第24話 揺さぶり

「くそ!!今度はどこから来るんだ、リドラ!!」

「斜め後ろ……七時の方角!!」


 ドラネオは防御魔法を展開し攻撃を防ぐ。そしてグレンダは攻撃を防がれた後そのまま姿を消した。


「くそ!!攻撃は防げるが反撃が出来ねえ!!このままじゃ奴の能力を……」

「……私の能力がどうかしたのですか?」


 グレンダはまるで僕達をあおるかのように姿を現す。そしてまた姿を消した。


「くっ、こいつ!!なめやがって……」


 やはり王国三大魔道士の称号はだてじゃない全くといっていいほど歯がたたない……いやむしろ王国三大魔道士相手にここまでやれているのが奇跡的だと捉えるべきだろうか。


「幸いなのは、近距離からの攻撃しかしてこないということだが……」


 戦っている内にグレンダの能力『エンプ』についても色々分かってきた。グレンダはエンプを使っているとき短剣を使った近接攻撃しかしてこない……


「今度は右か、いや後ろか……くそ、何で俺じゃあ感知できねえんだ!!」


 どこから攻撃がくるかを他人の判断に委ねるというのはどんな気持ちなのだろうか……


「……攻撃してこねえな」

「…………」


 ドラネオの言ったとおりグレンダは攻撃が来ない。また、能力を使ったドッキリ戦法で不意打ちを狙おうってことなのか?それとも……


「……ん?今の音は……」


 下の方を見てみると何かが転がっている。


「ま、まずい……ば、爆弾、避け……」


 不意を突いた攻撃に反応が遅れた。僕達はかなりのダメージを受けてしまう。


「この監獄で作られた新作の魔法手榴弾……そう、あなたたちが作った武器ですよふふふ……。」


 こっちには全く余裕が無いのにあの人はなんだ?まるで、楽しみたいがために戦っているような……そんな雰囲気をも感じる。


「楽しいですよほんと……なんせ私は自分の強すぎる能力のせいで長時間の戦闘というのがなかなか出来ませんでしたからね……」


 ……それより今の爆発……かなり大きな音がした。今の音で他の看守が来でもしたら……


「他の看守なら心配入りませんよここへ来られる道は私の結界魔法で塞いでますから……思う存分戦闘を他の閉められるというわけですよ。」

「…………」


 だが、加勢が来ないにしろこちらが不利なことには変わりは無い。なんせ敵は王国三大魔道士……チート能力に多少あらがえるとはいえ地の実力が全く違う。それに対し僕達はカプセルの効果が切れたドラネオとヒュウのカプセルの能力が時間切れ間近の僕の二人だけ……勝てるはずがない。


「……なあ、ドラネオ。なんか無いのか?あいつから一矢報いる能力のカプセルが……」


 あるわけがない。もしあるんだったらとっくに使っているはずだからだ。それでも僕はわらにもすがるような思いで聞いてみる。


「……あるよ。」

「……え?」


 ……意外な返答だった。


「じゃあなんで今まで……」

「……使ったら体もたないかもじゃん。」

「……!!」


 ……忘れていた。コピーの能力の制約……自分の実力以上の能力者の能力はコピーこそ出来るが体にそれ相応の負担がかかるということを……まあこれは当然だ。もし何でもかんでもコピーできたら強い味方竜人の能力をコピーし放題なチート戦士になってしまう。


「……何をぼそぼそと話しているのかな?」

「……もしかして聞こえてた?」

「ええ、それはもうはっきりと……私、耳は結構いいほうですし……」

「へえ……」

「……?」


 僕は、ドラネオがグレンダとしゃべりながらなにかゆびを動かしているのに気が付いた。これは……万が一のときのために覚えさせられたハンドシグナルだ。


「あなたのそのカプセルの中身……気になりますねえ……ええ。」

「そんなのいうわけ無いだろ……いやまあヒントぐらいは教えてやってもいいかな。」


 こうやって無駄なおしゃべりで時間を稼いでいる間に僕たちはハンドシグナルで互いに作戦を伝え合う。


「ほう、ヒントですか。是非お聞かせ願えますかな。」


 おそらく、グレンダもハンドシグナルでなにか互いに伝え合っていることには気が付いているだろう。だが、さすがのグレンダもその内容は分からない。それだけでも充分意味がある。


「俺が『最強だと思う竜人』の能力……」

「……ほう。他にヒントはないのですか?」

「うーん……そうだな。」


 考えろ考えろ……今ある持ち駒だけで何とかこの場を切り抜ける方法を……やつの虚を突く方法を、今僕らにあるのは眼力アイズ強固スチールストリングスリドラが覚えているいくつかの初級魔法。そして……ドラネオが持っている『最強だと思う竜人』の……『最強だと思う竜人』の……?


「……これ以上は言えないかな。」


 いや、待てよこれは……これはうまいこと使えるかもしれないぞ!!


