第22話 牛仮面

 僕とドラネオは意を決して看守から奪った鍵を使い牢屋から飛び出す。牢屋の監視をしていた看守二人は少し動揺するがすぐに僕達に向かって魔法を撃とうとする。


「遅い!!」


 だが、ドラネオは看守が魔法を放つ前に看守の懐に飛び込み看守のあごに拳をクリーンヒットし看守をダウンさせる。


「……ぐはっ!!」

「こっ、この!!」


 ダウンしていない方の看守はダウンした看守を見て動揺しドラネオの方に魔法を向ける。


「今だ!!」


 僕はその隙を見逃さず能力の糸を出しこっそり背後に近づき看守の後ろから首を締め付ける。


「ぐ、ぐぐぐ……」


 看守は首を絞められそのまま気絶し倒れ込んだ。


「やっぱ便利だなその糸の能力。」

「ああ、まあな。」

「……でも、この糸がもう少し使い勝手がよかったら、わざわざヒュウの能力使って鍵を奪う必要も無かったのによ。」

「うるせえな、しょうがねえだろ……」


 ドラネオが言ったとおり糸の能力を使えばヒュウの能力を使わずに鍵を奪うことが出来ただろう。ただそれは、レイラ、もしくはリオンが使えばの話だ。リドラの体でで強固な糸を使用すると細かい動き(鍵を糸で絡め取るなど)がうまく出来なかったりして鍵を奪うことが出来ないのだ。ぶっちゃけかなり使い勝手は悪くなってしまった。


「まあでも、大したことなかったな。」

「まあ、ここにいるやつらはな。だが調子に乗るんじゃねえぞ。ここには牛仮面以外にも手練れはいる。」

「ああ分かってるよ……」


 もし、僕がレイラだったらその手練れを倒すのも余裕だっただろうが、リドラじゃかなりきついものがあるだろう……


「さて、ここでのんびりしてる時間は無い、なんせコピーの制限時間は10分しかないからな素早くかつ迅速にだ。」

「おお……」


 素早くと迅速には意味がかぶってるんじゃないかとも思ったが、さすがに空気を読んで言わなかった。





 僕らはアイズを使って周囲にいる看守達を警戒しつつ門の方へ進んだ。魔女の胃袋内部は入り組んだ構造をしているので、外に出るのにはどう考えても一時間以上はかかる。そうなるとやはりコピーの制限時間10分は痛い


「うっ!!はあはあ……」


 目が痛い……アイズを酷使し続けたせいだろう。


「おいおい大丈夫かリドラ?かなり長いことアイズを使ってたみたいだが……」

「はあ、はあ……大丈夫だっての。捕まるよりは100倍ましだからな。」

「……とりあえず、いったんアイズを解除したほうがいい。」

「……でも」

「『でも』じゃねえよ!!お前のアイズがなきゃ詰むんだぞ。最後の最後にアイズ使えなくて捕まりましたなんてしゃれにならねえだろ。」

「……ああ、分かったよ。」


 僕はドラネオに言われたとおりアイズをいったん解除する。


「……」


 やっぱり常にアイズを使っていないといつ看守に見つかるか分からない恐怖で押しつぶされそうになる。アイズを使い続けても使うのを止めても神経がおかしくなりそうだ。


「おい!!あそこに竜人がいるぞ!!」

「……くそ!!」


 僕がアイズを解除している間に看守達に見つかってしまった。


「おかしい、もう脱獄した竜人は取り押さえたと報告を受けたはずなのに……」

「取り押さえた……?」


 嘘だろ!?俺達より先に脱獄した竜人もう捕まったのかよ!!もう少し時間を稼いでくれよな全く……


「まさか、他にも脱獄した竜人がいたのか!!」

「おいおいマジかよ……だったら早くグレンダ様に知らせなくては……」


 看守達はグレンダを呼ぶために一端引こうとする。当然それをドラネオが見逃すはずがない。


「スプラッシュアロー!!」


 ドラネオは水の刃で看守の一人の背中を切りつける。


「ぐおっ!!」

「ライアン!!こいつ、よくも俺の親友を……許さねえぞ!!くそトカゲどもが!!」

「《強固な糸》スチールストリング!!」


 今度は僕の糸の能力を使い看守の一人をがんじがらめにする。


「なんだ、この糸はくそ……離しやがれ!!」


 相手が抵抗すればするほど糸が絡みついていくこれを逃れるのは難しい。一時的にではあるが、看守を拘束することができた。

僕達は


「ぐはっ!!」


 その光景を見て僕は思わず目を丸くする。……ドラネオが僕の目の前で拘束された看守に魔法でとどめをさしたのだ。


「ド、ドラネオ……拘束してるんだからなにも殺さなくたってい……」

「は、何言ってんだよお前?俺達の顔見られたんだぞ。万が一逃げられでもしてグレンダに報告でもされたら面倒だろ。」

「……」

「そういやお前さっきも看守殺し損ねてたよな。あの後俺がちゃんと殺しといてやったから感謝しろよな。」

「あ、ああ……」


 分かってはいた……分かってはいたんだ……ここから出るためには最悪の場合、看守達を殺す……でも、彼らは同じ『人』であり仲間なんだ。その彼らを殺すなんてとてもできない。だが、それをドラネオはいとも簡単にやりやがった……


