土曜日(1)
晴彦くんとは火曜日の夜からずっとやり取りが続いている。
晴彦くんはイメージに反して真面目な学生らしくて、授業中だと全く返信が来ない。でもそれ以外の時間はすぐ返ってくる。
本当にすぐ返ってくるので、思わず「早過ぎ」と送ると「通知溜まってるの嫌なんだ。花宮さんは自分のペースで良いよ」と返って来た。
この返信もすぐ来たのでちょっと笑ってしまった。
お言葉に甘えて私は気づいた時に返すようにしてる。
でもなんとなく気になってスマホを見ちゃうから、やっぱりいつもより早めに返信はしてしまっている気がする。
「手練れだね」
柚月がにやにやしながら言う。
今日は二人で一緒に取ってる授業のレポートを書く為に美術館に行く予定だ。
駅から向かう最中で、ここ一週間の晴彦くんとのことを話した。
「やっぱり?私もそう思う」
「七星、元カノとかあんまり気にしないタイプじゃん。流石に慣れてるのは嫌?」
「ううん。でも女の子扱いされるの、なんか恥ずかしくてダメ。てか甘酸っぱくて無理」
「まぁね、高校の時の話聞いてるみたいだもん」
「だよね?だよね?20歳になってこれは恥ずかしいよね?」
紗香と柚月と私は高校が一緒で、中でも柚月とは高2で同じクラスになってからずっと仲良くしている。
紗香とは別のクラスだったけど大学になって同じ学科だったから仲良くなった。
紗香と柚月は高1の時同じクラスだったらしい。三人で集まることはあんまり無いけど、三人とも馬が合う。
「スマホ見つめてソワソワしたり、帰りの電車でいないかな〜って探してみたり、自分が恋する乙女すぎて気持ち悪い……」
「まぁまぁ良いじゃないの。七星は高校時代ほとんど琴以外に興味無かったから、私は新鮮で楽しいわ」
「柚月は?柚月も合コンの時にいた人気になるって言ってたんでしょ?」
「うーん、無しかなぁ。直接話した時は面白い人だなーと思ったんだけど、2人で話してると微妙かもと思っちゃって」
「柚月、老け専だしね」
「老け専じゃないって!たまたま好きになった人にアラサーが多いだけ!」
柚月は美人で、高校時代からモテモテだった。
でも本人は先生とか社会人ばっかり好きになってたから、老け専だといじられまくってる。今でもそれは健在で、2ヶ月前に別れた彼氏も28歳の社会人だったはずだ。
「とりあえずは楽しんでおいたら?あんた生娘でもないし」
「やめてよそんな……おじさんみたい……」
「失礼な。でもそうじゃない?初めてがかかってたら慎重にもなるけど、諸々済ませてるんだから万が一上手くいかなくても大した傷にはならなさそうじゃん」
「えー、まぁ、確かに」
柚月の言うことにやたらと納得してしまう。
晴彦くんには申し訳ない気がするけど、たぶんこんな青春みたいな経験は人生で最後の機会になるだろうし、素直にこの状況を楽しんでしまうのもアリかもしれない。
その後も柚月とお喋りしながら、今日の目的である美術館を見て回る。
正直美術についてはよくわからない。
柚月は美術館とか博物館が好きなので、自然と私が柚月について回る形になった。
「あ、そういえばさ、近くで知り合いが写真展やってるんだけど、七星、暇だったら一緒に行かない?」
「どんなの?」
「なんか若い写真家の写真集めてるんだって。入館無料だし、どう?」
「良いよ。てか何の知り合い?」
「元カレの友達」
「あ、なるほど……」
美術館を出てカフェでレポート用にメモをまとめてから、その写真展に向かう。
ガラス張りのおしゃれな建物で、中はパーテーションで区切られ、あちこちに写真が貼られていた。初めての空間なのでちょっとビビってしまう。
柚月の知り合いが受付にいたので、軽く挨拶をして中に入る。髭の生えた30歳くらいの男の人だった。
次の彼氏候補?と柚月に聞くと思いっきりつねられる。
写真は写真家ごとに2,3枚ずつ、学校で撮る集合写真サイズの物からチェキで撮った物まで大小様々、色んな雰囲気の写真が飾られていた。
何を写したのかよくわからないものもあるけど、普通にお花とか、女の子をモデルにしたものもあって美術館よりよっぽど見てて楽しい。
写真のそばに撮った人についてのプロフィールが載っていて、その人のSNSのIDや連絡先が書かれている。たぶんこうやってファンを増やすのが目的なんだろう。
「ちょっとこっち来て」
私より数歩先のところで見てた柚月が、小声で私を引っ張る。
何かと思って連れて来られた写真を見て、私は息を飲んだ。
「ねぇ、これ七星だよね?」
「う、ん」
写真はステージの上で着物を着て琴を弾いている──私の写真だった。
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