第3話

 あれから2週間ほど過ぎて、佐倉くんは制服で登校してくるようになった。ただでさえ転校生なんてこない学校で、都会からハーフのイケメンが来たとあってか、学校中の話題となっている。明るくて、爽やかな彼はすぐに友人もできたようだった。


「花、ほんとラッキーだったよね」

 お昼の休み時間、教室でご飯を食べながら友人の和葉が言った。彼女はいつも話がコロコロ変わるし、主語がないので理解するのに時間がかかってしまうが、最近の話題は決まって彼のことだ。


「佐倉くんのこと?ラッキーって、席が隣なだけだけど...まぁ、毎日眼福ではあるけど」

「眼福ってあんた、おっさんじゃないんだから。」

 お弁当を食べ終えた和葉は、片付けながらため息をついた。しかし、おっさんはないだろう。ちょっとだけ、むくれてみせる。


「話したりしないの?」

「話すよ。教科書とかまだ持ってない教科は、見せてあげたりしてるし」

「それだけ?」

「うーん?たまーに世間話したりは、するかな?」

「はぁ」

 どうやら、彼女の納得する答えでは無かったらしい。


 篠崎和葉は保育園からの幼馴染で、家も近く、よく遊んでいる友人だ。頭が良く、面倒見の良い性格の彼女には何かとお世話になっている。


 そんな彼女は、私に何を求めているのやら...

 佐倉くんの秘密情報なら、残念ながらそんなものは知らないので、今回も私は役に立ちそうにないな。


「まぁ、いいやいいや。それより、夏休み!どっか遊びに行かない?」

 これ以上話しても無駄だと感じたのか、また話が変わった。


「いいね!海にも行きたいし、とりあえず花火したいかな」

「花火か...なら、うちに泊まりにおいでよ。バーベキューもしようよ!お父さんにお願いしとく」

「ほんと?それは楽しみ!他にも予定立てよう」

 わたしは、鞄の中からスケジュール帳を取り出した。これは、3年に上がる前にお小遣いで買ったものだが、ほとんど遊びの予定しか書かれていない。


 学校でもスマホを使えればこんなものいらないのになぁ...と思いつつ、このアナログさは案外気に入っている。

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