第6話 呪いの少女

「レイラさん、お疲れ様です!!」


 僕は突然女の子3人から声をかけられた。


「あのさあ、私達同じ1年生だよね……だから『お疲れ様です』っていうのはちょっと気が引けるというか……」

「すみません……、でも私たちレイラさんに憧れているんです」

「ううん、そう言われても……」

「それでは私たち次の授業があるので!レイラさんも頑張ってください!」


 そう言うと彼女たちは名残惜しそうに去って行った。


「レイラさんは相変わらず人気者だねー。うらやましいねー。」

「もう……からかわないでよ、カンナ。」

「ごめん、ごめん、それより、この授業終わったらさ……」


 そのとき後ろから誰かに誰かに声をかけられる。


「あの、すいません、これって……」


 そう言って話しかけてきた子はハンカチを手渡す。そのハンカチは私が持っているものと同じモノだった。


「さっきトイレで落としたのを見かけて……」


 僕はいつもハンカチを入れている制服のスカートのポケットをまさぐってみる。だがポケットにはハンカチはなかった。


「ホントだきづかなかった……拾ってくれてありがとう。」


 僕はそう言うとハンカチを拾ってくれた女の子は何も言わず足早に去ってしまった。


「なんだ、あの子……もしかしてあの子もレイラのファンだったりして」

「馬鹿なこと言ってないで、早く教室にいこ。」


 このこと自体はたいしたことではないのだがハンカチを拾ってくれた女の子……あの子のことがなぜか印象に残っていた。見た目は黒髪でショートカットの普通の女の子だが前髪をなぜか左目が隠れるようにのばしていた。それに顔もなんだか悲しげというかなんというか……





 それから何日か経ったある日のことだった。本を借りるために図書室へ向かった。


「ちょっとここいつも私たちが使ってる席なんだけど。」

「ごめんなさい……」

「……あれ?あの子は……」


 図書室に着くと僕はハンカチを拾ってくれた子が二人の女子生徒に絡まれているのを目撃した。



「ん?あんたもしかして噂の『呪いの少女』じゃない!!」

「うわ、本当だわ汚らわしい!!」


 呪いの少女……?なんかどこかで聞いたような……


「全く何でこんなのが学園にいるのやら……」

「なんか噂だとこいつの一族が学園とズブズブらしいよ。」

「うわやだ。いやらし!!」


 明らかに目隠れの子に聞こえるように女子生徒二人は話している。僕はその様子を見て若干イラッとした。


「……」

「……なによその目は何か言いたそうね?」

「……」


 女子生徒の一人は目隠れの子を煽るが目隠れの子はそれに動じていない。


「気持ち悪いな……言いたいことがあるなら言いなさいよ!!」

「きゃっ!!」


 女子生徒の一人は業を煮やしたのか目隠れの子の胸ぐらをつかみそのまま床へとたたきつけた。


「あ、あいつら……」


 僕は堪忍袋の緒が切れ二人の女子生徒がいる方へ行き怒鳴りつける。


「止めなさいよあんた達!!」

「あ、あんたはたしか学年一位のレイラ……あんたには関係ないことでしょ!!」

「関係あるとかないとかそんなの関係ない!!」

「なによ学年一位だからって偉そうに……」


 僕達が言い争いをしていると図書室の事務員の人が騒ぎを聞きつけてやってきた。


「ちょっと一体何が会ったんですか?」

「な、何でもないですよ……もう行こ。」

「う、うん……。」


 そう言うと隠れ目の子に絡んでいた女子生徒二人は足早に去って行った。


「大丈夫だった?」

「大丈夫です。なれてますから……あの人達はああやって、私にあたってストレスを発散してるんです。」


 確かにここは名門校なだけあってそういう生徒がいても何ら不思議ではない。


「でも、あなたさっき床にたたきつけられたじゃない。ちょっと足見せて。」


 そう言って僕は隠れ目の女の子の足を見る。


「やっぱり怪我してる……ちょっとじっとしてて。」


 僕は回復魔法を使い隠れ目の女の子の足を治す。実はレイラは回復魔法はそこまで得意ではないがこれぐらいなら大丈夫だろう。


「はい、これでもう大丈夫。」

「な、何から何までありがとうございます。」

「いいのよそんなお礼なんて……私がもう少し早く助けに行っていればあなたは怪我しなかったし……」


 もしこの場にいるのがレイラだったらきっとすぐに助けに行っただろうが……ここにいるのは杉浦終夜だ。僕は……杉浦終夜は厄介ごとには首を突っ込まない。例えその人がどんなにひどい目に遭っていても……


