第7話 水族館にて その4

俺と文香はアトラクションを出た。

お互いに先ほど渡された得点カードは伏せている。


「じゃあ、いくよ」

「ああ、望むところだ」

「「せーのっ」」


文香50000点。カリスマプロ深海ハンター級。

俺14500点。駆け出し深海ハンター級。


「…下がってる」

「じゃあ、約束通り、深海プリンおごってね」

「ぐぬぬぬ」


俺は近くの売店で、深海プリンを二つ買うと、水族館の前のベンチに座っていた彼女のところへ戻ってきた。


「はい、これ」

「ありがとう」


俺もベンチに座りながら、深海プリンを食べ始める。

プリンの表面には深海を模した青いゼリーが乗っていた。


そして俺はそれを見て閃く。スマホを左手に持ち、準備万端。

よし、これがラストチャンスだ!!


「なあ、文香?こっち見て」

「ん?」

「『深海の主』」


俺は目をつぶり、青いゼリーを丸めて瞼に乗せた。

まるで青い目の化け物に見えるだろう。


「ねえ」

「ん?」

「それでどうやって写真撮るの?」


ぐわああああああ。


***


プリンを食べ終えた俺は腕時計を見つめる。

時刻は17時。そろそろ帰る時間だろう。


俺は隣の文香を見つめた。相も変わらず無表情のままだ。


文香。


文香は…俺といて楽しいのかな。


最近、文香と同じ高校に行った谷川からよく文香の話を聞く。

以前からは考え付かないくらい明るくなったと。

女の子の友達も増えたそうだ。

それに…男子とも上手くしゃべれるようになったとも。


俺からはにわかには信じられない。あの頃と変わっていないように思えるからだ。

だから、馬鹿みたいだって思ってるのに。

ある思いが俺の中で芽生えて消えない。


文香。

…他に好きな男…できたのか?


卒業式の日、校庭の真ん中で文香に告白した日。

文香は背中を向けたままこちらを振り向かなかった。


俺は振られたと思った。そりゃそうだ。元々他に好きな人がいるって言ってたんだから。

いや、それ以前の問題か?


でも…


『よろしくお願いします。』


背中を向けた文香の震えるような声を聴いた瞬間、俺は踊りだしてしまった。

人生で一番。間違いなく一番うれしかった瞬間だった。


「文香」

「ん?」

「そろそろ、行くか」

「そう…だね」

そして、俺は先に立ち上がる。

後ろで文香も立ち上がる音がした。


前を見上げる。

沈みかけた夕日がとても綺麗だと思った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る