第3話 最低最悪

 自分たちが普段見慣れている場所が地獄へ変わっている。そんな経験をしたことがあるだろうか?僕は経験している今この場所で……


 「嘘、なに、これ……」


 眼前に広がるのは火の海と化した村、飛び回る大量の機竜、そして……


「おや、ようやくお帰りですか?」


 そう村の入り口の前でそう訪ねてくるのは竜の顔をし、うろこの皮膚をまとった人間、間違いない竜人だ。


「あなたが……あなたがこの村を火の海にしたの!?」

「自己紹介がまだでしたね、私は『ドラネア』機竜小隊の四番隊長をしております。好きな食べ物はガラ豚の肉で趣味は……」

「質問に答えて!!」

「……答えるもなにもそれ以外考えられないでしょ普通。」


 


「メガサンダー!」


 俺は大量の魔力を消費して魔法を放つ。だが、その攻撃を竜人は余裕の表情でその攻撃をよける。


「おっと!いきなり攻撃してくるなんてひどいじゃないですか。」




「まあこの村の魔法使いにしてはできるほうですかな、それにしてもこの村の魔法使いはレベルが低い、この程度の数の機竜に苦戦するなんて、まあそれだけ平和だったっということでしょうか」


 そのとき、どこからともなく誰かが空からやってくる。


「おい、何ちんたらやってんだ兄貴!」


 もう一人、いやもう一匹来やがった。


「おやおや弟よ、私はいま挨拶をしているのです。挨拶は必要最低限の礼儀、相手が誰であろうと絶対にすべきことだ」

「そんなんだからいつまでも小隊長止まりなんだよてめーは」

「小隊長にすらなれないお前がなにをいっているのだ」


 何、兄弟げんかなんてしてやがる、なめてるのかこいつらは!!


「メガサンダー!」



 俺は油断している竜人どもにもう一度メガサンダーを放つ。……だが、またよけられた。隙だらけのはずなのに全然当たらない、すごい反射神経だ……いやそれとも僕の魔法が弱いからなのか……?


「おやおやここにも礼儀知らずが一人、まあいいでしょう。」

「本日はレイラ殿に用があって参りました。」

「わたしに……?」

「英雄アランの娘レイラ、あなたはこの先の我々にとって邪魔な存在、ここで住んでいる村ごと消滅させろと命令を受けたのです」


 兄のほうの竜人「ドラネア」は聞いてもいないのにべらべらとしゃべり出した。


「兄貴、余計なことまでいってんじゃねーよ」

「黙れ!本当は留守のときに村を襲うのだって億劫だったんだぞ、そのうえ何も説明せずに殺すなど私にはできない……」


 レイラを殺す?そのために村にまで火を放ったのか?いかれてる……


「……リオン」


 レイラは耳元でぼそっと俺に話す。


「合図したら村まで走るよ」

「え?合図?」

「おい!何ぼそぼそ話してんだてめえら」


 弟の方の竜人がそう言ったその瞬間レイラは魔法杖を取り出す。そして杖のさきに光の魔力集めて相手に向かって一気に放った


「シャイン!」


 二匹は思わず目をつぶる。その瞬間、僕らは無我夢中で走り出す。村の中心までついた。村の様子は想像以上にひどかった。ほとんどの家が燃えている。村の人は避難ただろうか?


「私は機竜を倒しにいくリオンは避難できなかったひとを助けて!」

「あの数の機竜を!?いくらなんでも無茶だろ!僕もいく!」

「ダメよ!だってまだリオンじゃ……」


 レイラは言いよどんだが、俺はレイラが言わんとしていたことを理解できた。


「足手まとい……ってことか。」

「違うそういう訳じゃ……」

「いいんだ、自分が一番わかってるから……」


 そう、そんなこと俺自身が一番分かっているんだ……


「信じていいんだな。」

「……うん。」

「絶対に死ぬんじゃねーぞ」


 レイラは機竜達を倒しに、僕は村人の救助に向かった。逃げ遅れている人がかなり多く村にいる魔法使いだけでは困難のようだった。それでも一時間以上かけ救助できる人はなんとか救助した。