「……もし、また何か困ったことがあったら私に言ってね。」

「ありがとうございます。でも大丈夫です。あなたにこれ以上迷惑をかけるわけにもいかないですし……」

「迷惑だなんてそんなことないよ……困ったときはお互い様でしょ。」

「……でも、私の……私の呪いのせいでもしあなたに何かあったら……」


 呪い……


「ねえ、もしよかったら、その呪いについて私に話してくれないかな?」

「え、でも……」

「実は私も色々あってその……呪いのこととか調べててさ。もしかしたら何か役に立てるかも知れないから……」

「……」


 彼女は少し悩んでいたが、少しして私に返答する。


「……分かりました。でもここじゃなんなんで場所を移動しても構わないですか?」

「うん、そうだねええっと……そういえば、お互い名前知らないよね、私の名前はレイラあなたの名前は?」

「……リアです。」

「リア、よろしくね。」


 *



 僕達は普段私達が寝泊まりしている学校内の寄宿舎、その三階にある。リアの部屋へと向かった。


「一人部屋なんだね……」


 本来一年生は基本二人部屋だが彼女の部屋にはベッドが一つしか無かった。


「事情が事情なので、学校側のご厚意で一人部屋にしてもらったんです、その、レイラさん……」

「レイラでいいよ。」

「……レイラ、これを見てもらえますか。」


 リアは左目を隠している前髪をたくし上げる。


「こ、これは……」


 思わず声が出てしまった。その左目には何かの紋章のようなものが浮かび上がっていたのだ。


「これが私が呪いの少女って呼ばれている理由です。」

「これは……固有能力なの?」

「よく……わからないんです。でも、目がこんな風になってから、私の身の回りでふ、不幸なことが……」


 リアの声が震えている。


「不幸なことって……」


 私は恐る恐る聞いてみる。


「母が……私のお母さんが突然病気で死んじゃったんです……その後にお父さんも竜人に殺されちゃって、そしてお姉ちゃんも……」


 リアの目から涙がこぼれ落ちる。


「こんなことが続いて次第に周りから呪いの少女って呼ばれるようになってしまったんです……」

「そうだったんだ……ごめんなさい、つらいこと思い出させちゃって……」

「……助けてくれたことには感謝しています。でも、私にはあまり関わらないでください、レイラにもしものことがあったら私は……」


 こんな時なんて言ったらいいのだろう……同情しているように振る舞えばいいのだろうか、リアの言うことを素直に受け入れればいいのだろうか。僕には……『杉浦終夜』にはわからない、でもレイラならきっと……きっとこう言うだろう。


「大丈夫よ呪いなんて、私を誰だと思ってるのよ、天才魔法使いのレイラさんよ!そんな呪いなんてわたしの手にかかればちょちょいのちょいよ」

「で、でも、いままでもいろんな魔法使いに頼んでも、紋章は消えなかったんですよ……」

「それはみんな、私ほどの魔法使いじゃなかったってだけの話よ!だから、大丈夫私に任せて!ね?」

「……!!」


 リアは少し驚いた様子だった。レイラは本来自分の実力を鼻にかけるような人間ではない。だが、困っている相手を安心させるためにわざとこんな風に言うのだ。


 『リオン』が小さかったころレイラと遊んでいたとき、少し高いところから落ちてしまった。そのとき足を挫いてしまい、あまりの痛さで泣いてしまった。そのときレイラは『私は天才魔法少女よこんな怪我すぐに治してあげる!』といいリオンを安心させていた。まあその後本当に怪我を治してしまうのだが……


 これも実際に経験したことではない、リオンの記憶だ。杉浦終夜のものではない。でも、自分の記憶じゃないのに思い出すととても温かい気持ちになる。





 リアの部屋を出た後、僕はすぐに図書室に向かった、呪いについて調べるためだ。図書室には膨大な数の本がある。きっとこの中に呪いを解く鍵が何かあるはずだ。


「よお!レイラなんか本探してるの?」


 カンナに話しかけられる。


「あ!カンナ……」

「ん?これって……呪いに関する書物じゃん。しかもこれ私達が習うところじゃないよね。」

「え、ああうん……」

「ねえ、どうしてそんなの調べてるの?」

「え、ええっと……」


 どうしようここは嘘を言ってごまかそうか……でも、カンナは意外と勘が鋭いから安易な嘘はすぐにばれてしまう。


「じ、実はね……」


 僕は正直にカンナにさっきのことを話すことにした。


「なるほど、その女の子の目が呪われているから助けたいと……」


 カンナにはその女の子が前にハンカチを拾ってくれた子だとは言わないでおいた。ミナもあまり自分の目が呪われていることを知られたくないとおもったからだ。


「もしかしてその子ってこの前レイラのハンカチを拾ってくれた子?」


 ……ばれてしまった。


「な、なんでわかったの!!」

「え!ほんとにそうなの!!いや、あの子なんか片目隠してたし、もしかしたらって思ったんだけど……」


 ……墓穴を掘ってしまった。リアに申し訳ない。


「にしても、その子と別に仲がいいわけじゃないんだろ、その子を助けるためにわざわざ図書室の膨大な本の中から手がかりを探そうだなんて……ほんとレイラらしいというかなんというか……」


 レイラらしいか……恐らく『杉浦終夜』だったらこんなことしていない。きっとこの行動はレイラの性格が反映されているのだろう。


「そういうことなら、私も手伝うとしますか」

「え、ホントに!?」

「何言ってんの、手伝ってほしかったから本当のこと言ったんでしょ、そんなことお見通しよ」

「カンナ……」

「そのかわり、今度の昼食のワッフル、私にちょうだい♪」


 その後、リアにカンナのことを説明し3人で呪いを解く手がかりを探すことになった。僕達は毎日暇さえあれば図書館へ向かった。だが、手がかりは一向に見つからない。そして何もわからないまま時だけが過ぎていき……
































 











 






 















 






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