出し物6 講談 二流斎 泥酔

 ようこそ、いらっしゃいました。二流斎にりゅうさい泥酔でいすいと申します。


 生きていると色んな不公平を感じるものですが、どんな貧乏人でも大金持ちでも、必ず一度は皆死にます。

 唯一の平等は死ぬ事だと言うのは言い過ぎでしょうか?

 また、人によっては生まれて来なければ良かったなどと言う人もいるようですが、生まれ得ること、生まれ得ないことは、平等に起きる事ではございません。


 さて、若い時は、死ぬってどんな感じなんだろう、死ぬ瞬間てどんな感じなんだろう、死んだらどうなるんだろう、などと漠然と死に対して怯えを感じたものです。


 人間50歳ごじゅうも超えますと死と言うものを改めてリアルに感じ始めます。

 自分の老いも当然自覚しますが、同時に親が死を迎えます。

 死ぬ間際まで元気でいる事をピンピンコロリ、その反対に、長く病気で寝たきりのまま死んで行く事をネンネンコロリなどと言います。

 どちらが良いかは一概には言えませんが、経済的にはネンネンコロリの方が負担が大きいものです。


 一人暮らしをしていた父が入院したのは86歳の晩秋でした。

 脊椎せきつい圧迫骨折と腰椎ようついすべり症が原因で坐骨ざこつい神経痛をわずらいました。

 一人で歩く事もままならないため整形外科へ連れて行きました。

 診察の結果、高齢のため手術を避け、入院してリハビリを受ける事になりました。

 年金暮らし低所得でしたので月の医療費は最大6万円ろくまん弱で済みますが、この他に入院食代、ベッド代を合わせて5万円ごまん、他にテレビ、冷蔵庫の利用料、入院着、下着のレンタルとその洗濯代に6万円ろくまんと何だかんだで月17万円じゅうななまんほど掛かります。

 とても月12~3万円の年金だけでは賄えません。

 加えて入院出来るのは最大90日と決められていて、その後は、快復していてもいなくても放り出されます。

 私が面倒を見てやれれば良いのですが、一人もんの上、父とは遠く離れてこんな商売をしているので、それもままなりません。

 主治医の説明では、理学療法と作業療法の併用でリハビリを行うとの事でした。

 月に一度、経過を医者を聴くことになっていましたが、結局、快復することはありませんでした。


 3回目の経過説明の時には医師の他にソーシャルワーカーが同席しました。

 快復しないまま退院してもその後の生活の目処が立たないからです。

 入院前に遅蒔きながら市役所に父の介護認定の申請をしており、結果、要介護1と言われていました。

 老人介護施設にお世話になる事にしましたが、色んな施設があり、費用も千差万別で困惑しました。

 経済的には特別養護老人ホームが一番良いのですが、要介護3以上でなければ入所できません。

 要介護1で入所可能な住宅型有料老人ホームで比較的安い所をソーシャルワーカーに探してもらいました。


 安いと言っても家賃に食費に管理料、その他諸経費を入れると月13万円を超えます。その他に介護サービス料がかかります。介護保険で賄えるのは1割負担で計算して月1万7千円弱までのサービスです。これを超えると保険が効きません。

 この時点で年金だけでは足りません。


 実家は父が現役の時に買った建て売り住宅です。

 ローンは払い終わりましたが、老人ホーム入居はとは別に維持して行かなければなりません。

 売りに出しても直ぐには買い手もつきません。父が存命の間はまたいつ、施設を出て家に戻る事になるやも知れません。

 そんな訳で実家の光熱水費の基本料金やNHK受信料、土地と家屋の固定資産税も支払い続けねばなりません。


 その上、老人ホームにいる間に病気になって医療施設に入院することになればさらに医療費がかかります。

 病状によっては、老人ホームの退去の判断も難しくなります。


 なんと言う地獄でしょうか?


 不足分の資金は何とか私が捻出しなければなりません。


 どうか皆様、高座に足をお運びください。


 人はただでは死ねないと言うお話でした。

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