「だ、誰か助けてくれー!!!」


 突然誰かの悲鳴が聞こえる。もうほとんどの人を救助したのに……急いで悲鳴が聞こえた場所に向かっていった。そこにいたのは村の魔法使いとさっきいた竜人の弟だった。


「た、たすけ、ぐあー!!!」


 目の前で魔法使いが殺された。あまりの衝撃に震えが止まらない。


「あ、てめーはさっきの」

「もう一匹はどうした……」

「兄貴?兄貴はあの女魔法使いを殺しに……いや、何でてめーに教えなきゃ何ねーんだよ!」


 まずい、機竜との連戦のあとであの竜人と……


「何だよ助けにいきたいのか?まあ無駄だと思うぜ、兄貴はあんな性格だが強さは竜人の中でもトップクラス、天才魔法少女様も今頃は細切れになってるだろうぜ」


 レイラはそんなにやわじゃない。まだ戦っているはずだ。だが、そんなやつ相手じゃさすがのレイラも……


「まあおまえもここで殺されるんだけどなあ!!」


 突然剣で斬りかかってくる。すぐに反応し防御魔法を展開した。


「おっと!!いい反応速度じゃねーか、でもよー」


 その瞬間、展開した防御魔法を壊された。そしてまた剣で斬りかかる。胴体を少しかすってしまった。


「肝心の魔法が弱いんじゃ意味ねーんだけどなー!」


 次から次へと攻撃が飛んでくる僕の防御魔法じゃ防ぎきれない。


「はなしになんねー、とっとと終わりにするか」


 このままじゃまずい、そう思ったそのとき、自分の指から何か出ていることに気づいた。これはなんだ?糸か?それを相手の腕に巻き付ける。


「うお!なんだこれ!」


 これは魔法……いや特殊能力か!?このタイミングで発動するなんてついてるぞ!!僕は巻き付けた糸を思いっきり引っ張った。竜人はよろける。


「うお!?」


 ……チャンスは今しかない!!


「メガサンダー!」



 直撃した。竜人はピクリとも動かない。どうやら気絶しているようだ。すぐに糸を使って竜人を縛り身動きがとれないようにする。そしてすぐにレイラのもとにむかった。道中で機竜の残骸を何回か見た。機竜が空を飛んでいる様子はない。この数の機竜を一人で倒したのか……


『ドゴーン!!』

「……!!」


 突如大きな音が村中に響き渡る。俺は音の鳴る方を見る。これは、イナズマか!『イナズマ』は最上級の雷魔法だ。きっとレイラに違いない。僕は音の鳴る方に向かって走った。走った先に立っていたのはボロボロになっているレイラだった。


「はあはあ……何が『礼儀』よ。汚い手使っちゃってさあ。」

「暗殺や不意打ちは好みませんが1対1の勝負の時はどんな手でも使う。使える手があるのにそれを使わないのは失礼と考えているのでね」

「私が言いたいのは機竜と連戦させた後に1対1を挑むのが汚いってことよ」

「……私だって本当でしたら最初にお会いしたときに勝負したかったのですよ、まさか、私から逃げおおせ、さらに機竜を倒してしまうとは想定外でした。本当なら日を改めて勝負したかったのですが、私も仕事ですので」



 僕は糸の能力を使うタイミングを伺っていた。チャンスは1度しかない。慎重に見極めなければ……


「紅蓮覇斬!」


 ドラネアの大技がレイラに炸裂した。レイラはなんとか防御魔法を繰り出すが防ぎきれない。レイラそのまま倒れてしまう。


「これで終わりです!!」


 まずい!!ドラネアがとどめを刺そうとしている。僕は思わず飛び出してしまった。そして糸の能力を使ってドラネアの動きを封じることができた。


「うっ!あなたはさっきの……くそなんだこの糸は!!」


 やった!やったぞ!このままもう片方の手でメガサンダーをお見舞いしてやる!僕は勝ちを確信した……その時だった。ドラネアが口から何かを飛ばしてきた。


「ぐっ!」


 思わず手でガードしてしまった。これは針か?ダメージはたいしたことはない。このままメガサンダーを……あれ、か、体が動かない。それにひどい目まいもする。そのまま僕は倒れこんでしまった。


