発見と危機

 目の前の、部屋に設置された謎の画面の数々。


 ――これを使えば、あいつらの場所を把握できるんじゃないか?


 そう考えた俺はモニターを使ってみることに。

 だけど、数が多い。画面が小さいから5人を見つけ出すのには時間がかかる。


 うーん、頑張るしかないのかな。

 上手くいかないことで頭を抱えていると、机の上で何かが光ったのを見つけた。


「……何だ、これ?」


 机の上を確認すると、黒い機械が置いてるた。

 見た感じだと、何かのタブレット端末みたいだ。ちゃんと使えるのか?


 わからないけど。とりあえず、弄ってみることに。最初は手間取ったけど、フリックで別のカメラの視点で切り替えられることに気づいたら、楽々と操作できた。

 モニターから探すより遥かに早そうだな。これで、あいつらを探ってみた。


『…………』

 

 この階の監視室と逆に位置する部屋で“鈴に似た何か”を見つけた。

 狭苦しそうな小部屋で、一心不乱にゲーム中だ。

 こんな状況でもゲームって、まるで鈴みたいだというか。そんなことを思った。

 だけど、あの部屋に入れば、アイツが言ってたみたいに絞殺か毒殺される。

 でも、出てくる様子はまったくなさそうだし、ひとまずは大丈夫みたいだな。


『かなり出遅れちゃった……どこにいるのよ、あいつは』


 次に、2階から3階へ階段を上がる“詩織に似た何か”が見えた。

 手には継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみ。不気味な造形で、中に金具のようなものが埋め込まれている?

 まあ、何であっても気味が悪かった。3階に行ったみたいだが、油断はできない。

 

『~~~♪』


 3階の大部屋、最初にあの怪物共が集まっていた部屋には“ゆのねぇに似た何か”

 お茶とお菓子を迅速かつ上品に食べ物を口に運ぶ姿は、彼女そのものだけど。

 もしかして、こいつら元々の人物の性格や行動を受け継いでるのかよ?


 ……あの野郎。そんなところまで似せやがって。

 さっきまでの恐怖はもう慣れて、自分が置かれた状況の怒りに変わっていた。


『なーちゃぁん! 道也に逃げられちゃったよぉ……』

『そ、そうなんですか……。2階に行かれたんですよね?』

『うん、7つ全部の部屋を調べたんだけど……影も形もなくて』

『えっ? 2階は部屋が合計で8つだったと思うんですけど……』


 だけど、次の映像の、この言葉を聞いた瞬間。俺の本能が警鐘を鳴らした。


『そうなの?』

『はい。もしかして見落としたんじゃないですか?』

『うーん、そんなことないと思うんだけどなぁ』

『なら、一緒に探しに行きませんか? ちょうど出来上がったんです』


 怪物が嬉しそうにする先には――“料理”とは呼べない何かがあった。


 ここからだと大まかな確認しかできない。けど、スープの色が紫や黒が混じった赤に彩られていて、具材はぶよぶよとしたものが浮き沈みしている。

 その他の料理だって、どれもこれもが狂気じみてやがった。あんなものを口に入れられたら、一発で頭がおかしくなってしまいそうだ。


 だけど、料理よりも今はこいつらのやり取りが気になっていた。

 2階に部屋は8つあったはず。部屋のモニターを数えてみても同じ数だった。

 そして、あの時の怪物は2階の部屋を全て探索している。

 ……つまり、あいつが見落とした部屋のことは、ここのことだと考えられる。

 

『わー、美味しそー! なら私となーちゃん、2人で道也を楽しもうか!』

『あっ、でも照先輩より私を先にしてくださいねっ!』

『そっか、燃やしちゃったらご飯を食べられないもんね。わかったよ!』


 すなわち、今度こそ怪物がこの部屋にやってくる!!

 ……ど、どうすれば良いんだ。無い頭で、色々と考えようとしてみる。


「あ、あれ?」


 すると突然、部屋が暗くなり初めた。小刻みに点滅している。


 ――原因はわからないけど、とにかく今は早く出ないと……!


 2階の通路に誰も居ないのを確認して、部屋を出る。

 扉を開ける時に出た金具の音で肝を冷やすが、大丈夫みたいだった。

 ここの通路は薄暗い。嫌な不安を扇動するようだった。だけど、アイツラが来る以上……進むしかない。素早く、何より慎重に進んでいく。

 とりあえず監視室から拝借した端末で2人の位置を確認して……すぐに止めた。


 ――こつ……こつ……こつ……


 階段から微かな足音。聞こえたのは2つだから、あいつらだ。

 あの2人、もう来やがったのかよ。いくら何でも早すぎやしないか!?

 焦った俺は、目の前に見えた監視室、隣の部屋に入った。ギリギリセーフか。


『ほら、ここです。この重々しい鉄の扉の部屋です』

『ほんとだ。……何でさっきは見落としてたんだろ、こんな目立つの』


 扉の向こう側から2人の声が聞こえてくる。

 あの部屋の中みたいだ。……確かにそれは変だよな。何でだろ?


 まあ、とりあえずアイツラから逃げることだけを考えようか。

 俺の位置がバレてないみたいだし、このまま悪夢が終わるまで隠れていて――


『ここにも居ないかー! 違う階に行っちゃったんかな?』

『いいえ。道也先輩は2階に居ます。近くの部屋から匂いがしますから』


 ダメだった。あれには、何故か俺の匂いが嗅ぎ取れるらしい。

 くそっ。あいつさえ居なければ、ずっと部屋の中で隠れ続けられたのに!


 2人が監視室から出ない内に部屋を出て、中央の階段の方に向かう。

 再び隠れるために、右側の部屋に逃げ込むようにドアを開いた。その時だった。


『キシャアアアァァァっっっ!!!』

「うおぉっ!?」

 

 部屋から何かが飛び出してきて、俺の右手に噛み付いてきた!

 急な激痛に耐えながら……その影を見てみると。詩織のぬいぐるみが、俺の手を食いちぎろうと歯を立てていた。

 何とか引き剥がそうとして、なんとか離れてくれた。安心して息を吐いた。


「――見つけた」


 その、つかの間。俺の耳に入った雑音混じりの声。

 ……後ろを向いて、姿を確認しなくたって分かった。詩織だった。

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