第10話 休息

 その後カンナが連れてきた先生たちによって僕達は難を逃れた。


「離して……離してよ!!まだ……まだあいつを殺せてない!!あいつを殺さなきゃ……殺さなきゃいけないのに!!」


 ミルは先生に連れて行かれるときも叫び続けていた。彼女がこの後どうなるかは分からないが退学は免れない。おそらく二度と顔を合わせることもないだろう。


「すまなかったね。リア、あなたのことを疑ってしまって……」


 先生がリアへ丁寧に謝罪をする。


「い、いえ……あの状況じゃ私が疑われても無理がなかったですし……別に気にしてないですよ。」

「そうか……そう思ってもらえるなら我々も助かる。」


 そう言って先生は他の先生と共に学校へと戻っていった。


「あの……レイラ」

「どうしたのリア?」

「さっき、言ってたことの意味って……」

「……」


 あのときは感情的になっていたとはいえ余計なことを言ってしまった。


「ああ、あれ、あれはミルを黙らせるために適当なこと言っただけだよ。」

「そう、ですかならいいですけど……」


 ……リアはあの言葉をどう受け止めたのだろうか、あまり気にしないでくれるといいが……

 

「おおい、二人とも大丈夫か!」


 先生たちと一緒に来たカンナがこっちに駆け寄ってきた。


「その様子だと大丈夫そうだな……よかった……」

「ま、まあちょっと危なかった場面もあったけどね……」


 さすがに禁断魔法を使われたときは少しヒヤッとした。あれを撃たれていたらレイラの力を持ってしても無事ではなかっただろう。


「ありがとうございますカンナ。それからレイラも……今日は本当に助かりました。」


 そして、そのまま僕達は寮へ戻った。



 *



そして次の日……


「レイラ、カンナおはようございます。それでなんなんですかお話しって?」


 僕はリアを僕達の部屋へと呼んだ。目的はもちろん……


「ああ、実はさ……呪いの解呪方法についてわかったんだ。」

「……え、ほ、本当ですか!?」

「ああ、本当だ。」


 このとき私はリアにはフレイアイが病気であることはあえて説明しなかった。


「それでどうすれば……どうすれば呪いは解呪出来るんですか!?」

「ちょちょっ!お、落ち着きなってリア……」

「……はっ、す、すみません……」


 リアが興奮してしまうのも無理はない。ずっと苦しめられ続けてきた呪いが解呪されるんだ。きっと僕もこういう反応をしてしまうだろう。


「リア、ちょっと目をつぶって。」

「は、はい!」


 リアは私の言うことを聞き目を閉じる。


「……カンナお願い」

「ああ、分かった。」


 フレイアイを治す方法は簡単だ。少しこつがいるものの普通の回復魔法を応用させれば治せる。そう、リアが何年も悩まされていたものはこの程度のことで治せるのだ。


「はいできたよ。この鏡で自分のを見てみて。」


 そう言って僕はリアに手鏡を手渡した。リアは渡された手鏡をじっと見つめる。そして……


「き、消えてる。紋章が消えてる!!」


 リアの目から涙がこぼれ落ちる。


「なあ、レイラ本当にいいのかこれで?」


 カンナが小声で僕に問う。もし、もしも本当にリアの不幸が呪いのせいであるのならばそれは目の紋章が原因ではなく別にある。リアにフレイアイのことを正直に説明したらそう考えてしまうかもしれない。だからリアの左目を不幸の元凶にしてそれを取り除けばもう呪いのことに縛られずに生きられると考えたからである。


