をお教えいたしましょう。」
「・・・なんの?」
「今日1日の区切りで生きるべきですよ。」
「それは、昨日の学校での失敗を引きずる僕への当て付けかい?」
「いいえ、明日また同じことをしないかと、不安に思っているあなたへのアドバイスでございます。」
「・・・。悪魔め。」
「過去と縁を切ることですよ。息絶えてしまった過去など、尸となんら変わりはないのです。英語の時間に金曜日を空へ飛ばした昨日なんて、締め出してしまうべきでございますよ。」
「わざわざ口に出していってくれる必要ないだろ。」
「別にカレンダーに書かれてあるような英語のスペルでも、間違える人は間違えるんです。」
「おい。」
「・・・明日の重荷に、昨日の重荷を加えて、それを今日背負うとしたら、どんな強い人でもつまずいてしまうでしょう。過去と同様に未来も締め出してしまいましょう。未来の自分は未来の自分、過去の自分は過去の自分です。同じに考えてはいけません。」
「自分は、自分だろ。」
「ええ、そうです。君は君です。ただし、この世界には、貴方しかいらっしゃらないのでございます。」
「それはそうだろ。過去も、未来も、僕は僕で、自分一人だ。」
「いいえ、違います。この世界には、貴方しかいらっしゃらないのです。今日という世界で生きる貴方だけが息をしているのです。人は誰も過去にも未来にもいけず、今日という日に存在するしかないのです。」
「確かに僕は今日を生きているさ。けれど、過去も未来も繋がっている。
僕は昨日のことを考えて、明日のために備えなければならない。」
「いいえ、違います。」
「違わないね。人間は学習する生き物だ。大昔からそうやって過去から学んで、未来につなげてきたんだ。伝統、技術、学問、どれもそうだ。過去から考えて、未来に備えた結果なんだ。悪魔は、寿命が長いんだろ?僕たちはそうじゃない。限りある寿命の中で自分の家族を守るために、出世するために、未来を考えなくちゃならないんだ。就職に備えて知識を学ばなきゃならないし、老後に備えて、お金を貯めなくちゃならない。不安は尽きないさ。」
「おかしなことをおっしゃいましね。」
「何が?」
「あなたは確かに今日を生きているといいましたが、全く、息をしているだけではございませんか。今日をどこに落としてきたというんです?昨日と明日のことで頭がいっぱいではございませんか。」
「そんなことはない、明日のために今日を使っているだけだよ。就職して、お金に余裕ができたら自分のために使ってやるさ。」
「あなたは、就職してお金に余裕ができたら老後に備えてお金を貯めるでしょうね。あなたは小さい頃、大きくなったらどうしたいと考えていませんでしたか?少し大きくなったら大人になったらと言ってませんでしたか?あなたは今まで今日を生きたことがありますか?」
「・・・」
「冗談ですよ。あなたはちゃんと生きて続けたから今が存在します。」
「明日のことの配慮はいいですが、今日のあなたは心配の度が過ぎています。
今日、1日の区切りで生きるべきです。」
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