第4話
「小森、ノート取りたいんだけど」
「あ、浩輔」
たいへん迷惑そうな顔をして声をかけてきたのは、百瀬浩輔。彼も和葉と同じ、私の幼馴染である。無愛想なところもあるけど、いつも真面目で、このクラスの学級委員長だ。
そして今私がご飯を食べるのに借りていた、机の主だ。話に夢中で、人が近くにいることに気づかなかったのは私の悪い癖だ。
「あ、ごめんね。はい」
「...はいじゃなくて、どけよ」
「あーはいはい」
机の中から取りやすようにと、椅子を下げて離れたのだけれど、椅子から立つようにと指示された。ノートくらいヒョイっと取れないものかしら...?
「あ!そうだ。浩輔も花火おいでよ」
和葉は心なしかニヤニヤしながら、浩輔に言った。また話に主語がない。浩輔の顔にはハテナが浮かんでいるぞ。
「花火?」
「そー。夏休み、うちでやるから。隣だしすぐでしょ?」
「篠崎んちで?...いつ?」
「今決めてるとこ〜。ね、花もいいよね?」
「もちろん。浩輔と遊ぶの久しぶりだし、嬉しいね!おいでよ!」
「...塾とかあるから...わかんねーけど、日付決まったら教えろ」
浩輔はそれだけ言うと、ノートを取ってさっさとどこかへ行ってしまった。高校最後の夏休みも、塾や補習で潰れそうだと、前に友達と話していたのを聞いたことを思い出した。
休みが無くなるほど、勉強するのか...
昔は3人で、鬼ごっこやら、かくれんぼやら、よく遊んだものだけど...中学生になった頃くらいからいつの間にか、ほとんど話すこともなくなったように感じる。
部活や勉強で忙しくなった、と言うことはあるけど、男女の友だちというものはそんなものなのかと少し寂しくなったのを覚えている。
浩輔が私たちの名前を苗字で呼び始めたのも、そのころかもしれない。最初は慣れなくて、こそばゆい感じだったけど、いつの間にか慣れるものだ。
「さ!そうと決まればさっさと決めてくよ〜」
私はふと目に入った和葉のスケジュール帳の日付に、ハートのマークがされてあることに気がついた。
「あれー?和葉、それは?」
「ふふ...先輩の誕生日なんだよね」
和葉は少し照れたようにはにかんだ。高校に入ってしばらくして、同じ部活の先輩だった人にに告白されてから、今でも仲良くお付き合いしているそうだ。
先輩の話をするときは、和葉らいつも少し恥ずかしそうに笑う。とても可愛らしく、ちょっぴり羨ましい。
将来のことをちゃんと決めて、しっかり努力を続ける浩輔と、大切な人と大切な時間を過ごしている和葉。私はなんだか、自分だけ置いてきぼりにされたような、そんな気持ちになった。
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