第28話 霧の村

 僕は怪しい格好の女と共に逃げた先は霧が深い森の中霧はとても濃かったが女は迷うことなく目的地へ向かっていく。そして着いた場所は……お世辞にも栄えているとはいえない小さな村だった。


「ふう……ついたぞここなら魔道士も追ってこない。安心してくれ」


 たしかにここなら魔道士がここまで来ることは容易ではないだろう……だが、決して安全とはいえない。目の前にいるこの女……こいつは何者なんだ?なんで竜人の姿をしている僕のことを助けたんだ?一体何が目的なんだ……


「……まあ、そう考え込むなって別に取って食おう何て思ってないだから。」

「……この状況で何も考えるなって言うのは無理があるでしょ……」

「まあ……それもそうだね。ははは……」


 女は苦笑いしながらそう言った。


「これは一体どういうことなんだ?なぜあなたは竜人である俺を助けた?お前は一体何者なんだ?そういえば、さっきはジャイナのことは大丈夫って言ってたなあれは一体どういう意味なんだ?それから……」

「ちょちょちょっと待てってそんなにたくさんの質問いっぺんに答えられないって。詳しいことは目的地についたら話すから……」

「目的地?どこか向かうところがあるのか?」

「ま、また質問が増えた……まあそれはついてからのお楽しみってことで」


 お楽しみだ?なにのんきなこと何のんきなことを……なんというか本当に訳の分からない人だな。


「じゃあこれだけは教えてくれ。なぜ竜人の俺を助けたんだ。それに俺は……いやなんでもない」


 僕は自分が脱獄囚であることを知っているのかと聞こうとしたが慌てて口を閉じた。


「自分が脱獄囚なのにって?」

「え?」

「知ってるよ、あんたが脱獄囚だってことぐらい、そして、脱獄をするために看守を何人か殺したってことも。」


 ……正確には殺したのはドラネオなんだけどな……まあ、僕もそう思われていても何もおかしくはない。


「おや?どうやら事実は少し違うみたいだね。まあ、なんとなくそんな気はしてたんだけどね……」

「あ、ああ……」

「ふむふむ……殺したのは君の脱獄仲間かな?まあ、あの魔女の胃袋から一人で脱獄しようってのはさすがに無理難題だからね。」

「え、まあ……」

「で、そのお仲間さんは脱獄途中で……看守長にやられたのかな?そのせいで死んで……いや、生死は不明か。本当文字通り死に物狂いで逃げて来たってことか……ホント大変だったね。」

「な……?」


 なんだこいつ……僕は何も言ってないのに考えていることが見透かされているのか?グレンダも似たようなことをやって見せたが、あれはただただ察しがいいだけって話。だが、この女の人のは……察しがいいとかそういう次元じゃない。


「ははは、驚いてる、驚いてる。まあ察してると思うけど私は人が考えてることを断片的にではあるけど読み取ることが出来る能力を持ってるんだ。」


 なかなかすごい能力だな……やはりこいつはただものじゃない……


「私からも質問いいかな。」

「……まあ。」

「君が追われてるところを偶然見かけたんだけどね……君はリアに対して敵意を向けていなかったよね。それどころかリアと敵対しなきゃいけないことをその……悲しんでいたよね?」

「……」

「やっぱりそうか、君には猿人に対してなにか他の竜人と違う考え方を持っている。違うかい?」

「……」

「ううん……なんかそこら辺の事情は結構複雑みたいだね。まあ、そこら辺は話さなくても大丈夫だから。それよりもこの村には少し変わった特徴があるんだけど何か気がついてるかな?」

「……ああ。」


 そのことに関してはとっくに気がついていた。この村は……竜人と普通の人間その両方が暮らしている。


 竜人と人間が今戦争しているというのにこの村ではそんなこと関係なしにこの二種族が仲睦まじく暮らしているのが見ていて分かる。はっきり言ってこの世界では異常なことだ。もし王国がこの村の存在を知っていたら……ただでは済まされないだろう。


「さあ、着いたぞこの家に私が会わせたい人がいる。ここで本題を話すとしようか」


 そう言われて僕は彼女に連れられてこぢんまりとした家へと入る。家の中には年老いた竜人の老婆がいた。その雰囲気は一見物腰が良さそうなおばあちゃんって感じだが。年の割に背筋はピンとしていて威厳が感じられる。