「レイラ本当にありがとう……本当に何てお礼を言ったら……」

「お礼なんて……別にいいよ。」

「でも、私ずっと二人に助けてもらってばっかで、それなのに私なにも出来なかったし……」


 リアは泣きながらそう言う。


「……まあ、それはさ……今すぐじゃなくてもいいんじゃないか?なあレイラ?」

「そうね、いつかリアに助けてもらうときが来るかもだしね。」


 そう、今すぐに恩を返してもらおうとは思わない。こういうことは巡り巡っていつか自分に返ってくるものだ……ってレイラが前に言ってたっけな。


「そう……ですか。」

「それよりさ、せっかく今日は授業が休みなんだからさ、どこかで祝賀会でもしない?リアの呪いが解けた記念に!!」

「祝賀会……ですか?」

「ここの近くの街にさおいしいスイーツがあるカフェが出来たんだって!だから一緒に行きたいなあって……」

「もう、それって、ただカンナがスイーツ食べたいだけでしょ。」

「そ、そんなことないっての!」

「はあ、やれやれ……リアどうする?」


 僕はリアにそう聞く。


「……その店に……」

「……ん?」

「その店にアップルパイはありますか!!」


 リアはすごみのある面持ちでカンナに聞く。


「え、ああまあ……多分あるんじゃないかな?ていうかリア、アップルパイ好きなのか?」

「はい大好きです!!それはもう本当に!!そう、例えるならえーっと、えーっと……とにかくすっごく好きなんですよ!!」


 リアは今まで見たことがないぐらいテンションが上がっている。


「なるほどな……。」

「……ん?」


 カンナは何故か何かを納得している様子だ。


「そのスイーツ愛……気に入ったぞリア!!今日からリアは聖魔道女学園スイーツ同好会No2に任命しよう。」

「よ、よく分かりませんがありがとうございます。カンナ!!」

「よし、それじゃあ善は急げだ!!いくぞ!!」

「はい!!」

「……」





 僕達はそのままカンナが言っていたカフェがある街にたどり着いた。


「ふーん、結構栄えてるんだね。」

「まあ、近くに聖魔道女学園があるからな。学校に通ってるお嬢様達がお金を落としてくれるんだからそりゃ栄えるでしょうよ……まあ、私には関係ない話だけどな。」


 カンナの言うとおり聖魔道女学園はエリート学校なだけあってその生徒は有名な一族の家系や金持ちも多かったりする。


「……」


 私達がそんな話をしているとリアが横目でどこかを見ていた。


「ん?リア何見てるんだ?」

「えっ、ああこの店の動物たちかわいいなって思って。」


 リアが指さす店にいたのは変わった柄模様の蛇やトカゲだった。


「ふ、ふーんリアってこういう動物好きなんだ……」

「えー、かわいいじゃないですか、このうねうねした感じとか奇抜な色とかそれから……」

「ごめん、リア、私にはよくわからないや……」

「私も同じく。」

「えー……なんでですか?」


 さっきのアップルパイのことといいリアにこんな一面があったとは……そういえば、リアのことあまり知らない、付き合いがまだ短いのもあるが、いままでは一緒に呪いのことを調べてばっかだったから……


「あ、もしかして……カンナが言っていたお店ってあれのことですか?」

「お、そうそうあれあれ!」


 リアが指さした方にはいかにも女子が好きそうな雰囲気のカフェが建っていた。


 僕達はカフェの中に入り店員さんに案内されそのまま席に座った。カンナ曰くここのカフェはいつもはかなり混雑しているから、すぐに入ることが出来たのはかなりラッキーだとのことだ。

 



