第17話 監獄
「魔女の胃袋」大国魔道士がとらえた竜人を収容している監獄。その存在はもちろん知っていたがまさか、僕がここに入れられるとは思ってもみなかった。
「ほら、どうした、とっとと進まねえか、このくそトカゲ!!」
「……」
「ちっ、なんだこいつ感じ悪いな」
……くそトカゲ呼ばわりか、僕本当に竜人になっちまったんだなあ……最近までやれ天才魔法少女だなんだとおだててられてたのが嘘みたいだ。
「ほらついたぞ!!ここがお前の牢屋だ」
ここが、牢屋……映画とかで見たことあったけど、まさか本当に入ることになるなんて思ってもみなかった。
「ん、なんだお前、新入りか……」
どうやらすでに先客がいるらしい、俺はこいつと、竜人と一緒にこの狭い部屋で一緒に過ごさないといけないのかよ。
「おいお前、なんだよ何とか言えよ、言っとくけどここでは俺の方が先輩なんだ。生意気な態度とってんじゃねえよ」
なんだよこいついきなり先輩面してきやって生意気なやつだ……ああ、ほんと最悪だ。……でもなんだろうこいつとは初めてしゃべった気がしない。どこかで会ったような……
「おいなんだよお前、俺の顔じろじろ見やがって、気持ち悪いな。俺の顔に何かついてんのかよ!」
「……」
「ちっ、まただんまりかよ!!全く……そんなんじゃここでやってけねえぞ!!はあ……なんでこんなやつと同じ部屋に……」
それはこっちの台詞だ。こんなやつと一緒に寝泊まりなんて想像するだけで腹が立ってくる。
それに僕はこんなところで一生を過ごす気なんてさらさらない。一刻も早くこんなところから出て僕は、僕は竜人どもを殺さなければいけないんだ。
「おい、お前ら!!労働の時間だぞ!!早く集合しろ!!」
「ちっ!!もうそんな時間かよ。ほら、行くぞ!!新入り!!」
監獄での労働……映画とかでよく見るのは死人が出るほどの地獄のような肉体労働だ。だが、それなら何の問題はない。戦争に参加するために毎日厳しい特訓をしてきたんだ。どんな地獄でも耐えられる。
「ここだ。」
「えっ、ここ……」
連れて来られたのは窓が一切無く辛うじて周りが見える程度の薄暗い大部屋。そこには、机と椅子そして机の上には、なんだこれは……なにかの装置の部品か
「ちっ!!また今日もこれかよ」
「なんなのこれ?」
「都合のいいときだけ話しかけてくんじゃねえよ……これを組み立てりゃいいんだよ。」
「それだけでいいのか。」
「ああ、それだけだよ。」
そして言われるがままに僕は装置を組み立て続ける。これが一体何なのかわからない、それでもただただ組み立て続ける。そして全て組み立て終わったと思ったら部品が追加される。そしてまた……
「なあ、これっていつ終わるんだ?」
「……さあな、9時ぐらいなんじゃねえの知らねえけど、あと私語厳禁だからこれ以上話しかけてくんじゃねえぞ。」
9時ぐらいか、今は何時ぐらいだったかな……そういえばこの部屋には時計が無い。時間を確認する手段がない。部屋の外を見ることもできないから、今が朝なのか夜なのかも分からない。これではいつまで作業を続ければいいかわからないじゃないか。
それでも時間だけがただただ過ぎていく。もう三時間近くたっただろうか。いやまだ一時間もたっていないかもしれない。……そもそも僕は何を作らされているんだ。これを作るのに何の意味があるんだ。そう考え始めると止まらなくなる。もう限界だ。アイズを使って今の外の様子を見ようか……
「ああああああ!!くそ、もう我慢できねえ!!こんな何のためにやってるのかわかんねえ作業やってられるか!!」
突然、竜人の一人が騒ぎ出した。このいつ終わるかもわからない地獄のような作業に相当嫌気がさしたようだ。
「おい、お前なにやってるんだ!」
「うるせえ!!こんなのばっかやってたたら気がおかしくなっちまいそうだ!!お前らも何おとなしく作業してんだよ。ここにいる奴ら全員で謀反起こせばこんなやつらどうにだってなるだろ!!」
周りは騒然としている。
「あーあ、あいつやっちまったな。」
同室の竜人はそうつぶやく。
「おい!!どうした!!俺に賛同するやつはいねえのか!!腰抜けども!!」
竜人はとにかく叫び続ける。どうやら、相当不満を募らせていたようだ。
「……おやおや何をやっているですか、おとなしく席に戻ってくださいな」
「うわっ!!なんだお前!!」
……竜人が驚くのも無理はない。そこにやってきたのは、不気味としかいいようがない牛の骨の仮面を被った長身の男……いや女か?顔が隠れていてよくわからない。
「とにかく席に戻ってください、今ならまだ……」
「うるせえんだよこの変人が!!ちょうどいい、まずはお前から始末してやろうか!!」
竜人は容赦なく啖呵を切る。
「……そんなことよりあなた、手首になにかついてますよ」
「は、てめえ何を言って……」
竜人は自分の手首を確認する。確かに何かがついている。
「なんだ……こr」
ドカン!!