「はあ、他の奴らもこいつらぐらい弱けりゃ念力なんてせこいて使わなくても真正面から殺りにいけるんだけどな……おっ!!こいつが持ってる鍵、当たりだぞ!!」


 僕は再確認した。こいつは竜人。『人』の敵だと言うことを……






 看守達から奪った鍵を使って更に先へ進む。システムの故障の件を加味しても後必要な鍵は最低4つだ。


「おい、あそこに看守が一人だけ……こいつからなら……」


 第三ゲート近くに看守が一人見張りをしている、こちらには気づいていないようだ。


「俺は今さっき制限時間過ぎちゃったから……頼めるか?」

「ああ、分かった……」


 僕はドラネオからカプセルを渡された。そして、渡されたカプセルをそのまま飲み込む。


「ええっと、鍵の位置は、よく見えないな……」

「そんなに見えづらいなら、アイズ使えばいいだろ!!」

「分かってるっての……アイズ!!」


 アイズで大体の鍵の位置を確認することができた。後は念力を使って……あれ?これ結構難しいぞ。ドラネオは結構簡単にやってのけてたに……

 

「早くしろよ、猿人が来ちまうぞ!!」

「うるせえな集中出来ないだろ!!もう少し、もう少しだから……」


 気づかれないように慎重に……つかんだ!!、そして素早く引き抜く感覚で……


「やった!!取れたぞ!!」


 僕は少しうれしくなってしまい思わず声が漏れてしまった。


「いやあ!!お見事!!素晴らしい手さばき……いや能力さばきですねえ……でも、一回一回こんなことしなくても私を殺して鍵を奪えばすぐに終わるのに……」

「……いやでもさすがにあいつから鍵を奪うなんてとてm…………!!?」

「……な、なんでてめえが!?」


 僕らはあまりの衝撃で目の前で起きていることを一瞬理解することが出来なかった。僕らの目の前に牛仮面……グレンダがいる。


「あら、何を驚いているのですか?ずっと一緒にいたのに……」


 ずっと一緒にいた?いやそんなはずはない……アイズを使って常に周りを警戒していたんだ。そんなことあるわけが……


「まあ、冗談はさておき、早く自分の部屋に戻りなさい……これは命令です」


 グレンダはさっきと打って変わってとても冷たい口調で僕らに話しかける。……身動きがとれない。まるで、蛇ににらまれた蛙のように……この状況でやつを撃退する術は……無い。


「ちっ……仕方ねえな。」


 そう言ってドラネオはカプセルを取り出し口に含み飲み込んだ。


「この変態が……これでもくらいな!!」


 ドラネオがそう言うと何かを投げつけるを見せる。そぶりと言ったのはドラネオの手に何も握られていなかったからだ。


「ぐっ!!ゲホッゲホッ何なんですかこれは!!」

「今だ!!速く逃げるぞ!!」


 ……だが、一時的に難を逃れることはできる。僕らはただ無我夢中で逃げることしかできなかった。


「はあ、はあ……取りあえず逃げ切れた……のか?」

「どうだかな……この程度で逃げ切れる相手とは到底思えないが……」

「ところでさっきのは一体……」

「ああ、これ?この前お前も見ただろ花粉の能力。あれの応用技だよ。花粉を手のひらの中にため込んで相手の顔にぶつけたって訳。」


 花粉の能力って、前に僕が暴発させて大変な目に遭ったあの能力……完全に外れ能力だと思っていたがこんな使い方があったなんて……


「牛仮面は俺達が牢屋から出てることは把握していた。おそらく他の看守にも知らされているだろう。だから今まで以上に慎重に行かないと……」

「…………」

「どうかしたか?」

「いや、何でもねえよコピーの制限時間のことも考えたらこんなところでぼさっとしてるわけにもいかねえし早く向かうぞ」


 この時、僕はなんとなくドラネオが考えていることが分かった。これ以上無いチャンスだと思って一か八かで脱獄を試みたものの実際は脱獄した他の竜人はあっさりと捕まり、牛仮面、グレンダにも見つかって絶体絶命。もしかしたらタイミングを見誤ってしまったのではないかと……だが、そんなことを気にしている暇はない。今はただここから出ることを考えるしかないのだ。













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