第23話 死の危険

「おい!!見つけたぞ!!あいつらだ!!」

「ちっ、また見つかったか……」


 またしても僕達は看守達に見つかってしまった。しかも今度は4人……


「くそ、多勢に無勢だなこりゃ……ここは花粉玉を……食らいな!!」


 こちらに向かってくる看守達に向かって花粉玉を投げつけた。看守達は咳と鼻水が止まらない。ああ、やばいなんか見てるこっちもむずがゆくなってきた。


 花粉玉で看守達がひるんでいるうちに僕らはまた逃げ出す。僕らのことを気づかれてからというものの看守は4人以上の集団で行動することが多くなった。だから撃退することはもちろん、念力で鍵を奪うのも人数が多い分気づかれやすいので難しい。


「ちくしょう、早く鍵を奪わないとこっちが劣勢になるばかりだぞ……やっぱり多少リスクを伴うけど撃退して奪うしか……」

「どうやらそれしかないようだな……アイズで周囲に少数で行動してる敵がいるか確認してみてくれ。」


 今更そんなやつがいるとは思えないんだけどな……とりあえず周囲を確認してみる。やはり、ほとんどの看守達が集団で行動している。さっきの二人組ぐらいの強さなら何人いてもなんとかなるだろうか……でも、アイズじゃ敵の強さまではわからない……


「だめだ。ほとんどの看守が4人以上で行動してる。なるべく、弱いやつを狙わないとな……なあ?敵の強さを把握できる能力のカプセルとか持ってないのか?」

「そんな都合のいい能力のカプセルがあったらとっくに使ってるっての……」

「まあそれもそうだよな……もう少し周囲を確認してみるよ…………」


 とはいったもののこの厳戒態勢の状態で単独行動なんて軽薄な行動をしているやつがいるとは思えないが……あれ?単独で行動してるやつが一人こちらに向かってくる。さっき確認したときはいなかったのに……いや待てよこのフォルムまさか……


「おい、まずいぞ!!牛仮面がすぐそこまで向かってきてる!!」

「マジかよ……今どこら辺だ。」

「ちょっとまて……あれ?」

「どうした?」

「見失った……いや、見失ったと言うよりは姿が突然消えたような……」

「は?何を馬鹿なこといって……いやでも」


 そう僕が目撃した光景は普通に考えれば「馬鹿なこと」だ。だが、さっき突然気配もなく現れた事といい……もしかして……


「もしかして、透明になれる能力なのか!!とでも言いたそうですねえ……まあ、透明化と言うより存在感を消す能力なのですが……」

「……!?」

「……来やがったか!!」


 グレンダがまたもや気配なしに突然現れる。


「……やっぱりそういうことなのかグレンダ!!」

「おや、やはり二度目はさすがにあまり驚いてくれませんか、つまらないですねえ……」


 存在感を消す能力……これはかなりまずいぞ。なんせ存在感を消されたらどこから攻撃が飛んでくるか分からない……。まさに絶体絶命……と僕はそう思っていた。だが、ドラネオは違った。


「リドラ、これはチャンスだ。」


 ドラネオがそう、僕に小声で話しかける。


「は?チャンスって……何言ってんだお前……」

「あいつの能力……存在感を消せる能力ってのは脱獄するのにかなり役に立つ。」


 ……かに存在感を消せるということは鍵も簡単に奪えるし他の看守に見つかる心配も無い。脱獄するのにこれ以上適した能力は無い。だが……


「どうやって奴のDNAを奪うんだよ……やつは大国三大魔道士なんだぞ。俺達のレベルじゃどうすることも……」

「それでも!!それでも……これ以外に方法が……ないだろ!!」


 どうやら、ドラネオはかなり焦っているようだ。まあ無理もないだろうな……この状況を打開できる策が全く思い浮かばない。はっきり言って絶望的だ。

 

「おやおや今度は逃げるつもりは無いようですねえ。それでは私も本気を出しましょうか……」


 そう言うとグレンダの姿が突然消える。いや、存在感を消しているのだから姿を認識できなくなったという方が正しいか。どうやら能力を使ったようだ。この状態ではアイズを使っても位置を確認することができない。どこから攻撃がくるか分からない恐怖が僕らに襲いかかる。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 沈黙の時間が続く……どこから、どこから攻撃してくるんだ……!?


