第29話 何者

 カナギの刀は僕を殺さんと僕に向かって襲いかかってくる。例えアイズを使ってもこれを避ける術はない。つまり僕の能力『無限転生』が発動してしまうということだ。これを阻止する術は……な……


「待って!!婆ちゃん!!」


 ミハルが大声を出しカナギは思わず動きを止める。


「なんだい……邪魔するんじゃないよ!!」

「この人を殺しちゃだめ……」

「ミハル貴様まだそんなことを……」

「違うの!!そういうことじゃないの……このままこの人のこと殺したらカナギの婆ちゃん死んじゃう……」


 ……これは、話がややこしくなりそうな予感がする。


「……どういうことだい?」

「分からない。分からないけど……彼の心の流れを見たら、そういうのが出てきて……」


 ミハルはかなり困惑している。誰がどう見ても殺されそうになっているはずの僕がカナギを殺してしまうことに罪悪感を覚えている。心が読める人間から見ればかなり奇っ怪な光景だろう。


「……とにかくばあちゃんこの人を殺すのは止めた方がいいと思うよ、きっと殺されちゃうから」

「……あんたの言い分だと殺さなければ問題無いみたいだね……」

「……彼のオーラには死ぬことの恐怖も混ざってた。だから殺されることがトリガーになって発動されるっぽいんだけど……」

「なんかの能力なのかねえ?」


 なんか妙な展開になってきたな……この流れでなんとか……


「まあ、そういう訳だしとりあえず殺すのは止めようよ……ね……」

「……あんた、適当なこと言って私を丸め込もうとしてるわけじゃないでしょうね……」

「そ、そんなわけないじゃない!!私が嘘つくの下手なこと婆ちゃん知ってるでしょ!!」

「そういえばそうだったね……ただそうなると……」


 カナギは僕の方を見つめる。


「こ、この村のことは言いませんから……だからほんとに勘弁してください!!この通り!!」


 僕はとにかく必死に頼み込んだ。ここで殺されるわけには……無限転生を発動させるわけには……


 カナギはミハルの方を見る。僕の言ったことが本当かどうか確認しているのだろう。ミハルはうなずいた。これは本当のことだというサインなのだろうか?


「……まあ私も命は惜しいし殺すのはとりあえずは保留にしとくよ。」


 「保留」……か。


「婆ちゃんありがとう……よかったね。ええっと……」

「リドラだよ。あと、何もよくなってないですから状況は。」


 



「ま、そういうわけで、しばらくはこの村でおとなしくしててね。」

「何がそういうわけでですか危うく殺されかけたのに……」

「ふーん殺されかけたねえ……」

「……」


 ミハルはわざとらしい感じでそう言う。無限転生のことはばれなかったものの大分怪しまれてしまったみたいだな。


「……まあこの村は結構特殊だからね。婆ちゃんはあまりこの村の存在を知られたくないんだよ。だからね、許して!!」


 村の存在を知られたくない……それが分かっていてなんで僕にあんなことをさせようとしたんだよ……まあ、こちらも助けてもらった手前。ミハルに対してあまり文句を言うことは出来ない。


「まあ、それはいいんですけどね……。僕はこれからどうすればいいんですかね?」

「ううん……それは……まあとにかく今日は色々あったからゆっくりしてって!!」

「はあ……」

「ああ、そうだ。せっかくだし私とお話ししましょうよ。いろいろ聞きたいこともあるだろうしね!!」

「まあ……そうですね。」


 聞きたいことかそうだな……


「ミハルさんは、さっき神獣……ジャイナのことは大丈夫だって言ってましたけど、本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫だって!!もう、心配性だな……」

「……逆に聞きますけど何で大丈夫だって言い切れるんですか?神獣は王国にも認められるほどの能力を有している。その生態……特に弱点の情報なんかはトップシークレットのはずだ。その神獣の弱点をあなたが知っているとはとても思えないんだけど……」

「……うーん。」


 ミハルは言うか言わぬか悩んでいるようなそぶりを見せる。何を悩んでいるかは大方予想がつく。


「別に、話してもいっか……実はね、私、獣使いの一族の人間なんだよね。」

「まあ……そうでしょうね。」

「別に隠してたわけじゃないんだけどね。竜人の君からしたら印象よくないからなんとなくしゃべりたくなかったんだよ。」


 獣使いの一族は王国で一番の戦績をあげている一族……だが裏を返せばそれは一番竜人を殺した一族ということだ。竜人からすれば忌むべき一族なのだろう。


「それで、神獣の対処法を知ってたというわけか……そういえば、獣使いの一族って生物を操る能力をもってるって話なのにミハルさんは違うんですね。」

「一族の人間でも全員が全員『操獣ギア』……ああ、神獣を操る能力のことね。そのギアを使えるわけじゃないから。分家でも末端の家系の私はギアを授からなかった。まあその代わりとんでもない能力を引き当てちゃったんだけどね。」


 確かにギアよりもこっちの能力の方がすごい感じがするしな。


「でもこの『心眼ジャッジアイ』も宗家の人達の『ギア』と比べたらかすんじゃうんだけどね。」

「え、そうなんですか?」

が使ってたガルタやジャイナあの神獣は……こんな言い方はあまりしたくないけど下位の神獣なの。上位の神獣の能力は下位の神獣をはるかにしのぐそれこそ『ジャッジアイ』がかすんでしまうぐらいにね。」


