第16話 逃亡

「レイラ!!今、声が聞こえたけど近くにいるの?もう一回返事して!!」


 ……生きてる。さっきまでもうろうとしていたのに声がはっきりと聞こえる。胸にナイフは刺さっていない。そして目の前には……見覚えのある金髪の少女が血を流して倒れている。


「レイラ!!どこにいるんですか!!」


 僕は自分の手を確認した。皮膚は人間のものとは思えないうろこのようなものがついている。指は四本しかない。嘘だろ、こんなのってないよ……


「あっ、いた!!レイラこんなところに……レイラ?」


 リアとカンナがこちらにやってきた。まずい……僕は慌てて木陰に身を隠した。


「レイラ!!おい嘘だろレイラ!!」

「レイラ!!しっかりしてください!!」

「死んでる……のか……」

「そんな、嘘でしょ……そんな!!」


 苦痛と悲壮が混ざり合った声が僕の耳に届いてくる。僕は思わず耳を塞ぐ。聞きたくない……二人のそんな声聞きたくない!!


「うっ……うぐ……」


 僕は二人の声に耐えきれずに耐えきれずその場にしゃがみ込んだ。


「……誰!?」

「……!!」


 リアが僕の方に向かったそう言う。動やらしゃがみ込んだときに背中に草木がこすれて音を鳴らしてしまったみたいだ……


 この状況、一体どうすればいい……本当のことを言ったって信じてもらえるはずがない。逃げるんだ……逃げるしかない。僕は考えるより先に足が動いく。どこに逃げればいいのか、これからどうすればいいかなんてわからない。でも、今は逃げる以外のことなんて考えられなかった。


「りゅ、竜人……!?」

「追うぞ……リア。きっとあいつだ。あいつが……レイラを!!」


 何でこうなってしまったんだ……こんなのあっていいはずがない、もう僕は王国軍に戻れないのだろうか、レイラの夢を叶えられないのか、もう……レイラとカンナと一緒にいられないのだろうか……


 いや、こんなこと考えたってどうにもならない、冷静になるんだ。こんな状況でも何かできるはずだ。

 

 その後も僕は逃げ続けた。この竜人は戦闘能力は並み以下だが逃げ足だけは速い……らしいこいつの記憶によると。だが、そのおかげなのかどうにかリアとカンナを巻くことが出来た。


「はあ……はあ……」


 巻くことが出来たのはいい。だが、どこに逃げればいいのかわからない。そのまま時間だけが過ぎていく。足も動かなくなってきた……もう駄目……


「おい、君!!」


 誰かが僕を呼びかける。あれは、竜人……二匹もいる……僕は反射的に身構える。


「君も逃げ遅れたのか!!ここは危険だ。一緒に逃げるぞ!!」


 は?こいつ何言ってるんだ?いや、僕は……そうだ僕は今、竜人なんだ……


「ぼさっとするな!!早くこっちに来い!!」


 そのまま、僕は言われるがままに手を引かれそのまま一緒に逃げることになった。そして、身を隠せそうな洞窟があったのでそこで休むことになった。


「君はどこの隊のものだ?名前は?」

「第三小隊、リドラ……」


 この竜人の名前、つまり今の僕の名前だ。どうやら竜人第三小隊の下っ端らしい。それ以外の特徴は特にない。


 「私はギド、こいつはガドンだ。私達は第二中隊なんだけどさ、その……怪我して逃げ遅れたんだよ。それで目立つから空飛んで逃げるわけにも行かないし途方に暮れてたわけだよ。」

「撤退命令?竜人側が有利だったんじゃ無かったのか?」

「なんだよ。お前知らないのか?もしかして……どこかで気絶でもしてたのか?」


 僕はその問に対して首を縦に振った。


「そっか……そうだったのか。」


 ……確かに戦場に竜人はほとんどいなかった。そして今現在ここ周辺で戦争をしている様子もない。僕が気絶している間に一体何があったんだ?


「たしかに最初はこっちが有利だったんだけど、あの後、大国側に大量の援軍がやって来てね。で、その中に魔幻隊もいてさ……」


 「魔幻隊」現大国三大魔道士最強といわれているフレンが率いる特殊部隊だ。滅多なことじゃなきゃ出撃しない。ゼノスのことを聞いて出てきたのだろうか……それとも、最初からこうなることを想定していたのか……


「魔幻隊が出てきてから状況がかなり悪くなってさ、ゼノス様がなんとかあっちの大将と抗戦してたんだけどそれでも、アランの娘からのダメージも相まって結局撤退したってわけ」

「結構詳しく知ってんだね……」

「近くで見てたからな、いやあ、あれはほんとすごかった。まあ巻き添え食らってこんなことになったんだけどさ。ははは……」

「……」

「とにかく今はここをどう切り抜けるか考えよう、この先の山を越えれば私達の隊のアジトがある。そこになんとかいければ……」


 とにかく今はこいつらについて行くしかなさそうだ。こいつらのアジトに行けば竜人もかなりの数いるはずだ。こんな姿になっても僕の復讐が終わったわけではない。アジトにいったらこいつらを……


「魔道士は、今も逃げ遅れた同士を退治しにまわっているここもいつ見つかるかわからない、少し休んだらすぐにアジトに向かおう」

「……そうですね。」


 すぐにでも向かいたいが今はさすがに疲れた状況も整理したいし休んだ方がいいだろう。


「そういえば、あんたおなかすいてないか?」

「えっ、まあ……」

「腹空かしてたらできることもできないからさ、ほらこれ食いなよ。」


 なんだこれは、木の実なのか……なんかすごいまがまがしい色をしているけど……グラドの実というのか、どうやら竜人の間ではかなり人気の果物らしい、元の世界で言うみかんみたいなものなのだろう。


