50話 僕の夏はお終い。

 爽やかな風が冷たさを帯びている。大きなもこもこした入道雲はいつのまにか居なくなって、うろこ雲が空を埋めている。あんなに五月蠅うるさかった蝉のしゃらしゃらした音はどこへやら。


 花火も祭りも行けないままで、僕の夏は終わってしまう。


 陰鬱な朝。アルミサッシに区切られた色の無い空。窮屈な制服。終わらないマンネリの日常。八月三十一日の向こう側に残した、コップ一杯分の後悔。


 うだるような暑さが、今は少し恋しかったりして。なにも感じていなかったりもする。


 定められた時間を過ごしては、何処かへ、こころの底から楽しめるような、そんな何処かへ行きたいと望んで。もう一度、色の無い空を見上げても、なにも変わりゃあしない。


 時間だけが流れていく。縛られるように、引き摺られるように、僕はただ歩き続ける。その道の先に何があるかなんて分からないまま。



 旅に行こうかな。


「勝手について行こうかな」


 何処にも行けなかったね。


「旅の計画たくさんできたね」


 夏が終わるね。


「秋が始まるよ」



 爽やかな風がひんやりと吹き抜けていく。鮮やかな空にはうろこ雲が浮かんでいる。夕陽の赤に色移りする木々に、秋の足音。


 淋しさのくゆる朝は、いつのまにか秋の始まりに弾む。深い藤色の空。半年ぶりの濃紺のセーター。コップ一杯の微炭酸を飲み干して、僕のこころは秋色に染まる。


 夏の面影は、一抹の淋しさはまだ消えない。


 それでも日に日に、今日が明日が時間の流れが、輝いて見える。


 僕の隣で君が笑うから。


 沈んだこころが自然と上を向く。


 夏の終わりは秋の始まり。


 終わらない日常が、当たり前に見せかけた幸せならば。


 きっとまた歩いていける。



 ***


 祝・50話ということで、最近僕がずっと感じていたものをそのまま書いてみました。面白い話でなくてすみません。


 いつもありがとうございます。


 二〇二〇年十月二日 時瀬青松

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