「ぐっ、ぐああああ!!」
竜人の腕についていたものが突然爆発した。そして竜人の腕は吹き飛ばされる。
「おやおや大丈夫ですか?ってそんなわけないか」
「ぐあっ!!誰かたす、助けて……」
「……そういえばさっき何のためにこんな作業やってるんだとかなんとか言ってましたよねえ、こういうものを作るためなんですよ、ここで作られた部品は竜人を倒すために大いに役に立っていますよ……だから安心して席に戻ってください」
「て、てめえ!!」
竜人はそれでも牛仮面に襲いかかる。
「はあ、やれやれ……ウインド!!」
風の初級魔法……だがその威力は普通のものと訳がちがう竜人は軽々吹っ飛ばされ壁にたたきつけられた。そのまま気を失ったようだ。
「彼を医務室に連れて行って……」
「はい」
竜人はそのまま連れて行かれた。そして何事もなかったように作業は続けられた。
……たしかに頭がおかしくなりそうだ。こんなの毎日やらされるのかよ。いつ終わるかわからない作業をひたすら繰り返す。そして……
「今日はここまでだ!!各自、自分の部屋にもどれ!!」
やっと、やっと終わったのか……僕は疲れ果ててしばらくその場から動けなかった。単調な作業の繰り返しがここまでつらいものだとは思わなかった。これならまだ過酷な肉体労働の方がましだ。生きる意味を失ってしまいそうだ。一生分、いや三生分働いた気分だ。これを……これを毎日……
「おい何ぼけっとしてんだよ、早く部屋に戻るぞ」
「……ああ、わかったよ。」
そして僕は休むそのまま部屋に戻った。外はもうすっかり暗くなっている。もう夜も遅い、明日に備えてもう寝るか……
「なあお前起きてるか……」
眠りにつこうとしたとき、突然同室の竜人に声をかけられた。
「ああ起きてるけど何だよ、俺は疲れてるんだ早く寝させろよ。」
「お前まさかこの監獄でおとなしく一生をすごそうとか考えてるんじゃないだろうな。」
「えっ、いやそれは……」
疲れすぎて忘れるところだった。そうだ僕はここから出ないといけないんだ。
「はあ、今日の労働でわかっただろうここは地獄だ。毎日毎日俺達に単純作業をさせ続ける。この仕事には充実感も喜びもない、ここで働き続けて廃人になったやつは数知れず。」
「……」
「さらにタイミングを見計らって新人達にここで作られているものを兵器だと伝え一気に絶望に追い込むのさ。そうすることで俺らを感情のないでくの坊にするって寸法さ」
「……しかも逆らおうものなら、あの牛仮面が制裁を加えるってわけか、何者なんだあいつ。」
「王国三大魔道士の一人グレンダだよ。」
「あいつが……?」
王国三大魔道士がなんでこんなところに!?
「あいつのせいでこの監獄からの脱獄者は未だにゼロってわけだ。」
「……」
「けどな、俺はやつを倒してここから出ねえといけねえんだ。」
「ああ、そう。」
知らねえよそんなこと……
「……だからよ。俺と手を組まないか?」
……え?今こいつさらっととんでもないこと口走らなかったか?
「……聞こえなかったのか?もう一度言うぞ。俺と手を組んで脱獄しようってんだよ。」
……手を組んで脱獄だと?
「……な、なんで俺にそんなこと頼むんだよ!さっきまで散々嫌み言ってたくせによ!!」
「頭数は多い方がいい、お前みたいなやつでもいないよりましだ。それに、裏切ったときすぐ口封じできそうだからな。」
「……そんな言い方で素直に『はい』って言うと思ってるのか?」
「でも、お前だってここから出たいだろ、だったら協力しろ。」
なんだこいつ強引だな。だが、確かに僕一人ではここから出るのは難しい。能力は引き継がれているとはいえ相手は大国三大魔道士だ。脱獄するのには相当骨が折れるだろう。うまいこと言いくるめてこいつをおとりに使えれば……
「わかったよ仕方ねえから協力してやる。」
「ふん、何だよ最初からそう言えよなめんどくせえな、そういえば名前まだ聞いてなかったな聞かせろよ。」
「名前を聞くときはまず自分から名乗るもんだろ。」
「……ドラネオだ。」
「俺はリドラだ。まあいがみあっても仕方ないし仲良くやってこうぜ。」
「……ふん。」
こうして僕とドラネオとの奇妙な共同生活が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます