変身(フランツ・カフカに捧ぐ)

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変身(フランツ・カフカに捧ぐ)

 人間がみんなナメクジになってしまった。

 動きが遅いし、何の目的もなくうろうろしている。

 そもそも、自分がナメクジになってしまってどうしようとか、そういうことも考え及ばない。

 ただ、六本木とか新宿とか赤羽とか青梅とかで大きなナメクジがうろうろしている。

 季節は夏である。隅っこの陰でのらりくらりしていればいいのに、もともと自己主張の強い人間から変身したナメクジは、往来の真ん中を蠢こうとする。結果、日射にやられて干からびて死んでしまう。

 逆にコンビニは涼しいが、涼しすぎる。誤って冷蔵庫の中や冷凍庫の上に身を置いてしまったナメクジが体を壊して死んでいく。

 ソープなどの風俗では、ナメクジが体を売っていた。スケベなナメクジがこのサービスを受けに来る。といっても、二人(二匹?)してぬめぬめの体をすりあわせるだけの話で、どんな快楽があるわけでもないし、そこに快楽があっても、ナメクジがそれを感じ取れるかどうかはわからない。

 通勤電車に乗ったナメクジ。動きが遅いので電車から降りられない。車両のドアに体を挟まれて二つにちぎられて死んでいく。

 居酒屋に来たナメクジ。レモンサワーを飲みながらイカの塩辛を食べようとするが、双方に入っている塩分により口が腐って何も食べられなくなる。

 書店でカフカの「変身」(主人公がある日突然大きな毒虫になり、家族に迷惑をかけて最後に死んでしまう小説)を読もうとするナメクジも出てきた。しかし、目がないから見えない(ナメクジの角は触覚であり、視覚器官ではない)し、そもそも文字も読めないし、本の頁を繰ることすらできない。

 高級料理店では、ナメクジたちがエスカルゴを食べている。共食いなのか、微妙なところだ。

 空にはカメムシが飛んでいる。大きなカメムシだ。元々はやはり人間なのだろうか。

 大型プール(や、その辺の田畑でも)では、ゲンゴロウやタガメなどが泳いでいて、互いに食べあっている。

 このような虫の王国ができたあらましは誰にもわからないし、私にもわからないが、それが真実である。これから世界を席巻していくのは、どの種族なのだろうか。

 そんなことを私が考えているかどうかももうわからない。私もナメクジだからだ。

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