第13話 再び 「前編」
それから更に三ヶ月の時が過ぎた。
「ブルドラに続いて今度はオウガが破れたのか……」
「ええ、アランの娘に奇襲を仕掛けて殺されたようです」
「ドラネア、ブルドラだけではなくオウガまで……奴はまだ学生のはずなのに我々の精鋭三人を倒されてしまうなんて……」
「さすが最強の大国魔道士の娘というわけか……で、どうする次は誰の部隊を送る?」
「ディオスはどうでしょうかアランのの娘は雷魔法を使っていたというじゃないですか、やつは雷魔法使いに対してはめっぽう強いです。」
「ディオスか……だが、あいつは今、ミリニアで戦闘中たよな?今から学生隊がいるナイアに向かうにはかなりの時間がかかる。それにミリニアでの戦いもかなり苦戦しているらしい」
「くそ……じゃあ他に誰かいないのか!?」
しばらく沈黙が続くと竜人の青年が名乗りをあげた。
「……俺が行く」
「は、今なんと……?」
「俺が行くと言っているんだ」
「ゼノス様!!たかが小娘一人にあなたが出向く必要などございません!!」
「その小娘一人にここまで苦戦を強いられているのだぞ。」
「……」
「もうわかっているだろう、やつはアランの血を色濃く次いでいる。小娘だといって高をくくっている余裕は無いんだよ」
「ですが……」
「いいだろ別に英雄様の好きにさせてやれば」
初老の竜人が横から口を挟む。
「ジルア様……」
「まあ俺的には、その小娘とお前が相打ち手死んでくれれば万々歳なんだけどな」
「安心してくれジルア。そうなることは決してないと約束しよう、それでは、私は戦闘に向かう準備にはいるので失礼する」
「凄い自信だ。やっぱ六年前若くしてアランを討ち取った男は言うことが違うねえ……」
「……」
ゼノスは何も言うことなく部屋から立ち去っていった。
*
「本日をもって特例としてレイラを第三中隊として前線に参加することを許可する」
「……ありがとうございます」
パチパチパチパチ……拍手の音が響きわたる。
僕は竜人の部隊の大将二人を倒した功績が認められ学生隊の中では異例の前線の参加する許可を得ることができた。これで、心置きなく竜人どもを殺しに行ける。
「おい、レイラ」
「あ、ギルさん、ようやく私も第三中隊で前線に参加することが出来ました。今後よろしくお願いします」
「……本当にいいのか、上層部はお前をずっと前から前線に参加させたがっていたが、まだ学生隊に入って三ヶ月なんだ、もっと経験を積んで正式に部隊に入ってからでもいいんじゃないか」
「心配しすぎですよ、私はもう十分前線で戦えます。それに私はすぐにでも前線に参加したいんです。卒業まで待ちたくありません」
「はあ、若いな……だが、そうせかせかしていると大切なことを見失うぞ」
「大切なことって……」
「……おい何隠れて聞いてるんだ。出てこい。」
振り向くとカンナとリアが木の陰に隠れて盗み聞きをしていた。
「いやあ……ばれちゃいましたか」
「『第六感』をなめるんじゃねえぞ、で、何かレイラに用があるのか?」
「いえ、なんかお取り込み中みたいですし、そんなに急ぎのようじゃないですし……」
「いや、話はもう終わりだ……。レイラ!俺の言ったこと忘れるんじゃねえぞ」
「は、はい……。」
ギルさんはその場から去って行った。
「はあ、ついにレイラが前線に出るのか……なんか複雑な気持ちだなあ。」
カンナは少し寂しそうな面持ちをしている。
「別に離ればなれになるわけじゃないし、そもそもここの学生隊じたい、第三中隊の一部みたいなもんだしさ」
「そういうことじゃないんだけどなあ……なあ今日は記念に近くの町でご飯食べにいかないか?」
「……ごめん、今日は第三中隊の会議に参加しないといけないから」
「そ、そうですか……それじゃまた今度。」
「うん……また今度。」
二人にはもうしわけないが今はこっちの方が大切だ。
最近、竜人達は第三中隊がいる場所を攻めることが多くなっている。そのため第三中隊に増援が送られることが多くなった。そして、機竜や竜人はあからさまに僕のほうを狙ってくる。竜人達はレイラ、いやアランの娘がアランの域に達することを恐れているのだ。
だがこれは考えようによってはうれしいことだ。あちらから来るのであれば喜んで向かい入れてやろう。……そして返り討ちにしてやる!!