 ……確かにガルタやジャイナは有能な神獣ではあるが王国随一の能力……と言うほどではなかった。なるほど上位の神獣か……にしても、チート一歩手前の能力である『ジャッジアイ』がかすむっていうのはすごい。思っていた以上にとんでもないポテンシャルを秘めてたんだなリアって……リア……。


「……どうした?」

「……僕のこと捕まえようとしてたあの子こと……リアって今言いましたよね。」

「え、ああ……」


 ミハルは確かに言ったリアの名前をだから、ミハルはリアの……


「知り合い……だったんですか?リアの。」

「……知り合いって言うか。姉妹みたいな感じかな。昔からよく一緒に遊んでたんだよね。まさかあんな形で再会するとは思ってなかったけどね……。」

「その……リアって、昔はどんな子だったんです?」

「え、まあなんというか活発な子だったかな、多分村の中で一番、毎日のように森の中に入っては迷っていつも私が探しに行ってたっけなあ」


 今のリアとは大分違うんだな……きっとあの呪い騒動が無かったら今もそんな感じだったのだろうか……


「他にも聞かせてくれますか?……リアの昔のこと。」

「別に構わないけどどうしてそんなに……」

「……」

「……ううん、分かった。あまり深いことは聞かないでおく。」

「ありがとうございます。」


 正直、リドラがリアの名前を知っていると言うのはかなり不自然だが、それでも僕はリアと久々に会ったこともあってリアの昔話を聞きたくなってしまったのだ。


「じゃあそうだな。まずは、あの子が……した話でも……」

 







「ハックシュン!!」

「どうしたんだよリア、風邪でも引いたのか?」


 風邪か……そういえば最近冷え込むからなあ……


「なんかごめんなリア。こんなことに巻き込んじゃって」

「大丈夫ですって、私も脱獄囚を捕まえたいって気持ちは同じなんですから……」


 私は一時間以上かけてカンナがいる場所を特定したどり着いた。最初は自分一人で十分だとカンナは言っていたが、私が何とか説得してカンナは渋々ついて行くことを承諾し現在に至る。


「……」

「……」


 なんとなく気まずい雰囲気になってしまった。……いつからだろうかこういう雰囲気になることが多くなってしまった。あの日より前のカンナは底抜けに明るく一緒にいるとこちらまで明るくなったものだ。だけど、今は……



「なあ、あそこに誰かいるぞ。」

「あ、ほんとだ。学生隊や中隊の人じゃなさそうですけど…」


 何してるんだろこんな山奥で……あれ?あの服どこかで……


「おい……てめえら学生隊だな。こんなところで何やってんだ」

「うわ!!」


 さっきまで辛うじて見える場所にいた人がいつの間にか目の前に移動している。


「いや、その私達怪しいものではなくてその……」

「……私達、魔女の胃袋から逃げた脱獄囚の竜人を追ってここに来たんです。あなた魔幻隊の人ですよね。もしよろしかったら協力してほしいんですけど」

 

 この人の服装どこかで見たことがあるような気がしてたけど、あの有名な魔幻隊の人だったのか……


「脱獄囚……この森の中にいるのか?」

「ええ、さっき逃げられちゃいましたけど」

「詳しいことを聞かせてくれ」

「ああ、はい、実は……」


 私達はこれまでの経緯をあらかた話した。


「あの竜人が脱獄していたことは聞いていたが、まさかこの森の中にいたなんて……」

「私も驚きましたよ。まさかあの脱獄囚リドラを捕まえたのがあなただったなんて。」

「まあ、正確に言うと違うんだけど……」

「それで、魔幻隊の人がどうしてここに?」

「俺がここに来たのは実はここら辺で竜人の目撃したっていう情報があったからなんだ。」

「その竜人ってもしかして……」

「いや脱獄囚とは別の竜人だ。ただ、妙なことに複数の目撃情報があって目撃情報ごとに竜人の特徴が変わってるんだ。」

「変わってる……?てことは一人じゃないんですかその竜人って!!。」

「この森の中に集落を作ってるかもしれないってことか……でも、そんなことって……」

「それを可能にするのがこの先にある『霧雨の森』この森は深い霧が立ち込めていて入ったら最期、死ぬまで出ることが出来ないと言われている。」


 確かに隠れて集落を作るならこれ以上無い好条件の場所だ。


「その集落にもしかしたらリドラが……」

「ああ、恐らくな」


 だが、そうなると分からないことがある。あの竜人を助けたあの人は一体……だが、それも竜人のいる場所を見つけられればきっと……


「なああんたら俺と協力する気はあるか?」

「え?」

「見たところあんたら結構優秀な魔法使いみたいだし目的も一致している。いいアイデアだと思わねえか?」

「魔幻隊の人が私達と……すごい心強いです!!ね、カンナ」

「え、ああうん、そうだな……ごめんちょっと考え事してて、ええとあんた確か名前は……」

「レンジだ。」

「レンジさんどうか協力させてくださいお願いします。」

「よし、決まりだな、それじゃあ早速作戦会議を始めるぞ」

「はい!!」


 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る