「いやあ、楽しみだなあサクサクのワッフル……」

「ほんと楽しみです熱々のアップルパイ……」


 二人は注文したスイーツが早く来ないかと今か今かと待ちわびている。


「なあこうして待ってるのも退屈だしなんか話そうぜ。ほらガールズトークってやつ。」


 ガールズトークとかいう普段のカンナからは飛び出してこなさそうな単語が飛び出して少しだけ驚いてしまう。


「ガールズトークですか……それってどういう話をすればいいんですか?恥ずかしい話私そういうことしたこと無くって……」

「え、ああ、そうだな……えーっと……」


「レイラどういう話すればいいんだ?」


 僕にふるなよ僕は(元)男だぞ。


「うーん……私にはわからないかな。」

「ちぇえ……なんだよ女子力ねえな……」


 お前が言うな。


「うーんあ、恋バナとかどうだ?」

「私たちの学校、女子校ですよ。」

「……」

「……」

「……」

「で、でもさ!!ほら、実家のほうとかにさ好きな人とかいたんじゃないのリアちゃん。」

「わ、私ですか?」

「なあなあいるんとちゃいまっか?リアちゃんねえ?」

「え、ええ……」


 カンナは親戚のおっさんみたいなウザい絡み方をしてカンナを困らせる。


「い、いませんよ。」

「ええ本当にぃ?」

「ほ、本当ですよ!!」

「ちょっと、カンナ止めなさいよ。リアが嫌がってるじゃん。」

「ええ、だって気になるじゃんか……なあ?」


 まあ確かに……全く気にならないかと言えば嘘になるが……


「そもそもには同い年ぐらいの男の子なんてほとんどいなかったですし……」

「ちぇー、なんだよつまんねえの……」

「……?」

「ん?どうしたレイラ?」

「ねえ、リア。獣谷の里って……もしかして使の?」

「えっ、聖獣使いの一族……ってもしかしてあの?」


 聖獣使いの一族……この国の魔法使いであればその名を誰もが耳にしたことがあるだろう。300年以上前からこの国の繁栄に尽力し今でも王国で第一線級の勢力を誇る超名門の一族だ。聞いた話によると獣谷の里と呼ばれる里で暮らしていると聞いたが……


「あれ言ってませんでしたっけ?私が聖獣使いの一族だってこと?」

「初耳だよ初耳!!ていうことはあれかとか操れたりしちゃうの?」


 300年前に聖獣使いの一族の祖先に当たる人物が使役していたという伝説の獣だ。その祖先とセイレーン・ミラの話は絵本として子供に読み聞かせされている。そういった方面でも聖獣使いの一族は有名なのだ。


「セイレーン・ミラなんてそんな……私なんてまだ、虫一匹操るので精一杯の落ちこぼれですよ……」

「そんな謙遜しなさんな。その虫のおかげで私は助かったんだからさ。もっと自信持ちなさいよ。」

「レイラ……」

 

 リアは少し照れくさそうにしている。


「まあ、それはそれとして本当にいなかったん?好きな人?」

「ま、またその話に戻すんですか……カ、カンナこそ!!実家にす、好きな人とかいなかったんですか!?」

「うーん、いないな!!」

「そ、即答ですか……」

「だって、うちのとこの男衆ってなよなよしたのしかいないんだもん。あれじゃあ私の心を射止めるのは無理だね。」

「ええ……でもそれってなんかずるくないですか?私には好きな人散々聞いておいて!!」

「はっはっは!どうとでもいいなさい!」


 ……カンナの実家の話を聞いて僕はあることを思い出した。


「……そういえば、カンナこの前カンナの実家から手紙届いてたじゃん。」

「あ、ああ……それがどうかしたか?」

「その手紙が確か……名前は忘れたけど男の名前が書いてあってさ。その名前を聞くやいなや速攻で手紙受けとってすぐに開けて読んでたんだけど……その時の顔がなんかいつもと違ってこう乙女の顔だったっていうか……」


 この話をしているとき私はカンナの顔が少し赤くなっていることを視認した。


「……それは興味深いですね。」


 リアはそんなカンナの表情を見てニヤリと口元に笑みを浮かべる。


「ち、ちげーから。あ、あいつとはそういう仲じゃ……」

「でもなんかその日は一日中にやけてたような……」

「へーそうなんですか?」

「だからち、ちが……」

「お待たせしました!アップルパイとワッフルとモンブランでございます。」


 ……タイミングが悪いことに注文したスイーツが私達の元に届く。


「おお、ナイスタイミング!!」

「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」

「はい、よろしいです!!さあ食べよう!!みんな食べよう!!」

「ちょっとまだ話は終わって……」

「レイラ、リア、今日私達はスイーツを食べに来たんだよ。余計なおしゃべりをせずにスイーツを堪能するのがマネーってもんでしょうよ!!」

「……」

「……」

「……ああもう分かった!!おごる!おごるからもうこの話はもう止めてください……お願いします……」

「はあ……やれやれ。」



 













 

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