「ほうほう、そうですかそうですかええ……」


 僕はハンドシグナルでドラネオに作戦を伝える。ドラネオは少し驚いた表情を浮かべていたが特に何も言わずただこくりと首を縦にふった。


「さてそろそろいいですかな。」

「……」

「期待していますよあなたたちの最期の……」

「煙壁《スモーク》!!」


 僕は魔法を使い僕とドラネオの周りに煙幕の壁を張る。


「ほう……そんな初級魔法で一体何を……」


 問題はこっからだ。透明化させる暇を与えずに次の手を打つ……!!


「……こ、これは!?」


 さっきまでひょうひょうとした態度をとっていたグレンダの様子は一変して仮面越しでも驚愕していることが分かる。無理もない。なんせ、煙の中にいるはずのドラネオが……突然自分の隣に現れたのだから……


「ま、まさか本当に……本当に最強の……」


 そう、この目の前に敵が突然現れたというこの事象……僕も経験したことがある。最強の竜人と名高い……ゼノスの瞬間移動!!


「おら!!」


 ドラネオはその勢いのままグレンダに殴りかかる。


「ウインド!!」

「うおっ!!」


 だが、さすがに王国三大魔道士……驚きはしたがすぐに冷静になり魔法で対処する。風魔法を受けたドラネオは壁にめり込まれる。


「素直に驚きましたよ。まさか本当に最強の竜人の能力を……」


 ……これは、ピンチ?いや、チャンスなんだ。今の光景を見てグレンダの意識は完全にドラネオに向いている。


「こ、これは……」


 『最強だと思う竜人』の能力……このドラネオの言葉がかなり効いた。これを言った後にあんなもの見せられたら……ゼノスの瞬間移動だと思うよな。


「……デコイか!?」


 そう、これは、瞬間移動なんかじゃない。グレンダの側にドラネオの側にデコイを召喚したんだ。やつは、それを瞬間移動だと思い込んだ。そして今、本物のドラネオは……煙の中にいる。


「今だ10時の方角!!」


 ……僕のアイズで煙の中からグレンダの位置を特定そして、ドラネオに位置を伝える。それを聞きドラネオは自分が飲んだカプセルの「本当の能力」をグレンダに向かって放つ。そう、彼が言う「最強の竜人」の能力……『』が。


「ぐ、ぐああああああああああ!!」


 グレンダは叫び出す。その声はまるで地獄から這い上がってきた悪魔……この猛毒の針の威力は実際に食らった俺が一番よく分かっている。いくら、王国三大魔道士でも無事ではいられないはずだ。つまりやつは……ここで死ぬ。


「や……やったのか。」

「あ、ああ…………」

「うおおおお!!よっしゃあああ!!」


 こいつの死体を看守の誰かが見つければこの監獄内は大混乱になる。その隙を狙えばをもう脱獄まで秒読みだ。やったんだ。俺達は……言葉で言い表せない興奮が僕の頭の中を駆け巡った。


「やった!!やったんだ俺達!!すげえよリドラ!!なあ……」


 ドラネオはすっかり興奮しきっている。まあ無理もない僕だって表には出していいないがかなり興奮しているのだから……


「おいおい興奮しすぎだってのまだ脱獄できてないのに……」

「そりゃ興奮するだろだってだってよ……!!」

「……だって?」

「だって、王国三大魔道士の一人を倒したんだぞ!!」

「あははそうだな………………ん?」

「……ん?どうした」

「い、いや……」


 王国三大魔道士……その言葉を聞いて……僕の興奮は疑念へと変わった。グレンダを殺したことに対する疑念に。


「なんか……改めて考えると実感湧かねえな。相手がなめプしまくってたとはいえ俺達ごときが王国三大魔道士を倒したなんて……」


 そうだ、こんなやつだがこいつは……グレンダは王国勢の……カンナやリア達にとって希望のような存在だ。もしここで殺せば勢力図が竜人側に傾いてしまう。つまり僕がやったことは……王国軍への……反逆……


「まあでも、いつまでもぼんやりとしてられねえ一刻も早くここから……」


 いやでもそれは仕方の無いことだったんじゃないか?だってここで倒さなければ僕は脱獄できず処刑されていた。そしたら僕は……復讐を果たせ……いや、死なない僕は死なない。無限転生があるから……無限転生で処刑人に乗り移って竜人どもを殺せばよかったんじゃないか?でもそれだとその人を殺すことになって……あれ……あれ?


「おい、どうしたリドラ!?」


 そもそもなんだよなんで人間殺して悦に浸ってんだよ。おかしいじゃないか。僕は人類の味方で竜人の敵で……僕は……僕は、僕は僕は僕は僕は僕は僕……


「リドラ!!!」

「え?」

「『え?』じゃねえだろ。お前が言ったんだぞ。まだ、脱獄は出来てないって。」

「あ、ああ…………」

「ほら行くぞ。」

「…………」


 そう、僕に考えている暇はない。僕は……もう前に進むしかない。僕は……

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