第2話 異世界なのか。
仄かな菊の香りにくすぐられて意識が戻る。
そこはむーんとする夏の空気とミンミン蝉の声に溢れていた。
視線を動かすとある少年が眼下に見える。
よく見ると、、あれは自分じゃないか。
何で自分の姿を眺めているんだ。
しかもあれは小学生の頃の自分。
階段から転がり落ちる記憶は鮮明に頭にある。
そうかこれが死んだと言う事か。
でも天国地獄、異世界、ただの無とか様々聞き及んだ世界とは違う感じ。
何というか過去に戻って小学生の自分を眺めている。
そうか走馬灯、記憶の回想中なのか。
死ぬ間際に巡り来る記憶の回想。
でも坦々と小学生の自分を眺めているだけの状況。
ちょっと変だな〜。
良い時を思い出すとの話だから良い時代の場面なんだろう。
またあれやこれやと頭の中で考えている。
死んでも癖は治らないのか。
いや、ちょっと待てよ。
分かる。
ラウンドビューの様に見下ろしている少年自分の思っている事が分かる。
知覚できる!今ラウンドビュー視点に映る自分の考えが。。。
そう思った瞬間だった。
上から視点して眺めていた小学校二年生の自分に<ふっー>と
同化して小学生の中に着地する。
#まるで憑依だ!#
この日の小学二年の自分は、夏休みで親父に近所の山にクワガタムシ採りに
連れて行ってと頼むのに必死な状況だった。
大親友である“一法師君”に、クワガタムシ採りに親父が連れて行ってくれる
からと、既に約束していたから…。
ごねてたら、お袋が「早よ、車に乗らんね」と助け舟を出してくれた。
外では、親父が車のエンジン吹かせて待っていた。
ぶっきら棒で仕事をよくサボる親父だけれど、このような子供的なお願いは
お袋の陰からの口添えが強力にあるにしてもよく聞いてくれる。
実は内心は、自慢の親父なんだ…。
車で、“一法師君”ちに寄って拾って行く。
さあ、向かう山は、不動岩と呼ばれる山。
遠望すると山の中腹上寄りに、20階建てのビルに匹敵する実測80mの巨大
な人面岩が突っ立つように鎮座する。
見た目、神秘的な雰囲気漂う神話の頃よりそこにある圧倒的存在。
岩成分は太古に海底で変斑糲岩が積もり圧縮し、それが地殻変動で隆起した。
言うなれば、君が代にある、さざれ石の巨大な塊となる。
山の裾野から中腹までは、ミカン畑が続く開墾された長閑な山裾。
クネクネと、蛇のとぐろのような道を車は不動岩の巨岩への入口近くの駐車
スペースまで登っていく。
蛇行する道は、コンクリートのブロックを置き並べたような作りでその連結
部分に接合のための生ゴムが敷設されておりその上を車が通る度に
<ボコンボコン>とバウンドする。
#少し酔いそう。。。#
覚えている!この時
[この瞬間を憶えようと思ったのを覚えている。
小さな軽を運転する親父の真剣な横顔を憶えているだろうと心に強く思った事]
着いた!
標高389m鹿本平野が一望でき家々がマッチ箱に見える高さ。
お目当てのクワガタムシが集まるクヌギ林は、不動岩が鎮座する祠へと続く森の中
の秘密の場所にある。
必ずそのクヌギの木には、クワガタ、もしかしたらミヤマクワガタが居る。
ただし裏側には恐ろしいダゴ蜂のおまけが付いている場合がある。
クワガタは、夕方涼しくなると、クヌギの蜜を吸いにお出ましになる!
親父を急かしていたのはこのゴールデンタイムに間に合うため。
親父は、車に残るから一法師君と二人で車から飛び出し秘密のクヌギの木に向かう。
もう大漁は確約。。。の筈が!
なんと、クヌギの木の蜜の穴に、焼け焦げた硝煙の黄色い痕跡。。。
火薬の後だ!
やられた、誰かに秘密が露呈してそして先を越された。。。
乱暴な輩の仕業だ、クヌギの木の穴に隠れているクワガタを強引に引っ張り出そうと
穴を大きくするために2B弾を使った乱暴な手口。
クヌギの木の明日なんて関係なしの連中の仕業だ。
一法師君も憤慨している。
まだ夕暮れ迄には時間がある、仕方ない。。。
ここは諦めて新たなクヌギの木を二手分かれて探すことにした。
一法師君は森の下側、
僕は不動岩がそびえる山の上側へと続く小道へと分かれた。
森の中を細くクネクネ小道が、巨大な人面岩のある真下へと続く、小道の終わりに
森も終わり視界がバーーンと広がる。
ゴツゴツした岩肌に覆われて、グーッと顔を九十度反らして仰ぎ見ても
見渡せない不動岩の巨大な人面が生首として鎮座する。
生首であるを物語る一面の土は赤土で真っ赤。
岩肌は太古に積もった変斑糲岩が、さざれ石と成りし神話の国日本ならではの伝説の
場所。
こんな人が通りそうな道沿いには、新たな秘密の場所は見つけられないやと不動岩の
首元にある不動明王の祠にお賽置いて、不動岩にもクワガタ見つかりますようにと話
しかける小二の僕。
「コチラヘ」と、そびえる不動岩が腹話術みたいに応こたえた。
いやそう聴こえた気がする。
耳の奥に<キーン>と高周波な音が聴こえ始める。
ここまでがあまりにも現世と同じようなリアリティライクな進行速度と、物理法則、
常識的な規範を守った流れで進むので…。
死後の世界らしくないと思っていた所だった。
でもコチラヘと招く先は、今来た小道と不動岩の祠を真ん中に反対側にポッカリと
トンネルのように暗い森に誘う入口。
<どわーッ>と、息が出来ない程の強い風に吹きつけられる。
まるで突風だ!
ちょっと森に入って見る。
今来た小道と同じく、森の中を小道が続く森の密度が濃いのか、かなり薄暗い。
下に向かう下り道だな。
その先は前に探検してるから知っている。
昔、修験者が修行の場とした大きな広場を伴った大きな社屋がある場所に通じてい
る筈。
でも日暮れが近いからか、森は抜けたけど広場も薄暗い…。
風は未だに肌に強く当たる。
何処から吹き込んでいでいるのか人差し指をちゅぽっと口に含んだ後に指を立てる。
指が冷んやりする方向を頼りに歩み進めると。。。見つけた!
風は岩清水が湧く大きな岩の裂け目のような洞穴から、<ゴーっ>と吹き出ていた。
覗き込むと、岩清水が流れる道となる小川が奥へと続く。
三途の川のような小石を積み上げたものが至る所にあって、洞窟の縁には蝋燭が灯っ
ているような姿をしたキノコ?が群生して異様な雰囲気を醸し出している。
[後で知った:キノコ類の名称はキツネノロウソクだったかな]
風の音はピタリと止み。
強い風圧は肌に感じるも、警告音キーンが耳の中に木霊して響きまくっている。
それはココから。。。ココから聞こえていたのか!
と、小学生の我が身の夢姿の中に居る現世の僕が呟く。
記憶の再構成とは違う存在を自分の記憶の扉の中に感じた。
ちょっと、身震いする…。
さて、入るか。
岩の裂け目に、ゴロゴロした足下をホイホイと小学二年の小さな身体でジャンプ
しながら中に入る。
木の根やらが、突き出ている洞窟内そのずっと先に人の姿が朧気に見える。
もっと奥へと進む。。
菊の残り香が、その奥からこっちだと漂い誘ってくるから…。
もう僕なのか、少年僕なのか混沌として来た。
同化して来てるのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます