第31話 捜索

「聖女が行方不明?」


 工房に駆け込んできたイレーネからの報告に、僕は首を傾げた。


「いつから?」

「一昨日の夜からです。昨日教会の方が騒がしかったので部下に調べさせたのですが、聖女が出かけたっきり帰ってきていないとのことでした」

「聖女には監視なんかつけてなかったよね?」

「はい、申し訳ございません」

「いや別に責めているわけじゃないよ。ただでさえ人手不足だったし。でも今更聖女を狙う輩がいたとは、いったい何が起こっているのやら」


 正直この段階ではもう聖女の役割なんてあまりない。


 だからこそ聖女は放置していた。

 わざわざ彼女に危害を加える存在などいないと考えたからだ。


 しかし実際問題、聖女が行方不明になっている。


 僕の予想は見事に外れた。


「いかがいたしましょう、ルイ様」

「とりあえず彼女の居場所を突き止めないと。かき集められるだけ人員を集めて彼女の捜索をするんだ。いいね?」

「はっ!」

「まず街から出ていないかどうかを調べて。あの街は城塞都市だから城門からしか出られない。門番に接触すればすぐにわかるはずだ。調べたら僕に報告して」

「はっ!すぐに確認してまいります」


 イレーネが駆け出す。


 その背中を見送りながら、僕はため息をついた。


 まったく、今回の救済は次から次へと問題が出てくる。


 せっかく勇者の武器づくりが順調に進んでいたというのに、これでまた僕のスケジュールは火の車だ。


 しかし嘆いてばかりいても仕方がない。


 今は少しでも自分の仕事を進めておくべきだ。


 そう思って僕は目の前にある“剣”に視線を移す。


 一見するとその剣はすでに完成しているように見えるが、実際はまだ工程の半分も終わっていない状態だった。


 このままだとこの剣は、竜の牙から作ったちょっと頑丈で切れ味がいいだけの剣だ。


 そんなもの、魔王戦ではクソの役にも立たない。


 この剣で勇者を強化するためには、僕がこの器に魔法を刻印する必要があった。


 そしてそれには結構時間がかかる。


 勇者が帰還するまでおそらく最低でも三日。

 それまでに僕はこの剣を完成させ、なおかつ聖女も救わなければならない。


 なんとも無茶な話である。


「はああ・・・」


 ため息を吐きながら、僕は天を見上げるのであった。


―――――


 それから一時間後、色々と情報が集まりだしていた。


 まず聖女は街から出ていない。

 僕の部下がこの街にあるすべての城門を回って調べたが、それらしき人物が門を通過したという痕跡はなかったらしい。


 そして聖女がいなくなった理由、これも案外簡単に判明した。

 教会を監視していたものによると、司祭が手紙のことをしきりと気にしていたことを報告してきたのだ。

 詳しく調べてみると、一昨日の日中に冒険者らしきものが教会を訪れ聖女に手紙を渡したそうな。


 十中八九、それが原因だ。


 しかし肝心のその手紙は見つからなかった。

 おそらく聖女が持って行ってしまったと考えるのが自然だろう。

 行き先の地図でも書いてあったのかな?


 まあ手紙の内容はともかく、これで事件の全容はだいたい掴めた。

 要は聖女が呼び出されて、のこのこ出ていったら攫われてしまったということで相違あるまい。


 またなんか勝手に思いつめて暴走でもしたか。


 確かに僕も気にするなの一点張りで、取り合おうとはしなかったが、こんなことに発展するとは思わなかった。


 困ったものである。


 しかし起きてしまったことをうだうだ引きずっていても仕方がない。

 大切なのはこれからどうするかということだ。


 とりあえず勇者が帰ってくる前に事態を収拾して、彼が余計なことに時間をとられることがないようにしなければならない。


 なぜなら魔王軍幹部全滅後は時間との勝負だからだ。


 幹部をすべて倒して魔王城の結界が壊れたとき、魔王軍の進軍が最も活発になる。

 要は死に物狂いで魔王軍が攻めてくるのだ。


 よって結界破壊後は素早く勇者を魔王城へと送り込み、魔王を討伐させる必要がある。

 ここでもたつけば、人の領域を食い荒らされ、手遅れになることだって考えられる。


 そうなれば世界が救済されたとは言えなくなるだろう。

 魔王を倒して帰ってきたら、人類が勇者しか残っていなかったなんてことになったら笑えない。


 だからなんとしても勇者が帰ってくる前に事件を解決する。


 そのためにするべきこととは何か。


 兎にも角にも聖女を見つけなければ。


 敵が何者かなどこの際どうでもいい。

 心当たりがないわけではないが気にするだけ無駄である。

 すでに敵対しているなら排除するまで。


「ふう、仕方ない。人海戦術だ」


 隣に控えていたスッチーが顔を上げる。


「必要最低限の人員だけ残して、それ以外は一旦ここに集合だ」

「はっ!」


 本当はこの戦法を使いたくない。

 なぜなら他の作業が止まるから、あとで大変だから。

 しかし優先度的にはやるしかない。


 僕の号令を受けてから続々と使徒が天界に集まりだす。

 来たものから順番に指示を与えて仕事をさせる。


 今回の作戦は力業だ。

 つまりどういうことかというと、この城塞都市内部を虱潰しに探すのである。


 使徒は千里眼を用いることで世界を監視できる能力を持っている。

 それぞれの使徒に調べる場所を指示して、その周辺にある場所すべてを探させるのだ。

 あとは建物の中にいようが、地下に潜っていようが関係ない。

 

 使徒は全てを見通す。

 何人も僕たちの目から逃れることはできない。

 後はもう時間の問題だ。


 さて聖女よ、どこにいる?

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