豚マグロ
豚肉が腐ってしまったので養殖業者の森重はそれをマグロのイケスのなかにほうりこんでマグロのエサにしてしまった。妻がまたぶうぶう言い出す前によくないものはこのように有効利用するのがいいと思った。それで森重はテレビを見て寝た。翌朝はオレンジ色の陽光が山の高みのその上からなにかの後光のように照りつける変な天気だった。
卸業者が来てマグロを一匹くれというので、それなりの重さのものを掴み取って殺し、血を抜いて業者に渡した。業者はありがとうといって帰っていった。
その夜電話のベルが鳴り響き、妻が電話を取り、はいはいと話を聞いて、そのあと世にも奇妙なことを聞いたというような顔で電話に変わってくれるようにと森重に言った。森重が電話に出るとそれは昼間に来た卸売業者からで、今日売ってもらったマグロを食ったら豚肉の味がしたというのだった。
生で食った客が食中毒でばたばた倒れている。魚を食べて発症する食中毒ではない。どうにもあのマグロは豚肉になってしまっていたようだった。前日たわむれにやった腐った豚肉が悪かったのだろうか。
事実問題はとにかく問題に寄って生じた赤字は払ってもらうからなと業者は怒鳴り電話を切った。いったいどういうことなんだと森重は満月の白い光の照らすなか、家から歩いて一○分ほどのところにあるマグロのイケスに向かった。何が起きているのかを見定めねばならなかった。
前日に豚肉をやったイケスのすべてのマグロが腹を上に出して死んでいた。腐った豚肉のにおいがした。そりゃあそうだ、豚はエラ呼吸なんかできない。森重はやけに冷静にそう考えた。大問題が起きたのに、だ。彼は急いで家に帰った。
それで、冷蔵庫にあった天然マグロの刺身を持ってきた。これをまだマグロが生きているほうのイケスに投げ込んでエサとして食わせた。次の日の朝、養殖マグロは天然マグロになっていた。それでマグロは高く売れた。このもうけで森重は豚マグロを売って出してしまった赤字を清算した。めでたしめでたし。
食い物怪談 yoshitora yoshitora @yoshitora_yoshitora
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