「おや、突然やってきてどうしたんだい?。」


 ミハル……この女の名前か。僕が元いた世界日本にいても違和感のない名前だ。(カンナもだが)


「この人は……村の人間じゃないね。」


 そう言って竜人の老婆は細い目でこちらをにらみつける。その視線を受けて僕の背筋に冷たいものが走る。


「カナギの婆ちゃん、アポもとらずにいきなり来てごめん。でもこの人のことをどうしても紹介したくて……」


 ミハルはカナギと呼ばれた老婆に僕のことについて洗いざらい説明した。


「なるほど、あなたのことは大体分かりました。だが、ミハルなんであなたは彼をこの村に……」

「まあ聞いてよお婆ちゃん。この人はあの脱獄不可能って言われてた魔女の胃袋から逃げて来られた唯一の竜人なんだよ。彼がアルバトラに帰ってくれば英雄として扱われる。その彼がこの村の存在を認めさせてくれるように掛け合えばきっと……」


 なるほど、こいつが僕を助けてくれたのにはそういう意図があったのか……まあ要するに僕を利用してこの村をアルバトラの連中に保護してもらおうっていう算段かよ。……無茶苦茶すぎるだろ。


「……なるほど、そういうことかい、ミハルの言いたいことは大体分かったよ」

「本当に!!だったら……」

「答えはノーだよ」

「ええ……」

「当たり前だろ。いきなり連れてきた脱獄囚の竜人に村の命運を握らせるなんて……ぶっ飛びすぎだ。相変わらず……」

「ううん……」


 ミハルは自分の案を却下され少ししょぼくれている。


「悪いね。この子の思いつきに付き合わせちゃったみたいで……」

「いやいや、悪いだなんてそんな……ミハルさんに助けてもらわなかったら今頃魔女の胃袋に逆戻りでしたから感謝してもしきれないぐらいですよホントに。」

「そうかい。そう言ってくれると助かるよ。長旅で疲れているだろう。何もない村だがしばらくここで休んでいくといいさ。」


 カナギは小さいときに翌僕と遊んでくれた祖母を思い出すかのような朗らかな笑顔でそう言った。


「……それはありがたいんですけど。僕、そろそろこの村から出ないと……」

「……!!」

「……」


 ……僕が「村から出る」と言ったその瞬間場の空気が凍り付くのを感じた。どうやら僕は言ってはいけないことを言ってしまったみたいだ。


「この村から……出る?」

「……この村にかくまってくれたことには感謝します。でも、僕にはやらないといけないことがあるんです。だから一刻も早くアルバトラに行かないと……」

「ほう……そうか。」

「……」


 そう言ってカナギは自分の側に置いてあった刀を手に取り静かに立ち上がった。どうやらおとなしくこの村から出してくれる感じではなさそうだ。


「ちょ、ちょっと婆ちゃん?何もそこまで……」

「……」


 カナギはミハルの言ったことにには答えない。そしてその老体に似合わない俊敏な動きで襲いかかってくる。


「うおっ!!」


 僕は間一髪のところで魔法を用い攻撃をガードする。


「ほう、なかなかの反射神経……あんた相当修羅場をくぐってきてるね……」

「ぐぐぐ……」


 す、すごいパワーだ。ほんとに婆さんなのかこの人は……


「……ほう、防御魔法が突破された瞬間に回避……どうやらその眼に何か秘密があるようですね……」


 アイズのことにも感づかれた……このままじゃこっちが防戦一ぽ……


「考え事をしている余裕なんてあるのかねえ……」

「!!」


 カナギは素早くこちらの懐に入る。瞬間移動……ではないが、それを彷彿ほうふつとさせるぐらいのスピードだ。


「ケアアアアア!!」

「ぐあっ!!」


 カナギの渾身の一撃を食らってしまった。竜人特有の硬い皮膚のおかげで致命傷はさけることが出来たがそれでも出血がかなりひどい……


「これでしまいじゃあ!!」


 あ、だめだ……死んだ。普通の人ならこういうときは走馬灯みたいなのが頭に流れるのだろうが、僕の頭の中にあったのはこのおばあさんの命を奪ってしまうことに対する罪悪感だった。

 これで四回目になるのか…………このばあさんはただこの村を守ろうとしただけなのに……ほんとになんというか……すごく、すごく……




 



 


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