次の火曜日(1)

「七星さーん、晴彦くんとはどうですかー?」


 週が明けて火曜日のお昼、紗香が会って早々に小突いてきた。

 紗香とは予定が無ければ毎週火曜日にしか会ってないけど、柚月から話を聞いたのかもしれない。見たことないくらい、にやにやしている。


「あー、ぼちぼち?」


「何それ。なんかめっちゃ乙女してるって聞いたのに」


「してるはしてるんだけど……」


 私が口ごもると、紗香は怪訝そうな表情を浮かべる。スマホを開いても、通知はショッピングサイトのダイレクトメールだけだ。


 昨日のお昼過ぎから晴彦くんからの返信がパッタリと途絶えている。既読もつかないし、それまでは普通に返信が来ていたので何が何だかわからない。

 紗香に話してLINEの画面も見せたけど、特に変な点は無いみたいで余計に不安になる。


「ずーっとマメに返信来てたから、気になっちゃって」


「すごーい、七星が乙女してる〜」


 茶化した言い方の紗香に、少しムッとする。


「だって心配じゃん」


「まぁね。でも、携帯落としたとかなんじゃないの?」


「そうかなぁ」


「そうだよ。あ、それか七星の気を引きたくてわざと返信してないとか」


「そんなことある?」


 今度は私が怪訝な顔をする番だ。

 彼は先週私に告白をしてるのだ。今更そんな回りくどいことをする意味がわからない。


「わかんないけどね?そうだ、合コンの時の幹事に聞いてみようか。二人、同じ学科って言ってたし、何かあったなら知ってるかもよ」


「……えー、いいの?迷惑じゃない?」


「LINEするだけだし大丈夫だよ」

 紗香はその後幹事くんに晴彦くんが学校に来てるかどうか聞いてくれた。

 すぐには返信が来ないまま、昼食を終えて3限の教室に向かう。今週は紗香も出席するらしい。


「そう言えば聞いた?絵美、合コンの時に一緒にいた男の子と昨日付き合って昨日別れたんだって」


 先々週の週末のことを思い出す。そう言えば合コンの一次会の後、絵美は男の子と一緒に離脱していた。

 私も絵美も連絡無精なところがあるから、仲は良いけど会わない限りは話さない。


「告白されてオッケーした途端に家誘われて無理になったらしい」


「あー、絵美そういうの嫌いだもんね」


「まぁ付き合ったその日は引くよね。そのまま別れちゃう絵美も絵美だと思うけど」


 私は苦笑する。


 高校時代から恋バナが大好きなのは変わらないけど、大学生になってからそういう話を聞くことは随分増えた。

 最初は恥ずかしくてみんな顔を赤くしてヒソヒソ話してたのに、慣れとは怖いものである。


「柚月も合わないって言ってたし、あの日の合コンで彼氏ゲットしたの七星だけかー」


「別に付き合ってるわけじゃないんですけど」


「そうでした、まだでした」


「ちょっと」


 またにやにやし始めた紗香の背を突きながら、定位置みたいになってる教室の端っこの席に座る。


 紗香がスマホを取り出してSNSを眺めるのを見て、まだ例のアカウントの友達申請を承諾していないのを思い出した。

 正体不明のカメラマンより、晴彦くんのことで頭がいっぱいだったことに気づいてむず痒くなる。


 ついでに紗香にも写真展での話をしようと思いながら、私もアプリを開いた。


「でもさぁ、もし本当に晴彦くんと七星が付き合って結婚とかしたらだいぶ面白いよね」


「何それ」


「だって七星、ナナセナナセになるじゃん」


「え?何?」


 聞き返すと、紗香は呆れたような表情を浮かべた。


「あー、あんたまた人の名前覚えてないでしょ。好きな人の名前くらいちゃんと覚えときなって」


「……どういうこと?」


「晴彦くんの名字、ナナセって言うんだよ」


 ナナセ。

 聞き慣れた音だ。だって私の名前だから。


 『君らとタメの、ナナセって男の子』


 少しずつ自分の心臓の音が大きくなっていく気がする。

 スマホを見ると、まだ削除していないはずなのに、あのアカウントからの友達申請が消えていた。

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