「い、いただきます。」


 一口食べてみる。見た目に反して甘く、さっぱりしていて美味しい。それになんかやる気がわいてくる気がする。


「やっぱり疲れたときはグラドに限るよな、酒なんか飲むよりもよっぽど元気がでる、そう思うよな!!」

「ま、まあたしかにおいしいですよね……」


 なんていうかこいつ、圧が強いな、なんか。


「おい、ギド、リドラこっちに来てくれ!外に誰かいるぞ」

「あれは、魔道士みたいだな……」


 外には確かに魔道士の姿が見える。……何で僕は魔道士から逃げなくちゃならないんだ。さっきまで彼らは味方だったのに、こうなったのも全てこの能力のせいだ。いや、この能力が無ければ僕は今ここには……


「ここももう危険だ。早く移動したほうがよさそうだ」

「そうだな……リドラ、動けるか?」

「えっ、ああわた、僕ですか」


 さっきまで、僕はレイラだったからその名前で呼ばれるのにどうしても慣れない。


「さっきまで、かなりヘトヘトだったからさ……もし無理そうだったらもう少し休んでいくけど」

「……いや大丈夫です。もう動けます。」

「そうか、あまり無理するんじゃないぞ。」


 まさか、竜人に気を遣われるなんて……なんか複雑な気分だ。


 その後も僕達は、ただただアジトに向かって歩いて行った。アジトまでの道は思っていたよりも遙かに長くそして厳しい、それでも僕は前に進み続ける。全ては……そう全ては……すべては?


「おいもうすぐアジトにつくぞ。これでやっと……いやまて、なにか様子がおかしい……ちょっと先に行って確認してくるから待っててくれ」


 その後十分ほど待ったがギドは帰ってこないさすがに様子がおかしかったので僕らも様子を見に行くことにした。


「おい、いったいどうしたんだ……えっ、なんだよ……これ」


 本来アジトがあるであろう場所にあったのは、瓦礫と竜人のや山だった。竜人は胴体と首が切り離されていて首はまるで見せしめのようにおいてある。その有様は見るに堪えないものだった。


「そんな、皆が、皆が……」


 ギドはショックでうずくまってしまっている。かける言葉も見つからない……いやいや何考えてるんだ僕は、こいつらは竜人だ。同情する必要なんて無いはずだ。でも、なんだろう、このモヤモヤした気持ちは。


「あれ、まだ生きてるやつがいたのかよ」

「だ、誰だ!!」


 人間の男がこちらにやってくる。あの服は魔道士の人間……いやどこか違うような。


「そ、その服装……もしかしてま、魔幻隊の……どうしてここに、これはお前がやったのか!?」


 魔幻隊……こんなとこで、出くわすなんて本当にタイミングが悪い。


「え、うんそうだよ、なんか竜人達、撤退しちゃって暇だったときにちょうどここに向かっていく竜人をみつけてさあ、つけてみたらアジトみたいなのみつけていても立ってもいられなくなって皆殺しにしちゃったわけ!」

「……貴様、貴様あ!!」

「なんで、きれてるんだよ、こんなのお互い様だろうがよ」


 ギドは怒りで完全に我を失ってしまっている


「我が同胞の敵ここで討つ!!」

「おいギド!!よせ!!」


 ギドは魔幻隊の男に斬りかかった。だが、男はそれをひらりとかわした。そして、その数コンマあとにギドの首だけがなぜか吹き飛んでいた。


「そそそ、そんな……」


 ガドンは恐怖のあまり言葉も出ない。


「どうした、次はお前の番だぞ……」


 息もつかせず今度はガドンの首を切り落とした。一瞬の出来事で何がどうなっているのかわからない。


「最後はてめーだよ!!」


そして今度はこっちに……


「アイズ!!」


 僕は間一髪でアイズを発動してよけることができた。やはり転生後も能力は引き継がれるようだ。


「ち、仕留め損なったか。だが、次こそは……」


 魔幻隊の男はもう一度こちらに攻撃しようと態勢を整え……


「おやめなさい!!レンジ!!」

「……!!」


 ……ようとしたが誰かに止められレンジ?と言う男は動きを止める。そして、一人の女性がこちらに現れる。


「ふ、フレン様……」

「……フレン?」


 この女神のように神々しい風貌にりりしい目つきそしてフレン……まさか、王国三大魔道士のフレンか!?


「全く貴方はなんと勝手なことを……戦争はもう終わったのにこんな……」

「で、ですが、こいつらはりゅう……」

「…………」

「す、すみません……」


 さっきの男を威圧だけで黙らせてしまった。これが、王国三大魔道士の……


「そこのあなた。」

「な、なんでしょう……」

「今すぐに能力を解除し降伏しなさい、そうすれば命だけは補償することを約束しましょう。」


 だめだ、僕はここで捕まるるわけにはいかない、なんとか、なんとか切り抜ける方法は……


「……」


 ……無理だ。この人にはゼノスと同じ類いの迫力を感じる。きっと逃げることなどできない……。僕は能力を解除しそのまま降伏した。


「それでは、あなたを連行します。どこに向かうかは……わかっていますね」


 もちろん知っている。魔道士達に捉えられた竜人達が向かう場所……「魔女の胃袋」だ。














 

 



 







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