第14話 再び「中編」

 見たことのない数の機竜そして竜人、あまりの数に思わず息をのんでしまう。1000、2000いやそれ以上いるだろうか、この戦いは間違いなく厳しいものになるだろう。


「なんだよあの数普通じゃねえぞ!!何でこんなへんぴな場所にあの数の兵隊を用意してきたんだよ」

「何が目的なのでしょうか……?」


 目的……それはおそらく僕の、いやレイラの首だろう。このことを知っている人間は軍でも一部のものしかいない。


「学生隊の諸君、一つ聞いてもらいたいことがある」


 突然ギル隊長は改まって学生隊たちに語りかける。


「この戦い、おそらく厳しいものになるだろう。どれだけの被害になるかもわからない、だから、参加は強制しない」


 学生隊の皆は驚きを隠せない様子でいる。あの「厳しい」が服を着て生活をしているような人間がこんなことを口に出すなんてよっぽどのことだ。


「何言ってるんですかギルさん!今更引き返すことなんてできません!!」

「そうですよ!!俺達覚悟を決めてここに来てるんですよ!!」


 学生達は次々と自分の意思を口に出す。


「俺の……俺の『第六感』とてつもない危険信号を出している。手の震えや冷や汗がとまらないんだ。こんなのアルミスでの戦い以来だ」


 アルミス……その名前を聞いて皆黙り込んでしまった。「アルミス防衛戦」死傷者数が戦時中最悪と言われている戦い。そして、レイラの父親、アランもその戦いで命を落としている。


「私達は立場上ここを立ち去ることができない、だが君たちは違う。もう一度よく考えてくれ。」

「……」


 しばらく沈黙が続いた。当然だ。選択次第では死、いやそれ以上にひどい目が合うかもしれないのだ。そして……一人が口を開く。


「すみません……僕はまだ死ぬわけにはいきません。まだこの学生隊に参加したのは元々報酬が目的でした。うちは貧乏なんで、もし僕が死んじゃったら稼ぐ人がいなくなってしまいます。だから……すいません」

「謝る必要は無い、退くのもまた勇気だ。」


 その後もリタイアする人が続出し結局、学生隊の人数は半分ぐらいになってしまった。


「残ってくれた奴らも無理だけはするな、危ないと思ったら逃げるんだぞ!!」


 そして皆が戦闘の準備にとりかかる。僕達の軍は増援に来た人達や学生隊を含めても500人もいない。元々中隊だったのだから当然といえば当然だ。人数的にはかなり不利だ。でも問題ないこの軍には僕がいる。竜人どもが何人来ようが、僕が全員殺せばいいだけの話だ。


「レイラ!!」


僕が戦場に向かおうとしたときリアとカンナが声をかけてきた。


「どうしたの?二人とも。」

「……無理だけはしないでね。」

「うん……」


 カンナとリアの表情は不安げでそして……悲しそうだった。





*   




一方その頃……


「アランの娘の特徴は……」

「……あまり正確な情報はないです。なにせ、彼女と戦って生きて帰ってきたやつはほぼいませんから……レミ村での戦いで唯一彼女を目撃していた、ハリスもブルドラとともに戦死しましたし……ただ彼の話によると髪の毛がきらびやかな金色の少女だったとのことです。」


 それだけでは特定するのに骨が折れる。


「隊の皆には金髪の人間にはなるべく警戒しアランの娘と思われるものが出てきたら即撤退し私に報告するように言っておいてくれ」

「はい、ゼノス様……」


 相手は強敵だ。無理に突っ込んでいたずらに兵士を減らすわけにもいかない相手をするのは俺だけでいい。


「……そんなまどろっこしいことしなくたっていいでしょ!!」


 リズラか、相変わらず強気な女だな……


「リズラ隊長……」

「数だったらこちらが圧倒してるんだ!!私と私の部隊だけで事足りる、ゼノス、お前が出る必要はない!!」

「リズラ、お前の気持ちはわかる。だが、お前は隊長なんだ、感情的になっちゃいけないだろ」

「違うそういうわけじゃ……」

「安心しろ、お前の恋人、ドラネアの敵は俺が必ず討つ、だからわかってくれるか……」

「ふん……」


 リズラは不機嫌そうに行ってしまった。


「はあ全く……ゴルア皆にもこのことを伝えておけ」

「は!!」



             




 戦いが……始まろうとしている。敵の数は数千匹


「さあ行くぞ突撃だ!!」


 皆一斉に突撃する。竜人や機竜どももこちらに向かってくる。さあどいつから始末してやろうか!!


「おい!!あそこにいる少女金髪だぞ。もしかしてあいつじゃないか!!」

「こいつを倒せば大手柄だぞ!!」


 はあ、くだらない、敵の強さも把握できないなんて、どこまでも救いようのない連中だ。


「サンダー!!」


 魔法一つで機竜三体が塵となった。竜人どもは驚きを隠せない。しかし、本当に素晴らしい力だもう誰にも負ける気がしない。


「ば、化け物だ……これは手数でどうにかなる相手ではないぞ!」

「やっぱりここはゼノス様に報告すべきだ。いったん引くぞ!」


 こんどは逃げる気か、全くせわしない奴らだ。まあ逃がす気はみじんもないんだけどな!!


「おい!!ものすごい速度でこっちに来るぞ。」

「まじかよ……ぐおあ!!」

「おい、どうし……ぐわああ!!」


 五匹、十匹、二十匹もっとだ。もっと……


「あの娘とんでもない速さで竜人達を蹴散らしてるぞ!!」

「これなら勝てるぞ!!」


 周りの王国軍陣営の士気も上がり始める。このままいけば……


「おらおら、そこをどけお前ら!!」


 今度は誰だ。あの竜人は何だろうどことなく他の竜人とは違うような気がする。どことなく雰囲気が女性っぽい。


「リ、リズラ隊長……」

「こいつの相手は私がする、お前達は早くゼノスにこいつのことを伝えろ!!」


 ゼノス?どうやら大物が来るみたいだな。楽しみだ……そいつを倒すことが出来ればこいつらはきっともっと絶望的な表情を見せてくれるだろう……


「おい、てめえがレイラだな?」


 その前にまずはこいつをサクッと倒して準備運動と行きましょうか……おそらくこいつは中隊長レベルだろうが、何も問題は無い……


「お前、女の竜人なのか」

「ああそうだが……それがどうした」

「いやあ竜人の女なんて今まで見たことなくてさ、ほんとにいるんだなあって思って」

「は?当たり前だろ、男だけでどうやって子供産むんだよ」

「無性生殖なのかなって……単細胞だし……ね。」


 それを聞いた瞬間。女の竜人の顔が怒りの形相に変わる。


「こいつ……ぶっ殺す!!」


 やっぱり単細胞だ。部隊長ぽかったが、この程度のあおりで冷静さを失うなんてな。小学生以下だぞ。


「イカズチ!!」


 イカズチをもろに食らって竜人は地に落ちていった。僕はグライドを解除して竜人のもとへ向かった。竜人の女は黒こげになっているいい気味だ。僕は近づいて竜人の女の様子を確認しに……


「……爆ぜろ。」

「……!?」


 その声が聞こえた瞬間倒れていた女の竜人の体が……爆発した。


「ぐあっ!!」


 なんとかギリギリでよけることができたがこれは……


「どっちが単細胞なんだか、ねえ?」


 そう言って竜人の女は木の陰からひょっこりと出てくる。つまり、ここに倒れていた竜人の女は……デコイだ。こんな簡単なデコイにだまされてしまうなんて……さすがに調子に乗りすぎたな悔い改めなくては……

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