「…………」

「…………」

「…………」

「…………!!」


 ……突然背後から邪悪な気配を感じる。慌てて後ろを振り返る。グレンダはナイフを振り下ろそうとしている。慌てて僕は防御魔法を展開してギリギリでガードすることができた。


「ほう……結構やるじゃないですか……」


 どうやら、いくら存在感を消していると言っても神経を集中させていれば気づかれない内に攻撃されるというチートじみたことはされないみたいだ。


「ではもう一度……」


 グレンダの姿をまた認識できなくなった。なんとか防御することはできるが攻撃することが出来ない。このままでは防戦一方だ……


「…………」

「…………」

「…………!!」


 今度は二時の方向に気配を感じる。ドラネオ狙いか!!


「ドラネオ!!前から攻撃してくるぞ!!」


 ドラネオは間一髪のところでグレンダの攻撃をよける。


「おっと、危ねえ危ねえ……教えてくれサンキューな。にしてもよくわかったな……俺はまるでどこにいるか分からなかったのに……」

「え、ああ……」


 ……ドラネオは位置を特定することが出来ないのだろうか?


「そこの左側にいる竜人……」


 突然グレンダが僕に話しかけてきた。


「え、ぼ、俺のことですか……」

「てめえ、何動揺してんだよ」

「いや、突然話しかけてきたからつい……」

「私が言うのも何なんですが、この能力、「空虚エンプ」っていうんですが、結構強い能力なんですよ……多少魔力は使いますが、うまくいけば気づかれることなく相手を殺すことも出来るんです。」


 そんなこと言われなくたって分かってるっての……


「例えば、王国三大魔道士の一人フレン、彼女は優秀な魔法使いですが、その優秀さゆえ死の危険に際したことはありませんでした。彼女と何度か手合わせしましたがは私の能力を破ることが出来ませんでした。」

「フレンすらも……!?」

「そうです。彼女ほどの魔力や精神力をもつ魔法使いでもこの能力には一切対処することが出来ないのですよ……。」


 フレンすらも対処出来ない能力……だったらなおさら何故だ。何故俺にはギリギリのところで察知することが出来る?


「ですが、この能力は決して無敵ではないんです。『不死老人のアント』あなたたちの間では結構有名な竜人ですよねえ……」


 不死老人のアント……突出した能力や強さは持っていないが、どんなに過酷な戦場でも生き残り情報を提供してきたっていう……


「何年か前に彼と対峙したことがあるんですがね、いやあ、あの時は驚きましたよ。だってエンプを使ってる状態の私に対応してくるんですよ。フレンですら対応出来ないこの能力を……そう今のあなたのように……」

「……」

「それで、私は疑問に思ったんですよ。どうして、フレンはエンプに対処出来ないのにアントは察知することが出来たのかって。いや、本当に不思議ですよねほんと……それで、私いろいろ実験してみたんですよいろんな人達で。自分の能力の弱点を知ることは大切ですからね……何人も何人も……あ、別に殺してはいませんよ。殺す必要はありま……」

「……もったいつけてねえでさっさと結論を言えよ!!」


 ドラネオはイライラしながらそう叫んだ。


「おお、怖い怖い……まあ結論から言うとですね。この能力に対処出来る人間、それは、死の危険を乗り越えて来た人と言うべきでしょうか?」

「死の危険を……?」

「例えばフレン彼女は優秀な魔道士だがその優秀さ故、戦場でも命の危機に直面することはなかった。他に戦場に行ったことがない一般人や優秀でもまだ戦場に行ったことがない学生魔法使いは私の能力に対処出来ない。一方、不死老人のアント彼は決して能力に優れた戦士ではありませんが何度も死線を乗り越えてきた。他にも能力は高くないが何度も戦場を経験したベテラン戦士。街を襲われ命かながら逃げてきた一般人も多少はエンプに反応できるみたいなんです。」


 こいつの能力もドラネオに負けず劣らず癖の強い特徴があるな……にしてもこいつ自分の能力についてペラペラとしゃべりすぎじゃないか?これは……「余裕の現れ」ということなのか?


「それで本題なんですけど、あなたの反応速度、異常なんですよねえ……あのアントと同じかそれ以上……でもあなたの階級って確か二等兵……戦争にだってろくに参加していないはず……」

「……一体何が言いたい?」

「あなた、一体なんですか?」

「…………」


 なるほど……こいつ、僕に興味を持ったってことか。だからこんなに自分の能力のことをペラペラと……


「答えてくれませんか、まあいいでしょう……捕まえればいいだけの話……」


 また姿を消した。だが、精神を研ぎ澄ませていれば……そこか!!


「またよけた、しかもだんだん反応がよくなってきている……これはいよいよまずいですねえ……」

「はあ、はあ……」


 死の危険を乗り越えて来たか……そんなの生ぬるいな。なんせ僕はもう死を三回経験しているのだから……


空虚エンプ自分を含め自分中心に半径0.5m以内のものの存在感をなくすことが出来る。

 



 









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