「これは猛毒の針だ。あなたはあと数分で死ぬ。」


 猛毒?死ぬ?状況が全く理解できない。


「彼女を救うために果敢に挑んだことは賞賛に値しますが、詰めが甘いですな。まさかこの程度の能力で私に勝てるとでも思ったのですか?」


 拘束が解かれてしまった。このままではまずい。そうわかっていても体が動かない。


「この毒は私たち竜人には無害ですが、人間が食らえば助かる方法はない。苦しみながら死ぬでしょう。ですが、私に奥の手を使わせてた尊敬の意を込めて、今すぐに楽にしてあげますよ。」


 動かなければ、動かなければやられてしまう……


 ドラネアが一歩ずつ距離を詰めてくる。


「あんた、リオンになにをしたの……」


 その声を聞きドラネアが足を止めた。


「あなた、まさかあの攻撃を受けて立っていられるなど……」

「リオンに何をしたって聞いてるのよ!!!」


 そう言うとレイラは詠唱をし始める。聞き覚えのない詠唱だ。


「あなたこの詠唱はまさか禁断魔法の……」


 レイラは詠唱をし終える。そして……


「……クロスゲイザー」


 そうつぶやいた瞬間、ドラネアの足下から光の柱がそびえたった。その中でドラネアは苦しみ出す。悲鳴が聞こえる。やがて何も聞こえなくなると光の柱は消えた。残っていたのはドラネアの死体だけだった。


「リオン、リオン!!」


 レイラは僕の方へ向かって走り出した。レイラは傷だらけだった。ドラネアから受けた傷だけではない。さっきの禁断魔法、その代償と思われるやけどもあった。


「ねえリオンしっかりして、今すぐに治してあげるからねっ、ね!」


 レイラは必死に回復魔法をかけてくれている。だが、意識はもうろうしたままだ。このまま死んでしまうのだろうか?ならせめて僕の気持ちを……



「あ、あ……」

「大丈夫、大丈夫よ私を誰だと思ってるの……だから、ねっ!!大丈夫だから……」


 声が出ない、死ぬときですら自分の思いを伝えられないのか……まずいもう意識が……


「リオン、返事して、返事してよ……ねえ!!」


 レイラは必死に呼びかける。だが、俺はそれに応えることが出来ない。応えたいのに彼女を安心させたいのに……彼女の絶望した顔なんて見たくないのに……


「神様、神様お願いいます。私の命なんてどうなっても構いませんだからリオンを、私の大切な、たいせつな……」


 その彼女の言葉を最後に俺の意識は意識は……途切れる。




 目が覚めると僕はベッドの上にいた。


「あっ、よかった目を覚ました。」


 この人は隣の町にある病院の医者か……とりあえず僕は助かったらしい本当によかっ……


「……!!」


 その時僕はとてつもない違和感を感じた。口では説明できない……だが何かがおかしい。今までに感じたことがな……いや前にどこかで経験したような……


「……」


 僕は自分の腕を見てみる。僕の腕はこんなに細かっただろうか?僕は自分の手を見た。僕の手はこんなに白く小さかっただろうか?


 僕はベッドから飛び降りた。そして走り出す。医者は必死に止める。だけど、そんなこと知ったことか。僕は確認しなければならない。僕は外に出た。水たまりを見つけた。あの後雨でも降ったのだろうか。いやそんなこともどうでもいい。


 僕は水たまりをのぞき込んだ。そこに映っていたのは……


「う、嘘だろ……こんなことって」


 水たまりに映っていたのは俺の……リオンの顔じゃない。「」だ。レイラの姿だ。僕は混乱した。訳がわからない。


「ちょっと何してるんですか安静にしなきゃだめでしょ!!」


 看護婦の人だ。僕はこの人に聞かなければならないことがある。


「リオンは……リオンはどこに……」


 何故僕はそんなことを聞いている。リオンは僕だ。僕のはずなんだ!!


「リオン……ああ、あのもう一人の……リオンさんはその、残念ながら……」


 僕はそれを聞いて何も考えられず、自然と涙が出る一体何が……何が起きて……


『無限転生』

 自身が死亡した時に近くの人間の魂を喰らい体を自分のものにする。最低最悪な僕の能力。














 


















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