第26話 再会
「おい!!もう一人の竜人はまだ見つからないのか!!」
「も、申し訳ございません……ですが、グレンダ様の暴走を押さえるのに手一杯でそれどころでは……」
「ちっ!!あの若造が……大国三大魔道士だからと今まで勝手を許していたが、もう我慢できん!!」
「ですが、今まで脱獄者数がゼロだったのもあの人のおかげ……」
「過去のことは関係ない!!今!!この瞬間!!あいつのせいでむちゃくちゃなことになってんだ!!一体どうやって落とし前……ん、お前鍵はどうした?」
「えっ……な、ない!?ど、どうして……」
「とぼけるな!!さてはどこかに落としてきたな……この非常事態に!!」
「い、いやその……」
「まあいい、俺は優しいから許してやるよ……脱獄囚を見つけられたらな!!」
「は、はいいいい!!」
*
「ぐ、ぐお……一体、どこから……」
……これで、門の前にいる看守は全て倒した。後はさっき看守達からくすねてきた鍵を使えば……
「……開いた。」
能力の制限時間もあとわずか……それまでに出来るだけ距離を稼がなければ……僕は後ろを振り向かずただひたすら全力で逃げた。全ては竜人を……竜人を……竜人を……
*
「はあ、はあ……ここまで来ればしばらくは追ってこない……か……」
コピーの制限時間が切れてしまったが、全速力で逃げたおかげで距離は大分稼げた。
「追手が……来ないな。」
やはりグレンダの暴走を食い止めるためにかなりの人員を割いているのだろう。それにここは深い森の中。大人数でなければ見つけることはかなり困難であろう。結果的にあいつの暴走は僕の脱獄を助けたというわけだ。
「さてこっからどこに……うっ、ぐはっ!!」
……来た。カプセルの能力の反動。僕は口から出たものを拭う。
「……赤い。げほっ……げほっ……」
これはぶっ倒れるまで秒読みかな……そう思い至り僕は身を隠せる場所を急いで探す。
「ほら……穴……げほっ……」
幸運なことに洞穴を見つけることが出来たここならしばらく身を隠せる……はず。
「げほっ……げほ、げほ!!!」
重い、寒い、熱い、だるい、痛い、苦しい、つらい……それらの体の負の要素が僕の体中を駆け巡る。正直今自分が生きているのも不思議なくらいだ。
水は限界の魔力を絞り出し調達し食べ物は洞穴の中に入ってきた虫を食らって空腹をしのいでいた。
「はあ……はあ……。」
僕は寝込みながらも常に外の様子は確認していた。体がこんな状態なのだから見つかれば逃げることなんてできないが、それでも確認しなければ気が済まないというのが人間のさがだろう。
一日また一日と日は過ぎていく。体の不調はだいぶましになってきた。まだろくに動けはしないが頭は少し回るようになってきた。
「……」
体が動かない以上この場から移動することは出来ない。今の僕に出来ることはただ、考えることだけだった。これまでのこと、これからのこと、そして……僕自身のことだ。
「……」
脱獄を決行したあの日僕は少し……いや、かなりおかしかった。あれだけ恨み憎んでいた竜人をあろうことか僕は命がけで助けようとした。何でこんなことをしたのか自分事ながら全く理解が出来ない。でも、あのとき僕は心かあいつを助けたいと思って……でも、あいつは僕の村を襲った悪いやつで……でも、そんな悪いやつでも……
「……げほっ、げほっ!!げほっ!!」
考えれば考えるほど頭の中がぐちゃぐちゃになってくる……。すごくいやな気分だ。何でこうなったのか考えられるのはやっぱり……
「……!?」
今、人の姿がちらっと見えたような気がする。僕を捕まえに来たのか?それとも、ただ偶然この森の中に来ただけの人だろうか?いずれにしろ人がいる以上、脱獄囚である僕は姿を見られるわけにはいかない。僕はろくに動かない体を無理矢理動かしてこの場を後にした。
*
僕はその後も逃げ続けた。体の方は更に時間が過ぎたことで、なんとか全快させることが出来たが、安心は出来ない。常に周囲に注意を払い追手が来ていないか警戒しながらただ目的地を目指して……いつの間にか僕が魔女の胃袋から出て四ヶ月程の月日がたっていた。
「……やっとたどり着いたみたいだな。」
僕の眼前(アイズ込み)に広がっていたのは『クロノ大河』という大きな川だった。ここを超えなければ目的地、竜人の国『アルバドラ』にたどり着くことが出来ない。
「やっぱり……いるよな。」
川沿いには王国の魔道士が何人かその周辺を見張っていた。クロノ大河は王国とアルバドラの国境に位置するためまあ予想通りと言ったところだ。
それに脱獄囚である僕が逃げるためにアルバドラに向かおうとしていることは王国の魔道士も分かっているはずだ、顔が割れている以上うかつに近づくことも出来ない。それを考慮するとどうしてもアルバドラに向かうことが出来ない。
……やはり、国境を越えることは難しそうだ……かなり遠回りになるとしても他の国を経由して、アルバドラに向かうべきなのだろうか、だが、遠回りをしている内に魔道士に捕まったら……
「とりあえずここら辺に拠点を作るか。」
川から数キロ離れた場所そこに僕は拠点を作ることにした。ここからであればアイズを駆使して河の状況を確認しながら潜伏することが出来る。
僕はその周辺の森の中で食料になりそうなものを探した。そのとき、僕はどこか見覚えのある花が咲いていることに気がついた。これは……「シライバ」だ。
この世界の春に値する時期によく咲いている花がこのシライバだ。聖魔道女学園には、この花の木がたくさん植えられていて入学式の時期にはこの花が学校を埋め尽くしとてもきれいだ。まあ要するに日本の桜のようなものである。
この花が咲き始めてているということはもう春が近いのだろう。もし、僕が……レイラがリドラに殺されていなければ、僕は聖魔道女学園三年生になっていたわけだ……彼女たちは、リアとカンナは元気にしているのだろうか……もしもかなうのであれば今からでも彼女たちに会いたい……でも、この姿ではそれもかなわないだろう……
僕は一度目を休めるために寝床に戻ろうとしようとした……正にその時だった。誰かがこちらを見ているような気配を感じる。気のせいではない。この世界の過酷な環境のせいで自然と気配に敏感になってしまった。……物音は聞こえない……どうやら、獣の類いではなさそうだ。
僕は、足早にこの場から去ろうとする。気配の主達はこちらに向かってきている。なるべく戦闘は避けたい、どうにかして追っ手達を巻くことが出来た。これで一安心……
「キューイ!!」
「……!?」
今度は空から何かがこちらに向ってくる。これは……鳥か?いや、ただの鳥じゃない。元の世界にいるカラスのような見た目をしている。だが、まるで白鳥のように羽が白く美しい。まさか……
「ガルタ、どうしたんですか……急に飛び出したりして、何か見つけ……」
「あっ、ああ…………」
僕の目の前には見覚えのある少女の姿があった。間違いない……リアだ。
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