僕はそのまま会議に向かった。この会議は中隊の中でもギルさんのような一部の人しか参加していない。
「……そのため、今度は第七小隊がこちらに協力してくれるそうだ。」
「また増援ですか!?まあうれしいことなんですけど……」
「おそらく、レイラ君を餌にして、釣られた獲物たちを一気に倒すという作戦でしょう。」
「そんなの……レイラがあまりにも不憫じゃないですか!」
第三中隊の先輩の一人がこの作戦に異議を申し立てる。
「大丈夫です。私もわかっている上で前線に参加しているのです。なんの問題のありません。それに私は簡単にはやられはしません。もちろん無理はしません。」
「だけど……」
「先輩、これは竜人どもの戦力を減らすチャンスなんです。あいつらは私を殺すために躍起になっています。このチャンスを逃すわけにはいきません」
「まあ、レイラ君もこう言っているんだ。問題ないだろう。」
「は、はい……」
「それから、竜人達に不審な動きがあったらしい」
「不審な動きですか……」
「ああ、もしかしたら奴らいよいよ本腰を入れてくるかもしれないな」
「そうなると、大隊長レベルの竜人も出て来るかもしれません。さらに激しい戦争になると予想されます。避難地域を拡大すべきかと……」
どんなに戦争が激しくなろうとも関係ない、目の前にいる敵を全員殲滅すればいい話だ。そうすれば全てを解決できる……
*
その後も会議は夜まで続いた。にしてもまた増援が来ることなるとは、上層部もこの機会を重要視しているのだろう。
僕はその後、魔法の調整のために近くの訓練場に向かった。そこにはリアの姿があった。あのときの白い鳥も一緒にいる。
「リア、珍しいねこんな時間まで」
「あっ、レイラ。」
「何してるの?」
「たまには、こうやってガルガを外に出しやらないといけないんで」
「ガルガってこの鳥のこと?」
「ええ、私の一族が扱っている戦獣の一匹でこの前故郷に帰ったときに戦争に参加すると伝えたときに一族の長から譲り受けたんです。」
「へえ、そんなにすごい鳥だったんだ……たしかにきれいだけど。」
「私の故郷は自然豊かなところで他にも珍しい生物がいっぱいいるんですよ」
「へー、見てみたいな。」
「そうだ!学生隊の期間が終わったらうちに遊びに来てくださいよ!!呪いを解いてくれたお礼もしたいですし……」
「お礼なんてそんないいよ。」
実際に呪いを解いたわけではないのだからお礼してもらうのは申し訳ない。
「そんな遠慮する必要ないですよ……あれガルガ?」
「どうしたの?」
「疲れて眠ってしまったようです」
ガルガはとてもかわいらしい顔で眠っている。見ていてとても微笑ましい。
「それじゃあ私宿舎に戻るので、レイラもほどほどにして早く戻ってきてくださいよ!」
「うん、わかってるよ」
リアはそのまま宿舎に戻っていった。
……僕は学生隊の期間を終えても第三中隊に残るつもりでいる。きっと上層部も喜んでOKしてくれるだろう。だからリアの故郷いけるのは当分後だろう。もしかしたら、戦争が終わってからになるかもしれない。
『戦争が終わったら』……かそんなこと考えたことも無かった。レイラの夢を実現する目的を終えた僕に、レイラやリオンの体を奪った僕に幸せに生きる価値なんてあるのだろうか……そんなことを考えてしまう。
*
気が付くとすっかり夜遅くになってしまっていた。
「そろそろ宿舎に戻るか……」
宿舎に戻るとリアとカンナはすでに眠っている。
「ムニャムニャ……もう食べられないよ……」
カンナはすごい幸せそうな顔をしている。どうせスイーツの夢でも見ているのだろう。全くカンナらしいや……。なんかカンナの寝顔を見ていたら僕も眠くなってきたな。もう早く寝……
「た、た、大変だ!!!!」
「……!!」
突然中隊の人が大声で部屋に入ってきた。眠っていたリアとカンナもびっくりして飛び起きてしまった。
「だ、ど、どうしたんですか!?」
「竜人と機竜の大軍がこちらに向かってきているとの情報が……三人ともすぐに準備してください!!」
中隊の人はかなり焦っている。僕達はすぐに支度を済ませギル隊長の下へ向かった。
「ギル隊長これは一体どういう……」
「そう焦るな、これも想定の範囲内だ。うろたえる必要はない。ただ……」
「ただ?」
「……いやなんでもない、人数が集まったらすぐに向かうぞ。いいな!!」
「はい!!」
「第六感」 この能力を理屈では説明できないが本質的なもを鋭く感知する。
特に『いやな予感』を外したことは一度も無い。
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