第21話  チャンス

 ヒュウの説得に失敗してからというもの脱獄の計画は手詰まりになった。毎日のように作戦会議をしているがあまりいい案が思い浮かばない。希望が絶えようとしている。そう思う日も多々あった。だが、それから3ヶ月後、運命の日は突然、訪れた……


「ん、ふああ……よく寝た…………ドラネオ今何時……?」

「何寝ぼけてんだよ、ここに時計なんてねえだろ……いつもみたいに看守が持ってる懐中時計見てみればいいだろ」

「ああ、そうだったな。アイズ……ん!?」


 僕はアイズを使って看守が持っている時計の針を確認する……そしてその針を見て僕は心臓がきゅっとなる。


「どうした?」

「どうしたもこうしたもねえよ!!もう、9時過ぎてんじゃねえかよ!!やべえよ完全に遅刻だよ!!」

「今日の労働は無いってよ。」

「へっ、今なんて?」

「今日の労働はお休みだって言ったんだよ……」


 嘘だろ、この監獄に休日なんてものあるはずがない……もしかして、僕は今、夢を見ているのか……きっとそうだ。そうに違いない。


「何自分のほっぺたつねってんだよ……言っとくけど夢じゃねえぞ。これは。」

「う、嘘だあ……」

「まあ、そう思う気持ちも分かる。俺も最初は冗談か何かかと思ってたからな……」


 ドラネオのいいぶりからして本当に今日の労働はお休みのようだ。


「一体なにがどうなってるんだ……」

「それをお前のアイズで確かめてほしいのによ、お前が全然起きてくれないからさあ……」

「わかった!!わかったから!!……アイズ!!」


 アイズを使って監獄内を確認してみる。確かに囚人は全員牢屋の中にいる。誰一人として作業所には出向いていない。何か問題でも起きたのだろうか?他の場所も見てみる。ん?あれは……


「はっ!はあ、はあ……」

「どうだ、何か分かったのか?」

「どうやら、魔道装置のシステムに何かしらのトラブルがあったらしい……もしかしたら昨日の深夜に落ちてきた雷が原因かもしれないな……」

「雷なんて落ちてたか?」

「落ちてきてたって!!気づかなかったのか?すげえ音鳴ってたぞ」

「全然気づかなかった……」

「うらやましいな……俺その生で全然寝られなかったんだよ。まあ今日が休みでよかったよ。じゃあお休みなさい……」


 僕はそう言って布団の中に入り再び床に就こうとする。


「おい、お前……まさか、本気で言ってるんじゃないだろうな?」

「へっ?」

「へっ?じゃねえよ!!寝ぼけるのも大概にしろよな……今が脱獄するチャンスだろうが!!」


 僕は、思わずハッとなってしまった。……そうだ、僕は何を言っているんだ。システムが故障してるなんてこと滅多に無いんだぞ……


「で、どうするんだよシステムが少し故障してるからってここの警備が厳重なのは変わりない、むしろシステムの故障でいつも以上に警戒してるまであるぞ」


「……それを今から考えんだよ!!ほら、お前も頭使え!!」


 そう言われてもなあ……まずこの檻から出ること、それはまだ簡単だ。なぜならこちらにはヒュウののうろこがある。このうろこはヒュウのしたことを黙ることを条件にヒュウから譲り受けたものだ。これを使えばカプセルを作れる。


「問題はここの檻から出た後にどうするかなんだよな……」


 そう、問題はその後だ。前にも言ったようにこのカプセルでのコピーは10分までしかもたない。しかも、これも最近聞いたのだが、同じ能力のカプセルを飲むには能力が切れた後さらに20分のインターバルが必要になるということだ。

 

 ……便利な能力ではあるのに、制約が多すぎて本当にややこしい。これが、ドラネオの能力の一番の弱点なのかもしれない。


「なあ、今、ヒュウ以外の能力のカプセルは持ってるのか?」

「ああ、まあ何個かは……」


 そう言うと手のひらを広げてドラネオはカプセルを見せた。


「思ってたより少ないな……」

「しょうがねえだろ、持ち物検査があるたびにいちいち破棄しなくちゃいけないんだからよ」


 監獄では定期的に持ち物検査が行われている。だから、持てるカプセルの量も限られてくるのだ。


「はあ、とにかくもう一度監獄の周辺を確認してみるよ……アイズ!!」

 

 ん?あれ、何か様子がおかしい……看守達が走り回っている。何かを探しているような……他の場所も見てみる。A-1区、A-2区……あれ?A-3区の牢屋の一つが空いている。あそこには誰かがいたはずなのに……もしかして……


「おい!!誰かがこの事態を利用して脱獄しようとしてるみたいだぞ!!」

「マジかよ……そいつはどこのどいつだ!!」

「Aー3区のこの位置は……5番牢獄か?」

「ここからはまあまあ離れてるな……そいつはまだ魔女の胃袋の内部にいるのか?」

「詳しい位置とかは分からないけど、今さっき騒ぎ出したからさすがにまだ内部にいると思う」

「…………」

「どうした?」


 そう聞いたとき僕はなぜか少し身震いしていた。まるで直感的にこの後飛び出す、彼の衝撃的な発言を察したかのように……


「ここから出るぞ。」

「いやそれは、分かってるけど……」

「今からだ。」

「…………は!?」


 え?今、今からって言ったのか?今からってつまり、すぐにってことだから…………


「今からって……本気で言ってるのか!?」

「本気だ。」

「作戦もなしにか!?」

「作戦なら今まで嫌というほど立ててきただろ。今こそ、その作戦を遂行するときなんだ」

「け、けどよ……」

「システムが一部故障している上に看守達は脱獄囚の対応に負われている。魔女の胃袋に入って一年半以上……こんなチャンス今まで……いや、これからもないだろう。だから、一分、一秒も時間を無駄にしたくない。」


 ……たしかにチャンスは今しかないのかもしれない。だが、作戦が不完全なのも事実ではある。特に牛仮面の対策が全く進んでいない。撃退するのはもちろんのこと逃げ切るのだって作戦なしで実行するのは、ほぼ不可能に近いだろう。それでも……やるしかないのだろうか。


 そんなことを考えているうちにドラネオはカプセルを取り出して口に含んだ。


「おい、ドラネ……」


 俺が止める間もなくドラネオは口に含んだカプセルを飲み込んだ。


「あ、ああ……」

「お前ももう覚悟決めろ。俺はもう後戻りはしないぞ。」

 

 そう言うとドラネオは念力を使い見張りの看守のポケットから素早く取り出し牢屋の鍵を開けた。本当にもう、後戻りはできない……


「いいか、合図したらここから出てここにいる看守三人を素早く仕留めるぞ。なるべく音は出すなよ……」

「……遂にこのときが来たんだな。なんか実感がわかねえな。」

「そうだな、でも、やるべきときはやらなくちゃいけねえんだよ。それが男ってもんだろ。」

「なにそれ……くそダサい。」

「悪かったなダサくて……とにかく、行くぞ!!」


 突然やってきたチャンス。これは希望への道しるべなのか、それとも……


 

 








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